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蛍の光

作者: とりとり

桜の木の下で、京介が大きく手を振っている。

笑顔で体が左右に揺れるほどブンブンと楽しげだ。


「またなー!元気でなー!」

「うん!また会おうな!元気でなー!」


大きい声で別れの言葉をお互い言い合う。

車の窓を開けて、清之進もぶんぶんと手を振る。


卒業と共に都へ帰る。

この村へ来る時から、決まっていたことだ。


肺の病に罹った為、清之進はこの地へ来た。

来たばかりの時は、白い肌に細い腕だった。

今は日に焼けて、まだ春だというのに少し浅黒い。すっかり村の若者になっていた。


村の子供たちは、素直でやんちゃで温かかった。

都から病弱な子供に興味津々で近付いて、揶揄おうにも清之進は弱すぎた。


今にも事切れそうな儚さで、見たこともない綺麗な顔であまりにも美しくて、子供たちは夢中になった。


声をかける勇気はなくて、窓が開いてると花を摘み窓際にそっと置いた。

乳母がそれを見つけては、花瓶に生けて飾った。


たまに花を置く時に気付いて目が合うと、清之進はふわりと微笑んだ。


「ありがとう」


優しくお礼を言われた子供たちは、顔を真っ赤にして逃げて行った。

でも、いつも寝ている清之進に、徐々に子供たちは飽きていった。外で遊びまわる方が楽しかった。


京介だけが、ずっとずっと花を贈った。


数ヶ月過ぎると元気になっていき、動けるようになった時に初めて京介と清之進は話をした。


「君の名前は何て言うの?」

「き、京介…おま…キ、キミは?」

「僕は清之進」

「…え?男?」

「うん。そうだよ?」


サラリと肩まであった綺麗な黒髪を揺らしながら、清之進は首を傾げる。


京介の淡い初恋は、この日終わった。


清之進は、元気になると活発な子供だった。

嬉しそうに駆け回り、村の子供たちとも遊んだ。


綺麗な髪もバッサリ短くしていた。

綺麗な顔はそのままだったが、病室にいた儚い美少女の雰囲気は消え去っていた。


元気になったら戻るという約束らしいが、清之進は戻らなかった。冬になると熱を出し、咳をした。


まだ、この地で身体を鍛えた方がいいとなったらしい。


1年か2年で戻る予定が、いつの間にか5年経っていた。学校にも通えていたので、卒業したら戻ることになった。


京介も清之進もすっかり逞しくなっていた。

二人は、ずっと良い友人だった。


こんな村では読めないような書物が都から運ばれて、清之進は博識だった。

彼は、様々なことを京介に話してくれた。


灯りの付いた静かな部屋で、何時間も語り合った。

京介は、水を得た魚のように目を輝かせ、夢中になって学んだ。


知識を得て世界が見えてくると、清之進と自分の身分の差を思い知る。

卒業したら、二度と関わることはないだろう。


清之進のおかげで、京介は教職に就くことができた。

清之進は都に帰って、身分に合った仕事に携わる。


卒業式が近づいたある日、一度だけ清之進と京介は手を繋ぎながら涙した。

一生の友なのに、この先会えるのは記憶の中だけだ。

子供のようにボロボロと二人は泣いた。


とうとう卒業の日。別れの日。

二人はどちらともなく、泣くまいと決めていた。

笑顔で別れよう。最後の思い出は楽しいものがいい。


「じゃあな。達者でな」

「ああ、お前も…達者で」


清之進の口元が、歪みそうになる。

深呼吸をして、笑顔を作った。


車に乗ると、発進しだす。

桜の木の下で、京介は笑顔で手を振っていた。


窓から手を振っている清之進が、小さくなっていく。

京介は、手を振り続けた。笑顔を作っているのに、涙が勝手に流れていく。


姿が見えなくなるまで、ずっとずっと手を振り続けた。

散っていく桜の香りに、胸が締め付けられ息が詰まる。


思い出すのは綺麗な瞳。

楽しそうに笑う顔。

友人で、いれるだけでよかった。


姿が見えなくなって、京介はやっと声を出して泣くことができた。涙と一緒に、ポツリと溢れた。


「……好きだった」


満開の桜は花びらを散らしながら、涙を流す京介を隠してくれた。





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