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私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<後編>~約束が灯す明日~
42/51

ーー第42話 「怠惰の土」ーー

 ーー加速する『旅』は止まらない。

私の気持ちが追いつかないほど早く、早く……進んでいく。


 それでも……

青みがかった『茶色』に染まった闇の中で、私は見る。


 変わらず映り続ける『過去の景色』を胸に刻むようにじっと見続ける。



 映る景色はどんどん変わっていった。

遠くに見える『人間の街』が土の壁に覆われていく。


 暗闇に閉ざされる街。

次第に見えなくなっていく街並みに『一つの光』が向かっていく。


 白い光が青い空を翔けていく。……お兄ちゃんが『瞳の中』を横切っていく。



 白い翼をはためかせ、

凄い速さで飛んでいるお兄ちゃん。


 その瞳は進む先しか映していなかった。


 ……だから気付かない。

地面から迫ってくる『怠惰の土』に。縄のように細く硬い『土の塊の群れ』に。


 私の瞳がお兄ちゃんの背中を映した、次の瞬間ーー


  縄の群れが獲物を捕らえるようにお兄ちゃんへ襲い掛かった。



 土の縄がお兄ちゃんに巻き付いていく。

意思を持っているかのように、縛り上げていく。


 ……そして、お兄ちゃんは磔にされた。


 大剣を握る手すら動かせないお兄ちゃん。

それでも、動じてなかった。……『冷たい瞳』は揺らいでいなかった。



 細く硬い縄に縛られて、

宙に磔にされたお兄ちゃんを『暗闇』が覆っていく。


 人間の街と同じように、土の壁が『白い光』を覆っていく。


 瞳に映るお兄ちゃんが消えていった。

……ザラザラとした壁が、視界を埋めていった。


 いつしか映る景色と私を包む闇は同じ色に染まる。

青みがかった『茶色』が、世界の全てになっていったーー。




 ーーお兄ちゃんを閉じ込める『土の壁』を映しながら、闇の中から声は響く。



「何度でも問い続けます」



 『二つの声』が混ざって、響いてくる。



「……だから」


「救世主としてじゃなく、

  あなた自身の『想い』を聴かせてください」



 ……どっちが呟いているのか分からないぐらい、

『怠惰の声』と『色欲さんの声』が混じり合って聞こえてきた。


 青みがかった『茶色』に染まる世界で、声が響き続ける。



「『救世主』……

 ……貴方はなぜ、そんなに頑張るのですかっ?」


「……傷だらけになりながらも、進み続けるのですかっ……?」


「そんな生き方をしていては、

 貴方はいつか……貴方自身を殺しますよっ」


「……時には、

 頑張らずに立ち止まって、休むことも……大事なのですっ」



 響いてくる声は泣いていた。

焦りを含むその声は、まるで泣きながら説得をしているように聞こえた。


 ……説得に応える声はない。沈黙が続く。



「また来ます」



 映る景色が黒くなる。

小さな呟きと共に、茶色から黒へと変わっていくーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー黒くなった景色を見つめ続ける。


 そのまま、暫くすると……。



「『救世主』、

 貴方はなぜ、戦っているのですかっ?」



 ……映る景色が茶色へと戻っていった。


 さっきと変わらずに目の前を満たす『土の壁』。

でも、見える『土』が濡れていた。……雨が降っていた。



「誰のために戦っているのですかっ?」



 ……応える声は無い。沈黙は続く。



「また来ます」



 また、映る景色は黒くなる。

茶色から黒へと変わっていくーー。


 そしてまた、黒から茶色へ戻っていく……。



 ……そうして、

私の瞳に映る景色は何度も何度も繰り返す。


 茶色と黒を行き来しながら、似た光景を繰り返していく。


  雨の降る日も、明るい『日の光』が差す日も……問いは続いていった。



「『救世主』、

 貴方は何を手に入れたのですかっ」


「……その大きすぎる力で、何を掴むことができたのですかっ」



 問い続ける声は諦めなかった。



「『救世主』という役割を……」


「あなたを縛る……いずれ殺す『呪い』を、

 どうして素直に受け入れているのですかっ……?」



 応える声は無くても、

沈黙しか返ってこなくても……終わることはなかった。



「貴方は何のために、生きているのですかっっ……?」



 そして……『諦めない想い』が繰り返す景色を終わらせる。



「…………僕は」


「……っ!!」



 問いに応える声が返ってきた。

……お兄ちゃんの声が、返ってきた。


 『怠惰』が、『色欲さん』が、

私が……聞こえた声に意識を取られる。


 意識を持っていかれる。……思わず『力』を制御する意思が薄れる。



  そしてーー。



     「人を守る『救世主』……なんだ」



       ーー諦めの言葉と共に、『白い光』が瞳に映ったーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー瞳に映った『白い光』が私を一瞬で切り裂く。


 いつもと同じように、

映る景色は『真っ黒』に染まる。青みがかった『茶色の闇』に包まれる。


 いつもと同じなのに……私の感情は追いつかない。



 ”何が……起こったの?”

映る景色が早すぎて、理解が追いつかない。


 震える暇すらなかった。……それでも『お兄ちゃんの言葉』だけは聞こえた。


  …………疲れ切った『諦めの言葉』だけは、聞き逃さなかった。


 ”おにい、ちゃん……”


 ずっと一緒にいた、私には分かる。

お兄ちゃんの救世主で在ろうとする『強い意志』は、簡単には変わらないと。


 ……聞こえてくる『色欲さんの声』も同じことを感じてる。



 ”もう……無理かもしれないっ……”


 ”固すぎる……

『救世主の想い』が……『救世主の決意』が……”


 ”硬すぎる、仮面を……壊せないっ”



 ……弱弱しい声が響いてくる……



 ”こうしてる間にも彼は、『傲慢』は……”


 ”おかしくなってるっ……

どんどん、狂ってしまうっ……取り返しが、つかなくなっていくっ……”



 ……泣きそうな、弱った声が聞こえてくる……



 ”もう、だめなのかなっっ”


 ”決めなくちゃいけないのかなっっ……

選ばなくちゃ、いけないのかなっっ…………”


 ”私はっ……わたし、はっ……”



 弱った声は小さくなり、闇に消えていく。

しかし……消えゆく甘い声に反応したかのように『闇の奥』から光は差す。


  ーー荒々しい『灰色の光』が、闇を照らしていくーーーー。

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