ーー第47話 「世界の果てに残る白」ーー
ーー荒れ果てた壊れゆく世界。
そんな世界で雨は降る。まるで誰かが泣いているかのように静かにそっと降り注ぐ。
終わりゆく薄暗い空の下、私とお兄ちゃんは抱き合っていた。
お互いの存在を確かめるように相手の熱と暖かい音を感じ合っていた。
……大切な人が『生きている証』を確かめ合っていた。
やっと感じることが出来た『お兄ちゃんの暖かさ』にほっとして、謝ることすら二の次になる。
”今はただ、このかけがえのない『暖かい温もり』を感じていたい”
そんなことを思い、『白く淡い光』に包まれる中で私は……ゆっくりと目を閉じる。
……視界が暗くなっていく。
……お兄ちゃんの鼓動がどんどん大きくなっていく。
……暗闇の中で、もっと確かに感じ取れるようになっていく。
そうして私の全てが『お兄ちゃん』で満たされていく時に、『あの声』は聞こえた。
”あの……『色欲さんの甘い声』は聞こえたんだ”
「おかえりなさい。
今までありがとう。さようなら。ごめんなさい」
ーー暗闇の中に甘い声が響く。
お迎えとお礼とお別れと……謝罪の言葉が私に向かって響いてくる。
”色欲、さん……?”
突然届いてきた様々な言葉に、私の思考は止まる。
何から考えていいのか分からず、うまく言葉を受け止めることが出来ない。
茫然とする私。
そんな私に……お兄ちゃんでいっぱいになりそうだった私の中に『別のもの』が入ってくる。
抵抗する間もなく、瞼の裏に見える暗闇が青く染まっていく。
私の身体が『私の心』と離されていく。……勝手に体が動き出す。
お兄ちゃんを抱きしめていた私の手が動く。
背中に手をまわしたまま、お兄ちゃんの体から離れていく。
……離れた手の中で、
暖かな熱が残る手のひらの中で『黒い光』が生まれた。
瞬きの間に生まれた『光』は瞬時に形を変える。
……『黒い傲慢の剣』となって、お兄ちゃんに襲い掛かる。
そしてーー私もろともお兄ちゃんは『黒い光の剣』に貫かれたーーーー。
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ーーーー私の瞳の中で『彼女と彼』の命の灯は消えていきます。
消えていく灯りの中で『白く淡い光』が彼のもとを離れていく。
離れた光の行き先は……その小さな口の端から真っ赤な血を吐き、死にゆくばかりのもう一つの命。
……届いた白い光の確かな熱が『彼女の残り火』を燃やす。
残り火だったはずの弱った灯りを再び燃やし、蘇らせていく。
傷が癒え暖かさを取り戻していく大切な彼女を前にして、死にゆく彼は囁いた。
「……救えて、よかっ……た……」
赤く綺麗な血を流しながら彼は散っていく。
大切な人の死にざまを見ても、『色欲の水の力』で操られた彼女は何も出来ない。
泣くことも、叫ぶことも……力を使う事すら許されないーー。
ーー彼と彼女の……
『救世主』と『魔王』の力を封じられるほどに『色欲の力』は強かった。
”決意をした『色欲の想い』は強かったのです”
だから『彼』は死んだ。だからこそ『彼女』は時を戻せない。
そうして……彼女は残された。
そして『救世主の死』によって、彼女の内に残っていた『怨念の魂』は天へと帰る。
……『色欲の魂』にそっと付き添われ、優しく支えられて、
己を取り戻した『傲慢の魂』は泣いてうずくまり、あるべき場所へと還っていく。
”次第に崩れ、
原形を保てないほど壊れていく世界の中で『私』だけがその光景を見ています”
”運命に翻弄され、それでも生き抜いた『二つの魂』を見送っているのです”
いつしか雨は止んでいました。
灰色の雲は晴れ、壊れゆく真っ白な空が見えています。
そんな白い天へ向かって二人は昇り、消えていく。
姿が薄くなっていく中で……泣き崩れる傲慢を見つめていた『色欲の瞳』がふと動いた。
その瞳は『ある一点』で止まる。
その視線は……『見送る私』を捉えていた。そして『甘い声』が私に届く。
「女神様……あの子のこと、よろしくお願いします」
届いた言葉を最後に『傲慢と色欲』は天へと還っていった。
”そうして『彼女』と『私』だけが何もない世界に残された。
壊れて崩れ『真っ白』になった世界の中で、私たちだけが残っていたのですーー”




