ーー第46話 「かけがえのない灯り」ーー
ーー『灰』に戻った光の中で私は震える。
過去の景色に映っていた『昔の私』を思い出して、戸惑い震える。
”あれは、なに?”
見えた景色は過去のはずなのに『私の姿』は今と同じだった。
……着ている服が違うだけで、背格好や見た目は『今の私』と変わらなかった。
”お兄ちゃんと出会ったときの私は幼くて、小さかったはずなのに。
それにあんな……人が次々と死んでいく『凄惨な光景』なんて見た覚えがない”
”なんで……?”
戸惑う私の目の前に『過去の景色』は映り出す。
……『静かで綺麗な恐ろしい景色』が再び映り出すーー。
ーー『夜の森』に差し込む月明り。
淡い明りの中で、大剣に貫かれている『角が生えた女の人』。
そして赤く染まった大剣を握っている『冷たい瞳をしたお兄ちゃん』。
「……色、欲……?」
「…………っ…………」
灰色の光の中で掠れた呟きが聞こえる。
……『絶叫の予兆』が聞こえてくる。
「……ぅ…………ぁ……」
”あの叫びが来るっ……”
思わず自らを抱く力を強め、身構える私。
しかし……。
「……っ!!」
「…………ぅ…………」
絶叫は響かない。聞こえるのは漏れ出た小さな声だけ。
代わりに『私の瞳』は捉える。……一瞬で目の前にきた『お兄ちゃん』を。
私に、『傲慢』に……大剣を突き刺したお兄ちゃんを。
『傲慢の胸』を貫く、赤い血に濡れた『お兄ちゃんの大剣』を。
「…………ぐぁっ…………」
突き刺さった大剣が引き抜かれる。
漏れ出る声と共に『赤い血』が溢れる。その口から、私の胸から溢れ出す。
……そうして『傲慢』はうつ伏せに倒れた。
夜の闇に冷えた地面が『身体の熱』を奪っていく。
感覚がマヒしていく。……視界に映る土が赤く染まり『見える全て』が滲んでいく。
滲んで暗くなる景色の中で『お兄ちゃんの声』が響いてくる。
「……っ」
「……魔族と人間が同じ……?」
「同じ……『人』、だってっ……?」
響く声は冷たくなかった。
確かな熱を帯びて、震えていた。
「それなら女神様っ……
『救世主』ってなんですかっ?」
「人間の想いから生まれた『僕』がやってきたことは何なのですかっ!!」
痛々しいほど震える声。
お兄ちゃんは……多分、泣いてるんだ。
「僕は魔族を殺したっ!
『人』を、殺してしまったんだっ……!」
「……っ
『人間と同じ存在』を、僕が殺したんだっ!!」
「……救世主ってなんなんだっ……どうしたらよかったんだっ……」
泣きながら、
溢れる感情のままに『人』へと近づいていく。
「誰も教えてくれなかったっ!」
「僕はずっと『独り』だったっ……!!」
見える景色が真っ黒になっていく。
お兄ちゃんの溢れる想いが遠くなっていく。
「…………っ!!
…………ぇ…………」
「……独りじゃ、ない……?」
「…………『魔王』…………?」
真っ黒に染まる景色の最後に私は見た。
ふらつく足取りで『あの洞窟』の方に向かうお兄ちゃんの姿をーー。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ーー『過去の景色』は黒くなり、見えなくなった。
目の前に映る『黒』。
『映る景色』を染めた漆黒が徐々に広がっていく。
私を包む『灰色の光』を真っ黒に染め上げる。
……黒く染まった『光』は冷たかった。
私の『熱』が奪われていく。何もできない。何も……考えられない。
『見えた過去』について考えたいのに震えて思考がままならない。
そして私は、瞳を開く力すら奪われた。
……暗い……
……寒い……何も見えない……
私に残ったのは『暗闇』だけだった。
かつて光だった『真っ黒な闇』だけが揺らぎ、最後に残っていた。
……どれだけ時間が経ったのか分からない。
もはや感じることすら言葉として浮かんでこなくなった時、あの音は聞こえた。
誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
その足音はゆっくりと聞こえてくる。
それでも一歩一歩確実に近づいてきて、大きくなっていく。
ーー大きくなった足音が止まった。
そして少しの静寂の後、何かが壊れ崩れる音がした。
闇の中に『新たな光』が差し込んでくる。
「迎えにきたよ、リリー」
”その懐かしい声と共にーー『白い光』が見えたんだ”
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ーー『白く暖かな光』が『揺らぐ冷たい闇』を祓っていく。
その確かな熱が凍えた私を溶かしてくれる。……私の身体が戻ってくる。
戻ってきた感覚の中で気付いた。
私を包みこむ『確かな人の熱』を。私を照らしてくれる『確かな灯り』を。
……私の瞳に確かに映った、泣いて笑う『お兄ちゃんの顔』に気付いたんだ。
久しぶりに見た『暖かいお兄ちゃん』を……
……『冷たい瞳』をしていないお兄ちゃんを感じて、胸の奥が熱くなる。
堪え切れない熱が全身に広がり、私を満たしていく。
私を優しく抱きしめてくれるお兄ちゃんの温度を感じながら、呟く。
熱くなった目元から零れ落ちる雫の暖かさを感じながら、湧き上がるままに言葉を紡ぐ。
「……うんっ……!
ただいまっ……おにい、ちゃんっ……!」
そうして私は……静かな雨が降っている壊れた世界の中で、
大切な人の存在を確かめるように『お兄ちゃんの背中』にそっと手を回したーー。




