ーー第44話 「傲慢の光」ーー
ーーーー闇の底に『光』は差し込んでくる。
『灰色の光』が私を包んで照らしていく。世界が『灰色』に染まっていく。
灰色に満たされていく視界の中で違和感を感じた。
”青が混じってない……?”
そう。私の瞳を満たしているのは灰色だけ。
……今までと違って何も混じっていない。ただの灰色だけだった。
”どうして……?”
変化に戸惑う私。しかし『記憶の旅』は変わらない。
光の中から声は響く。過去から『大罪の声』が響いてくる。
「僕を救ってくれる人はいない」
話し方や雰囲気が違うけれど、分かった。
……『傲慢の声』だという事が分かってしまった。
「だって僕は……」
「生まれた時から『みんなの光』だったから」
過去の景色は映らず、声だけが聞こえてくる。
いつも景色が映るはずの私の目の前にあったのは……灰色に輝く『光』だけ。
響く声も小さくて聞き取りづらい。違和感が増していく。
でも響き渡る声は止まらない。
だから私は聞き逃さないように瞳を閉じて音だけに集中する。
「僕が生まれた時に『前任の傲慢』は亡くなった」
「そして僕は生まれてすぐに『大罪の力』を受け継いだんだ。
だから角が生えているのも『傲慢の光の力』を使えるのも当たり前なんだ」
「……救いを求められるのも、当たり前なんだ」
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ーー目を閉じても『灰色の光』は瞼の裏にまで淡く差し込んできた。
それでも輝きが少し弱くなったおかげで集中できる。声が聞こえやすくなる。
「暗い洞窟の中……
かつて『地獄』と呼ばれた暗い底で『光』は救いだった」
「だからこそ『傲慢』は求められ、
……だからこそ僕は誰にも救われることは無い」
「……誰かを救う者は強くなければ、救われる側は安心できないから」
聞こえてくる声は苦しそうだった。
「僕は……常に笑顔で誰にでも明るく接した」
「生まれた時からそれが当たり前だった。
違和感が湧いてきても、それ以外の生き方なんて分からなかったんだ」
その苦しそうな声は……
今まで見てきた『救世主としてのお兄ちゃん』に似ていた。
「だからあの時も、ただじっとしていた」
「『大罪の力』で地獄から出せと詰め寄られた時も、
怯え怒る相手を救うために……じっと耐えて苦しみを受け止める」
「……僕自身が救われることは無いと諦めながら、耐えていたんだ」
その諦めの言葉の後、差し込む光が少し強くなった。
そして声は続いていく。
「でもっ……! 僕は救われたっ……!」
「『色欲』が僕を助けてくれたんだっ……!!」
泣いているような、
喜んでいるような……様々な感情を纏った声が続いていく。
「だからこそ僕は……
犯した罪に、消えることのない『人殺しの罪』に苦しむ彼女を救いたかった」
「彼女が『女神』から聞いたことから、
『時を戻す』という『彼女の罪』を消すことができる方法を見出した」
「……そして時は経ち、僕たちは地上に出た」
「女神の言った通り『大罪の力』は増して、
『地獄を塞ぐ壁』を壊すことが出来たんだ」
強くなった光がまた弱くなる。声は変わらず響き続ける。
「……その頃から僕はおかしくなった。
力が増すとともに自分の感情を制御できなくなっていた」
「胸の奥から憎悪が溢れ出していた。
生まれた時から無視していた違和感が止められない」
「なぜ僕は『傲慢』なんだ……。
……『皆の光』という役割を押し付けてくる世界の全てを憎悪した」
そして再び、響く声が『苦しみ』を帯びていく。
「そこから先は記憶がはっきりしていない」
「……かろうじて覚えているのは、
憎悪を消すために『地上の人』を殺したこと……」
「『救世主』が生まれたこと……
時を戻す力を持った『魔王』が生まれたこと……」
「そして『色欲』が、
大切な彼女が向けてくれる『無理をして作ったような笑顔』だけ」
苦しみを帯びた声がぼやけていく。
どんどん遠くなって、囁きになっていった。
「でも、どうにか僕は耐えていた。
……その先に『全てを救える未来』があると信じていたから」
「誰一人として犠牲にならない、
光差す『明るい明日』があると信じていたから」
「だからこそ……」
「魔王を犠牲にしなくては時を戻せないと知った時……
……訳が分からなくなった。……多分、僕は壊れたんだと思う」
「……それでも壊れたであろう僕の内で『理性』だけは動いていた。
救う者として強くあろうと己を律してる中で磨かれた理性だけは生き続けた」
「壊れた後の記憶はほとんどない。
救うことでしか生きられない僕を守るために理性が勝手に心を手放していた」
「憶えている光景は……僕を心配そうに見つめる『彼女の瞳』だけ」
響く声が小さくなるにつれて、
差しこむ『灰色の光』が強くなっていく。
……そして、輝きを増す光の中に『過去の景色』は映り出したーー。
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ーー目を閉じていても、瞼の裏に過去の景色が映り出した。
聞こえる音だけに集中していた私は驚いて、思わず目を開ける。
開いた瞳の先に見えたのは『暗く深い夜の森』。
今でも過去でも何度も見て、
慣れしたんだ真っ暗な森の中に『柔らかな月明り』は差す。
……柔らかな光は照らしていく。
その光を追いかける『私の瞳』に映ったのは……
大剣に貫かれた、角が生えた『女の人』。
そして……
赤く染まった大剣を握っていたのは、冷たい瞳をした『お兄ちゃん』だった。
瞳に映る『静かで綺麗な恐ろしい景色』を前にして、声を失う。
「……色、欲……?」
「…………ぇ…………」
「……ぅ…………ぁ……」
「ぐぅぁぁっっっーーーーーーーーー!!!!」
茫然とする私を包む『灰色の光』の中で『傲慢の絶叫』が響き渡る。
絶望の叫びが『灰』を『黒』へと染めていくーー。




