ーー第48話 「白い世界で岐路に立つ」ーー
ーー壊れた世界に残されたのは『白』だけだった。
真っ白な世界の中で『私と彼女』の二人だけが存在している。
……彼女は無表情だった。
『色欲の力』によって感情と力を封じられた彼女。
色欲の魂が消えた今も、『魔王』である彼女の中には大罪の力が残っている。
彼女の中の力は想いの大きさに反応して強くなる。
これから生きていく中で、いつか心が呑み込まれてしまうかもしれない。
”だからこそ『色欲』は……時を戻させないように封じたのでしょう”
これから進む道を、衝動ではなく『彼女自身の意志』で選んで欲しいから”
”己が選んだ道であれば、見失うことはないはず……そう信じて”
だから最後に託した。
選べる道を示してほしいと、私に『彼女のこれから』を託した。
私は『託された祈り』に応えます。
……女神だからではなく、私自身も見てみたいと思うから。
魔王として生まれた彼女が『どんな未来』を選ぶのか、知りたいと思ってしまったから。
そうして私は彼女のもとへと降り立つ。
目の前に降り立ち、綺麗な黒い瞳を見つめながら『彼女の名前』を呼ぶ。
救世主と呼ばれた彼が名付けた、あの洞窟の前に咲いている『白い花』の呼び名と同じ……”リリー”という名を呼んだのです。
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ーー「リリー、聞こえていますか?」
私の問いかけに、彼女は抑揚のない淡々とした声で応える。
「あなたは誰?」
彼女らしくない、
感情のこもっていない声で問いを返してくる。
「私は女神と呼ばれています」
「女神様? お兄ちゃんが前に言ってた人だね」
「そうです。
……あなたと彼を生み出した存在です」
私の告白を聞いても『封じられた彼女』は揺らがない。
その口から出る言葉は、ただ冷静に淡々と事実のみを告げていく。
「そう。
でも、もうどうでもいいの」
「お兄ちゃんは死んだ。色欲さんもいなくなった」
「私だけが置いていかれて、時を戻すことすらできない」
「何もかもが終わったの。
何が起こったのかすら分からないのに、気付いたときには全てが終わっていたの」
「遅いよ、女神様」
最後の言葉には、わずかに『哀しみの感情』がこもっていた。
封じられたはずの『彼女の強い想い』が色欲の力すら上回ろうとしている。
……”選択の時は近い”
「いいえ、遅くはありません。
まだ……終わっていないこともあるのです」
「終わっていないこと?」
「はい。
あなたと彼の『明日』です」
「……私たちの、明日……?」
再び彼女の感情が少しだけ零れる。
溢れてきたのは『驚きと期待の感情』だった。
「彼はまだ生きています」
「……!
……ぇ……」
「あなたはまだ間に合うのです」
”そう。彼女はまだ間に合う。
……だからこそ、選ばなくてはならない”
「だから選んでください。
……あなたがこれから進む明日を」
「それを見届けるのが、私に託された『色欲の祈り』」
”その選択を支えるために私がここにいる”
「……今、あなたが選べる道は三つあります」
「一つ目は、この廻る世界の中でひと時の幸せを繰り返して生きていく道。
二つ目は、救世主として生き続けてきた彼をその役割のまま終わらせてあげる道」
「三つ目は……救世主を殺し、ただの人へと堕ちた彼と共に明日を歩んでいく道」
”その選択を見守り、進む背中を見送ることが……
……彼女たちの運命を定めてしまうほどの大きな力を与えてしまった、私が出来るせめてもの償い”
”私が出来る、せめてもの『祈り』なんです”
「あなたが自身の意志で明日を選べるように、これから『魔王の力』について話します」
「どうか聞いていてください。
そして、その話が終わった後に決めてください。あなたが望む未来を」
そうして、静かな白い世界の中で私の声だけが響いていく。
……彼女はただ静かに身構えている。その瞳を確かに揺らしながら届く声に集中している。
些細なことも聞き逃さないように。語られる事実を……受け止められるように。
ーーこうして、二人だけの答え合わせは始まったのですーー。




