ーー第41話 「暴食の闇」ーー
ーーーー『記憶を巡る旅』は加速する。
気付いたら、もう目の前に過去の景色が映っていた。
『底が見えない深い黒』に染まった闇の中で、私の前に映り続ける。
見える景色が大きく感じる。
”ううん、違う……私の視点が低いんだ”
……深い森の木々、暗い夜の街並み……全部大きい。
それに……映る景色がいままでより早い。
暗闇から始まり、森の中を進み、街に入って『一つの家』を目指していく。
一瞬でそれらの光景が過ぎていく。
だから私は、見逃さないように集中して見続ける。
薄い青が混じった『黒い闇の中』で、
自らを強く抱きしめながら……じっと、見つめ続ける。
そしてーー。
「『救世主』……
お前は満たされたこと、ある?」
闇の中に大罪の声は響き、
映る景色がいつも通りの速さに戻る。
……目指していた、仄かに明かりが漏れる『私たちの家』に辿り着くーー。
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ーー家に入る扉の前で、『暴食』は問うように叫ぶ。
「『救世主』……
お前は満たされたこと、ある?」
「あははっ!
無い、ねっ~! だって……」
「……お前は笑わない、からっ!」
「いつもいつも苦しそう。
……いつもいつも我慢してるっ!」
「お前は何のため、生きてる、の?」
夜の帳の中に『底の見えない闇』がある。
黒い闇から『幼い男の子』が叫んで、真っ直ぐに問いを投げかけている。
問いながら、目の前の扉を開くーー。
ーー開いた扉の先には『光』があった。
『暴食の瞳』に仄かな光が差し込む。
差し込む光と共に、
両手で握った『大剣』を上から真っ直ぐに振り下ろす『お兄ちゃん』が映り込む。
……『冷たい瞳』のお兄ちゃんが、映り込んでいた。
その瞳と『私の瞳』が交差した時……視界が黒くなった。
映る景色が一瞬で『底の見えない深い黒』に覆われたーー。
ーー黒は去り、景色が色を取り戻した時……
『私の瞳』が映していたのは、宙に浮いた大剣を握る『両腕』だった。
……腕のもとを辿っていく……
……そこには……お兄ちゃんがいるはず……
…………でも、無かった。……そこには何もなかった。
見えるのは『壁』だけ。
……家に入った先にある、二人でご飯を食べていた『広間の壁』だけ。
お兄ちゃんは……『暴食の闇』に呑まれていた。
振り下ろそうとする大剣と『その両腕』を残して、喰われていた。
……感情を置き去りにして勝手に状況を理解し始める、私。
理解する状況に『心』が追いつき叫ぼうとした瞬間、白い光が現れる。
私の目の前で『白い光』は輝く。
眩いほどの輝きで、一瞬で視界を白く染めていく。
白く染まる景色の中で『お兄ちゃんの声』が響いてくる。
「満たされることなんてない」
「笑う必要なんてない。
我慢なんて当たり前じゃないか」
「苦しいなんて、当たり前じゃないか」
「人は『救世主』を望んでいる。
そして僕は……『救世主』として、生きているんだから」
感情を殺すような『冷たい呟き』と共に、見える景色は真っ暗になったーー。
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ーー真っ暗になる景色を前に私は叫べずにいた。
叫べないまま、薄い青が混じった『黒い闇の中』に包まれる。
叫ぼうとしていたのに、声が出なかった。
白く染まった景色の中で見てしまった『瞬き』が瞳の中に残り続けていた。
”瞬き……最後の瞬間、私は切られたんだ。
お兄ちゃんの大剣が、宙に浮いていた『大剣』が……白く瞬いて迫ってきた”
”でも、それだけじゃない。
瞬きの中にお兄ちゃんはいた。『暴食の闇』にほぼ全身を喰われたはずなのに……”
”体を持った、お兄ちゃんが……確かに見えた……”
……『癒しの力』。
人間が『救世主』を望む限り、お兄ちゃんは応えてしまう。
……あんな酷い状態からでも生きてしまう。……死ぬことが、出来ないんだ。
視界が滲む。涙が出てくる。
”なんでっ……何でお兄ちゃんはっ……!”
”お兄ちゃんは心から望んでるのっ……?
……ううん、違うっ! だって……苦しそうだったっ……!!”
声が出ないまま、涙だけが溢れてくる。
”そうだっ……苦しくても、我慢してるんだっっ……。
優しいから、無理をしてでも応えちゃうんだっっ……頑張っちゃうんだっっ……”
”なんでっ……
頑張ってるお兄ちゃんが『想い』を殺さなくちゃいけないのっ……!!”
悲しくなる。怒りが湧いてくる。
……訳が、分からなくなる……でも気付いた。
”でも……
……優しくて、無理をしてでも頑張ってるお兄ちゃんは……”
”私が知ってる、お兄ちゃんなんだっ……
大好きなお兄ちゃんのまま、なんだっ……昔から変わってないんだっ……”
……静かに泣き続ける私のもとに、『色欲さんの声』は届く。
”やっぱり『呪い』だ。
あんな状態からでも、何事もなかったかのように癒せるなんて……”
”私たちの『力』が『私たちの心』まで狂わせていくっ……”
……色欲さんも……泣いてる……
”彼も……『傲慢』も、
私の前ですら『笑顔』を見せてくれなくなった……”
”あの子を人形にしてから。
『願い』のために……あの子を犠牲にしなくてはいけないと知った時から……”
……苦しん、でる……
”あの時から、彼はおかしくなった。
ううん……もうずっと前から、おかしかったの”
”強くなった力に呑み込まれて狂い始めてたっ”
”言葉遣いが荒くなった……
地上の人間を殺すことに執着し始めた……まるで別人みたいに、なった……”
……大切な人を想って……泣いてるんだ……
”私は……決めなくちゃいけないのかもしれない”
”あの子を救うか、
あの子を犠牲にして『彼』を救うか……”
”決めなくちゃ、いけないのかなっ……?”
泣きそうな色欲さんの声と共に、色は変わる。
いつもみたいに『闇』を染める色が変わっていく。
ーー『青みがかった茶色』へと、変わっていくーー。




