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蛍の光

作者: とりとり
掲載日:2025/10/29

桜の木の下で、京介が大きく手を振っている。

笑顔で体が左右に揺れるほどブンブンと楽しげだ。


「またなー!元気でなー!」

「うん!また会おうな!元気でなー!」


大きい声で別れの言葉をお互い言い合う。

車の窓を開けて、清之進もぶんぶんと手を振る。


卒業と共に都へ帰る。

この村へ来る時から、決まっていたことだ。


肺の病に罹った為、清之進はこの地へ来た。

来たばかりの時は、白い肌に細い腕だった。

今は日に焼けて、まだ春だというのに少し浅黒い。すっかり村の若者になっていた。


村の子供たちは、素直でやんちゃで温かかった。

都から病弱な子供に興味津々で近付いて、揶揄おうにも清之進は弱すぎた。


今にも事切れそうな儚さで、見たこともない綺麗な顔であまりにも美しくて、子供たちは夢中になった。


声をかける勇気はなくて、窓が開いてると花を摘み窓際にそっと置いた。

乳母がそれを見つけては、花瓶に生けて飾った。


たまに花を置く時に気付いて目が合うと、清之進はふわりと微笑んだ。


「ありがとう」


優しくお礼を言われた子供たちは、顔を真っ赤にして逃げて行った。

でも、いつも寝ている清之進に、徐々に子供たちは飽きていった。外で遊びまわる方が楽しかった。


京介だけが、ずっとずっと花を贈った。


数ヶ月過ぎると元気になっていき、動けるようになった時に初めて京介と清之進は話をした。


「君の名前は何て言うの?」

「き、京介…おま…キ、キミは?」

「僕は清之進」

「…え?男?」

「うん。そうだよ?」


サラリと肩まであった綺麗な黒髪を揺らしながら、清之進は首を傾げる。


京介の淡い初恋は、この日終わった。


清之進は、元気になると活発な子供だった。

嬉しそうに駆け回り、村の子供たちとも遊んだ。


綺麗な髪もバッサリ短くしていた。

綺麗な顔はそのままだったが、病室にいた儚い美少女の雰囲気は消え去っていた。


元気になったら戻るという約束らしいが、清之進は戻らなかった。冬になると熱を出し、咳をした。


まだ、この地で身体を鍛えた方がいいとなったらしい。


1年か2年で戻る予定が、いつの間にか5年経っていた。学校にも通えていたので、卒業したら戻ることになった。


京介も清之進もすっかり逞しくなっていた。

二人は、ずっと良い友人だった。


こんな村では読めないような書物が都から運ばれて、清之進は博識だった。

彼は、様々なことを京介に話してくれた。


灯りの付いた静かな部屋で、何時間も語り合った。

京介は、水を得た魚のように目を輝かせ、夢中になって学んだ。


知識を得て世界が見えてくると、清之進と自分の身分の差を思い知る。

卒業したら、二度と関わることはないだろう。


清之進のおかげで、京介は教職に就くことができた。

清之進は都に帰って、身分に合った仕事に携わる。


卒業式が近づいたある日、一度だけ清之進と京介は手を繋ぎながら涙した。

一生の友なのに、この先会えるのは記憶の中だけだ。

子供のようにボロボロと二人は泣いた。


とうとう卒業の日。別れの日。

二人はどちらともなく、泣くまいと決めていた。

笑顔で別れよう。最後の思い出は楽しいものがいい。


「じゃあな。達者でな」

「ああ、お前も…達者で」


清之進の口元が、歪みそうになる。

深呼吸をして、笑顔を作った。


車に乗ると、発進しだす。

桜の木の下で、京介は笑顔で手を振っていた。


窓から手を振っている清之進が、小さくなっていく。

京介は、手を振り続けた。笑顔を作っているのに、涙が勝手に流れていく。


姿が見えなくなるまで、ずっとずっと手を振り続けた。

散っていく桜の香りに、胸が締め付けられ息が詰まる。


思い出すのは綺麗な瞳。

楽しそうに笑う顔。

友人で、いれるだけでよかった。


姿が見えなくなって、京介はやっと声を出して泣くことができた。涙と一緒に、ポツリと溢れた。


「……好きだった」


満開の桜は花びらを散らしながら、涙を流す京介を隠してくれた。





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