ーー第45話 「忘れ去られた赤と黒」ーー
ーーーー灰は黒に染まった。
黒い光の中で絶叫は響き渡る。
「……ぅ…………ぁ……」
「ぐぅぁぁっっっーーーーーーーーー!!!!」
目の前に『過去の景色』が映っている。
月明りの下で赤い血に濡れた大剣を握る『お兄ちゃん』が映っている。
冷たい瞳をしているお兄ちゃん。
その姿が滲んでいく。『傲慢の涙』で景色は滲む。
『瞳の奥で燃え上がる黒い炎』が私を包む光を揺らがせていく。
……揺らぐ黒の中で『映る景色』は瞬く間に変わっていった。
……暗い夜の森を『漆黒の光』が一瞬で塗りつぶす。
黒く染まった光の中から『傲慢』は剣を生み出した。
生み出した『大剣』を強く握り、お兄ちゃんに切りかかる。
『傲慢』に続くように森を包む漆黒から『光の剣』は生まれる。
……生み出され続ける『無数の黒い細剣』がお兄ちゃんに降り注いでいく。
「あぁぁっっっーーーーーーー!!!!」
揺らいでいる光の中で、
悲痛な嘆きと剣が交わる激しい戦いの音が響き渡る。
それでも私は見続ける。
目を逸らすことはしない。……決意の炎を燃やして『怯える身体』を強く抱く。
……滲んだ黒い景色の中でも『私の瞳』は逃さない。
暗闇に慣れた瞳の中で、お兄ちゃんは激しい攻撃を受け続けている。
反撃する間もない猛攻に徐々に押され、後ずさっていく。
……しかし傷つく身体は『白い光』に癒されて倒れることはない。
そうして後ずさるお兄ちゃんが辿り着いたのは……『あの洞窟』だった。
私とお兄ちゃんが出会った『あの暗い洞窟』だったんだーー。
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ーー洞窟の前には『人』がいた。
角が生えていない『ただの人』が、
たくさんの人が……黒い景色の中で怯え震えている。
激しい猛攻に押され、洞窟の入り口へと後ずさっていくお兄ちゃん。
……やがてお兄ちゃんもその人たちの存在に気付く。
気付いて、驚き……反射的に背中に感じる『命の息吹』を守ろうとする。
もはや『傲慢』は暴走していたから。
……『黒い光の剣』は存在するもの全てを破壊しようとしていたから。
…………でも、遅かったんだ。
命を守ろうと後ろを振り向いたお兄ちゃんが固まる。
私の瞳は映していた。
固まったお兄ちゃんの背中と、その先に見える『赤黒い地獄』を映し出していた。
洞窟の前に咲く『白い花々』が返り血を浴びている。
地獄を彩る『深紅に染まった美しい花』に囲まれ、命の灯は散っていく。
……震えてうずくまる人たちに『黒い剣』が刺さっていく。
剣に刺され倒れた人から『綺麗な赤い血』が広がっていく。
……倒れた人の『瞳』は黒くなる。赤が失われた『身体』には黒しか残らない。
『死』という、目を背けたくなる『醜い黒』しか残らない。
ーー『地獄』を前にして固まっていた『お兄ちゃんの背中』が震え始める。
震えが止まらない背中から掠れた声が聞こえた。
「……角が生えてない……?」
「…………にん、げん…………?」
その呟き声は目の前に広がる『赤い血だまり』に溶けていく……。
小さな声が溶け切った時、再び『光の剣』がお兄ちゃんを襲った。
「アハハッッッーーーーーーーーー!!!!
死ねっ! 死ねっ!! 死んでしまえっっ!!!」
震えるお兄ちゃんは反応できない。
森を包む漆黒の光から『剣』は現れ、放たれ続ける。
「消えろっ!! 消えろっっ!!!
我の前から消えてなくなれっっ!!!」
刺さっていく『無数の黒い剣』。
その重さに耐えられず『お兄ちゃん』は地に伏せる。……磔にされる。
「お前だけは必ず殺してやるっっ!!!」
……『傲慢』の怨嗟によって『磔』にされたお兄ちゃん。
地に伏したお兄ちゃんはそれでも『右手』を伸ばしている。
何かを掴もうと手の平を広げている。……しかし『剣』が刺さり、動かせない。
何も掴めず、動きを封じられた『右手』。
『私の瞳』はその先を追ってしまう。
お兄ちゃんが掴もうとしたものが気になってしまう。
……映る景色の中に『その答え』はあった。
ーー『私』が、答えだった。
ーー右手の先には『私』がいた。
赤い血だまりの先に『黒い瞳をした私』が立っていた。
その瞳は光を失い、底が見えない。
”人形……”
思わず、そう呟いていた。
呆然と立ち尽くす私の足元に向けて『血』が伝っていく。
池のように広がった血だまりから瑞々しい『赤』が流れていく。
……地面を伝っていく。……黒く濁りながら『洞窟の奥』に流れ落ちていく。
落ちる『赤黒い血』が足元に届いたとき……
……黒い瞳は光を取り戻す。
『見ている私』と同じ姿をした存在が震えていく。
そして現実を映す瞳は揺らぎ、叫びが響いた。
全てを拒絶するような震える叫びと共に『過去の景色』は一瞬で黒くなる。
周りを包む色が『黒』だけになっていく。
”違う、『真っ黒』に染まるだけじゃない”
染まる色が滲んでいく。……滲んで薄くなり『灰色』へと戻っていった。
ーー私を包む光が『黒』から『灰』へと戻っていったーー。




