表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<後編>~約束が灯す明日~
41/51

ーー第41話 「暴食の闇」ーー

 ーーーー『記憶を巡る旅』は加速する。


 気付いたら、もう目の前に過去の景色が映っていた。

『底が見えない深い黒』に染まった闇の中で、私の前に映り続ける。


 見える景色が大きく感じる。

”ううん、違う……私の視点が低いんだ”


 ……深い森の木々、暗い夜の街並み……全部大きい。



 それに……映る景色がいままでより早い。

暗闇から始まり、森の中を進み、街に入って『一つの家』を目指していく。


 一瞬でそれらの光景が過ぎていく。

だから私は、見逃さないように集中して見続ける。


 薄い青が混じった『黒い闇の中』で、

自らを強く抱きしめながら……じっと、見つめ続ける。


 そしてーー。



「『救世主』……

 お前は満たされたこと、ある?」



 闇の中に大罪の声は響き、

映る景色がいつも通りの速さに戻る。


 ……目指していた、仄かに明かりが漏れる『私たちの家』に辿り着くーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー家に入る扉の前で、『暴食』は問うように叫ぶ。



「『救世主』……

 お前は満たされたこと、ある?」


「あははっ!

 無い、ねっ~! だって……」


「……お前は笑わない、からっ!」


「いつもいつも苦しそう。

 ……いつもいつも我慢してるっ!」


「お前は何のため、生きてる、の?」



 夜の帳の中に『底の見えない闇』がある。

黒い闇から『幼い男の子』が叫んで、真っ直ぐに問いを投げかけている。


 問いながら、目の前の扉を開くーー。



 ーー開いた扉の先には『光』があった。


 『暴食の瞳』に仄かな光が差し込む。


 差し込む光と共に、

両手で握った『大剣』を上から真っ直ぐに振り下ろす『お兄ちゃん』が映り込む。


 ……『冷たい瞳』のお兄ちゃんが、映り込んでいた。


  その瞳と『私の瞳』が交差した時……視界が黒くなった。


   映る景色が一瞬で『底の見えない深い黒』に覆われたーー。




 ーー黒は去り、景色が色を取り戻した時……

『私の瞳』が映していたのは、宙に浮いた大剣を握る『両腕』だった。


 ……腕のもとを辿っていく……

……そこには……お兄ちゃんがいるはず……


 …………でも、無かった。……そこには何もなかった。


 見えるのは『壁』だけ。

……家に入った先にある、二人でご飯を食べていた『広間の壁』だけ。



 お兄ちゃんは……『暴食の闇』に呑まれていた。

振り下ろそうとする大剣と『その両腕』を残して、喰われていた。


 ……感情を置き去りにして勝手に状況を理解し始める、私。

理解する状況に『心』が追いつき叫ぼうとした瞬間、白い光が現れる。


 私の目の前で『白い光』は輝く。

眩いほどの輝きで、一瞬で視界を白く染めていく。


 白く染まる景色の中で『お兄ちゃんの声』が響いてくる。



「満たされることなんてない」


「笑う必要なんてない。

  我慢なんて当たり前じゃないか」


「苦しいなんて、当たり前じゃないか」


「人は『救世主』を望んでいる。

  そして僕は……『救世主』として、生きているんだから」



 感情を殺すような『冷たい呟き』と共に、見える景色は真っ暗になったーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー真っ暗になる景色を前に私は叫べずにいた。


 叫べないまま、薄い青が混じった『黒い闇の中』に包まれる。


 叫ぼうとしていたのに、声が出なかった。

白く染まった景色の中で見てしまった『瞬き』が瞳の中に残り続けていた。



 ”瞬き……最後の瞬間、私は切られたんだ。

お兄ちゃんの大剣が、宙に浮いていた『大剣』が……白く瞬いて迫ってきた”


 ”でも、それだけじゃない。

瞬きの中にお兄ちゃんはいた。『暴食の闇』にほぼ全身を喰われたはずなのに……”


 ”体を持った、お兄ちゃんが……確かに見えた……”



 ……『癒しの力』。


 人間が『救世主』を望む限り、お兄ちゃんは応えてしまう。

……あんな酷い状態からでも生きてしまう。……死ぬことが、出来ないんだ。



 視界が滲む。涙が出てくる。


 ”なんでっ……何でお兄ちゃんはっ……!”


 ”お兄ちゃんは心から望んでるのっ……?

……ううん、違うっ! だって……苦しそうだったっ……!!”



 声が出ないまま、涙だけが溢れてくる。


 ”そうだっ……苦しくても、我慢してるんだっっ……。

優しいから、無理をしてでも応えちゃうんだっっ……頑張っちゃうんだっっ……”


 ”なんでっ……

頑張ってるお兄ちゃんが『想い』を殺さなくちゃいけないのっ……!!”



 悲しくなる。怒りが湧いてくる。

……訳が、分からなくなる……でも気付いた。


 ”でも……

……優しくて、無理をしてでも頑張ってるお兄ちゃんは……”


 ”私が知ってる、お兄ちゃんなんだっ……

大好きなお兄ちゃんのまま、なんだっ……昔から変わってないんだっ……”



 ……静かに泣き続ける私のもとに、『色欲さんの声』は届く。



 ”やっぱり『呪い』だ。

あんな状態からでも、何事もなかったかのように癒せるなんて……”


 ”私たちの『力』が『私たちの心』まで狂わせていくっ……”



 ……色欲さんも……泣いてる…… 



 ”彼も……『傲慢』も、

私の前ですら『笑顔』を見せてくれなくなった……”


 ”あの子を人形にしてから。

『願い』のために……あの子を犠牲にしなくてはいけないと知った時から……”



 ……苦しん、でる……



 ”あの時から、彼はおかしくなった。

ううん……もうずっと前から、おかしかったの”


 ”強くなった力に呑み込まれて狂い始めてたっ”


 ”言葉遣いが荒くなった……

地上の人間を殺すことに執着し始めた……まるで別人みたいに、なった……”



 ……大切な人を想って……泣いてるんだ……



 ”私は……決めなくちゃいけないのかもしれない”


 ”あの子を救うか、

あの子を犠牲にして『彼』を救うか……”


 ”決めなくちゃ、いけないのかなっ……?”



 泣きそうな色欲さんの声と共に、色は変わる。

いつもみたいに『闇』を染める色が変わっていく。


 ーー『青みがかった茶色』へと、変わっていくーー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ