表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<前編>~二人の約束~
7/51

ーー第7話 「少女という灯り」ーー

 ーーそして、『憤怒』が現れる。

森の奥で鳴り響く雷の音は街にまで届いていた。


 ……色欲さんの言った通り、私はその音を聞く前に感じていたけれど。



 この異常を、優しいお兄ちゃんは無視できない。

そして森の奥へと向かっていく。……私を安全なところに置いて、行ってしまう。


 ……その先には、あの悪夢が待っているのに。

私だけが知ってるんだ。だから、私はお兄ちゃんを独りにはしない。


 悪夢のようなーー『あの結末』を変えるために、私はここにいるんだから。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー森の奥へと辿り着いた私の瞳に映ったものは、眩いほどの『光』だった。


 光がお兄ちゃんの周りで踊っていた。

……目を凝らしてみると、かろうじて『人の形』に見えた。



 お兄ちゃんは踊る光の中心で、動かない。

その体は、剣で切られた切り傷で血だらけになっていた。



「……っ! お兄ちゃんっっ!」



 私は、見ていられずお兄ちゃんのもとへ走っていた。




 ーーーーいきなり現れた第三者の方へ、戦っていた二人の意識は向けられる。



 そしてーー。



「……っ!? リリーっっ!」



 ーー救世主が叫んだと同時に、踊っていた光が強く輝いた。

そして光は突然現れた『少女』の方へ向かい、その勢いのまま小さな体を貫いた。



 それは一瞬の出来事だった。

救世主が強く輝いた光に、思わず瞬きをした『一瞬』に全てが終わった。



 ……瞬きの後、救世主が見た光景は……

小さな体に二本の剣が突き刺さり、赤い血を流し続ける少女の姿。


 大切な少女の、その瞳から……光が失われていく『悪夢の光景』だった。



「リリーぃぃぃっっっーーーー!」



 救世主は泣き叫び、変わり果てた少女のもとへと駆け寄った。

今や空からの暖かい光は届かず暗闇に包まれた森の中で、悲痛な叫びが響き渡る。


 ……しかし、その叫びは雷のように響く男の声で遮られた。



「救世主よ、なぜ戦う」


「貴様は何のために……誰のために戦っている」


「……まさか人間全てのためとは言わないだろうな」


「あいつらは、我々を暗い地の底へと閉じ込めた。

 ……そんな奴ら全てを守っていたらーー」


「ーー貴様はいつか、本当に大切なものを失うぞ」



 ……救世主にその言葉が届いていたのかは分からない。

ただ、男の言葉が終わっても……遮られた叫びは聞こえなくなっていた。



 ーー沈黙が訪れた。



 …………その沈黙を破ったのは、救世主の小さな呟き。



「……ごめん、リリー。でも、来てくれてありがとう」



 ーーその呟きを聞いた『憤怒』は、

異様なものを感じたのか、救世主を吹き飛ばした。


 まるで何かを……恐れるように。



 ……吹き飛ばされた救世主は、

何事もなかったかのように立ち上がり、変わり果てた少女のもとへと戻ろうとする。


 『憤怒』は直ぐに光となって踊り始めた。

……少女が現れる前の時のように、二つの剣で救世主を切り刻む。



 ーーしかし、救世主の歩みは止まらない。

どれだけ切りつけられようと、瞬く間にその傷が消えていく。


 異常な光景に恐怖したからなのか、『憤怒』は焦ったように急所を狙う。

救世主の心臓を狙い、二つの剣を突き立てた。



 ……突き立てた剣は見事に心臓を貫き、血しぶきが上がった。

しかしそれでも、救世主は歩み続ける。……どす黒い血に染まりながらも、止まることはなかった。



 ーーもはや救世主の瞳には、少女の姿しか映っていなかったのかもしれない。

全身が血に塗れ、赤黒く染まったその姿は……とても『人』とは思えなかった。


 その姿を見てしまった『憤怒』は目に見えて表情を変え、

人ならざる者へ向けて雷を落とす。……何度も何度も、激しい音が鳴り響いた。



 ……森が激しい光と炎に包まれる中、

救世主は少女のもとへと、あと一歩のところまで辿り着く。


 しかし、二人の間には壁があった。



 ……『憤怒』という魔族が立っていた。

ただ茫然と『化け物』を見るような目で救世主を見つめながら、立ち尽くしていた。



「邪魔をしないでくれ」



 ーー救世主はそう呟くと、壁に拳を突き立てて粉々に破壊した。

そうして『雷』は止み、暗闇の中で燃え盛る森に静かな雨が降り始めたのだった。



 ……雨に濡れながら、救世主は変わり果てた少女を優しく抱きしめる。

そして、抱きしめられた少女の体から暖かな淡い光が溢れ出す。


 その光は、冷たくなった少女の体に熱を与えていく。




 ーーーー『色欲』は、一部始終を少女の中から見ていた。


 その瞳には、少女を抱きしめる『救世主』の姿はひどく弱々しく映っていた。


 まるでーー

深い闇の中をさ迷う救世主が、淡い小さな灯りに……

……『少女という小さな灯り』に必死に縋っているように見えたのだーーーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


 ……私の意識は暗闇の中から目覚める。


 最初に感じたのは、温もり。

次に、眩しさ。……そして目を開けたときに見えたのは、お兄ちゃんの顔だった。



「……! ……おにい、ちゃん……?」



 お兄ちゃんは、私を抱きしめながら眠っていた。

よほど疲れたのだろうか、何をしても起きそうにないほど深い眠りだった。



 その目元は赤く腫れていて、泣き疲れた子供みたいに見えたんだ。


 気付いたら私は、お兄ちゃんの頭を撫でちゃってた。

……幼い子をあやすみたいに。



「……よしよし」


「…………り、りぃ…………」


「…………! ……ふふっ」



 ”お兄ちゃんが、私の夢を見てくれてるのかも……!”

ーーそんな風に喜んでいた時、声が聞こえた。



「おはよう」


「……っ! 

 ……びっくりした……どうしたの、色欲さん?」


「…………ずいぶんと、のんびり屋さんね」


「うっ……なんで、いきなりーー」



 ーーそう言い返そうとして、気が付いた。

周りが更地になっていることに。……ここは森の中だったはずなのに。



「……! どう、して……」


「救世主と『憤怒』の戦いのせいよ」


「…………っ! 

 お兄ちゃんは、いる……じゃあ……!」


「……そうよ。

 救世主が勝ったわ」


「……ぅ……! ……よか、ったぁ……!」


「…………

 ……そうね、良かったわね」



 そう呟く色欲さんは、少し元気がなさそうだった。



「……? 

 どうかしたの、色欲さん?」


「…………いえ、

 改めて救世主の『力』は凄いな、と……思って」


「うんっ! 私のお兄ちゃんは凄いんだよっ!」


「……そうね。本当に、凄まじい」



 その時、私は感じた。

……お兄ちゃんの中から、『憤怒』の存在をーー。



「ーー! 

 ……なん、で……」


「ああ、感じたのね。彼の中から『憤怒』を」


「どうして、お兄ちゃんの中に……」


「……これでいいのよ。

 これが、救世主を『ただの人』へと堕とすための方法だから」


「……これが……?」


「そうよ。

 この世界で『七つの大罪』は……」


「……救世主に倒されると、強い想いとなって『彼の中』に吸収されるの」


「……!?」



 色欲さんがすごいことを言ってるけど、

目の前の事実があるから……私は、何も言えなかった。



「その世界の仕組みを利用して、

 彼の中に『強い感情』を埋め込み、誰か一人だけを守るように仕向けるーー」


「ーー救世主が『救世主』たる所以は、

 誰かではなく全員を平等に守ってしまうことだから」


「……! 平等に……」


「……だから強い感情を与えて、彼の心のバランスを崩す」


「そうしたら……

 救世主は人間達から解放されて、自殺に追い込まれることもなくなる」


「…………っ!」


「あなたと、あなたの愛しのお兄さんは……

 ……人のいない、のどかな場所で共に生きることができるの」



 ”お兄ちゃんと一緒に生きれるっ……!”

私の中に暖かい光景が浮かんでくる。……この未来を掴むにはーー。



「ーーそう、未来を掴むために……これからもよろしくね」


「うんっ! よろしく、色欲さんっ!」



 ーーそして色欲さんと話し終えた私は、

色々とあったせいか、疲れて眠たくなっちゃった。


 ……どんどん瞼が重くなっていく。



「…………」


「……でも、驚いた。

 救世主があなたへ向ける『想い』の大きさに」


「…………

 ……この頃にはもう、あなたの存在によって『救世主』は……」


「……………………」


「…………でも、これは私のために必要だから」


「……だから、ごめんね。

 私の願いに付き合わせちゃうことになるかもしれない……」


「まあ、でも……」


「この世界が続く限り、結局『救世主』の方は無理かな。

 ……全てを知った時あなたは、どの道を選ぶんだろうね」



 ーー瞼が下まで落ちちゃう前に、

色欲さんが何か呟いてた気がするけど……睡魔に負けちゃった私には、聞こえなかったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ