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私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<後編>~約束が灯す明日~
50/51

ーー第50話 「選んだ道はどこへゆく」ーー

「生まれ落ちた救世主と呼ばれた彼は『青年の姿』をしていました。

白い翼と大きな大剣を持った彼は……望まれるままに背負った役割の中で生きていきます」


「……彼が生まれてからの出来事は、

  あなたが『大罪たちの過去を巡る旅』で見てきた通りです」


「湧き上がる自身の想いを殺しながら、人間たちが生きていく明日を邪魔している『魔族』という存在を次々と屠っていったのです」



「そうして……彼の『救世主という役割』の道が続いていく中で、ようやく『魔王』は生まれる」


「『傲慢』と『色欲』は喜びました。

長く夢見た希望の明日をやっと掴むことが出来ると」


「……しかし『魔王の力』は歪んでいました」


「力には代償がつきものです。

大罪の力が増すことによって『傲慢』が別人になったように」


「救世主と対になる魔王だからこそ、払う代償は救世主の力と同じであるはずでした」



「救世主に課せられた代償とは……

人間ではなく自身のために癒しの力を使用したが最後、その力を失うというものです」


「だからこそ彼は役割に徹していた。生きる理由を失うことを恐れていた。

彼は知らなかったから。……生まれ持った役割以外を『生きる指針』にしても良いということを」


「それでも救世主の代償は、あくまで力を失うだけです。

でも……魔王は違った。あなたは力を使うことそのものに代償を払う必要があった」


「……魔王の力を使うためには、あなた自身の『時』を犠牲にしなければならなかったのです」



「力の代償に違いが生じた原因は明確には分かりません。

でもおそらくは、『捻じ曲げた想い』を束ねて生まれたからではないかと思うのです」


「色欲の力によって人形になった魔族たちの想いを束ねて『魔王』は生まれたから。

だから……捻じ曲げられた想いが一つにまとまる時に変質した。その結果、魔王は歪になった」


「歪になったからこそ、

あなたは役割に縛られずに己の意志で生きることが出来たのではないかと私は思っています」


「……そんな『無垢な魔王』だからこそ、救世主に影響を与えられた。

役割に縛られる彼の『大切な灯り』になれた。彼が力を失ってでも救いたい存在になった」


「そんな大切な存在だったからこそ彼は……あなたに『真の力』を使ったのでしょう」


「人の想いを束ね生まれた、救世主と魔王だからこそ使うことが出来る『世界の理に抗う力』。ーー『死者蘇生』と『世界創造』という、ただの人では干渉できない理を捻じ曲げる力」


「癒しの力は『死』を否定するもの。その果てに辿り着いたのは『死者蘇生』。

 時戻しの力は『止まることのない今いる世界』を否定するもの。その果てに辿り着いたのは『廻り続ける新しい世界の創造』ーー」



「ーー現実の世界で『救世主の死』を目にしたあなたは……

その事実を否定しようと無意識に『夢の世界』を創り出しました」


「そして『世界創造』という大きな力を使ったあなたは現実から消えるはずだった。

しかし、彼はその運命を己の意志で否定した。逃れられない死の定めに向かうあなたへ『死者蘇生』の力を使ったのです」


「だからこそ……今この廻る世界で、あなたは生きている」


「時を操ることが出来る魔王が生きているからこそ……

……現実の『時』は止まり、今この時も『あなたと彼の明日』は繋がっています」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そして私は、目の前にいる彼女の存在を定義する。



「……あなたは『魔王』。

想いを束ねる存在。『束ねた想いの力』を使うことが出来る存在」


「あなたは『無垢な魔王』。

歪であるがゆえに、役割に縛られることがない自由な存在」



 彼女の力で出来ることを定義する。



「彼の想いはあなたに向けられ、託されている。

今やあなたは『救世主の癒しの力』をも使うことが出来るのです」


「現実で死にかけている彼を癒すことが出来る。

あなたの時を犠牲にして、彼と共に歩む明日を掴むことが出来る」


「それにあなたは『夢の世界』の中で、終わり以外の出来事を自由に思い通りにできる」


「この世界の中でなら、

『創造主』であるあなたは代償を払わずに力を使うことが出来るから」


「……それでも、終わりだけは変えられない。

夢の世界を形作っている源は『大切な人の死』がもたらした強い想いだから」



 再び、彼女が選ばなくてはならない選択肢を提示する。



「世界の時は止まっても、あなたの時間は進んでいきます」


「だからこそ……あなたは選ばなくてはなりません」


「あなたが創り出した『廻る夢の世界』で、

終わりが変わらない世界で……『ひと時の幸せ』を繰り返すのか」


「救世主として生まれた彼を……

……役割を守り貫いてきた彼の道を受け止め、その最後を見送るのか」


「救世主としての彼を殺し、

  ただの人に堕ちた彼と『現実の明日』を歩んでいくのか……」



 選択肢を提示し、最後に釘を刺す。

どの道を選んでも厳しい事実は降りかかり、逃れられないことを伝える。


 ……人が生きる道において、

『幸せだけが得られる夢のような明日』など存在しないということを伝え聞かせる。



「もし、

彼と共に現実を歩む道を選んだとしても『幸せばかりの明日』は待っていません」


「人々が救世主を否定した事実は消えない。

……あなたと彼は『人のいない場所』でひっそりと隠れ、生きていくことになるでしょう」


「これまで当たり前だった日常をおくることは出来なくなるでしょう」



 そして私は選択を促す。



「……それを理解したうえで、あなたの道を選んでください」




 答え合わせが終わっても、彼女は静かだった。


  ……真っ白な世界に沈黙が訪れる。



      「……ふぅ……」



 そうして、しばしの沈黙の後に彼女が大きく息を吐いた。

揺れる瞳の奥に確かな決意の炎を宿し、震える拳を握りながら言葉を口にする。


 もはや彼女は封じられていなかった。……感情を取り戻していた。



       「私が選ぶ道はーー」



 想いのこもった彼女の声は確かに響き、白い世界は明日へと時を刻み始める。

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