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私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<後編>~約束が灯す明日~
38/51

ーー第38話 「嫉妬の炎」ーー

 ーー世界は赤く染まる。

青みがかった『赤い闇』に私は包まれた。


 でも、それどころじゃなかった。


 ”お兄ちゃんって言葉を、教えた……?

色欲さんが言ってる『あの子』って……私の、こと……?”



 混乱する。……訳が、分からなくなる……。


 でも……前から不思議には思ってた。

人形だった『私』の奥底に残ってた『お兄ちゃん』って言葉……。


 ……それに、始めて聞いた『色欲さんの声』に懐かしさを感じたこと……。



 ”やっぱり……私が憶えて無い記憶が、ある……?”


 ”この『記憶の旅』で、それが……わかるの……?”



 向き合うべきことが増えて、混乱が深まっていく。

でも世界は甘くない。……『大罪の声』は響き、過去は闇の中に映り出す。


 ……次の記憶へと移っていく。


 ”っ……。

……今はとにかく、『お兄ちゃんの過去』と向き合うんだっ……!”



「また会えるわね、救世主」



 闇の中に『嫉妬の声』が響く。

……声と共に見えてきたのは、夜の街。


 炎の柱に囲まれ照らされる『人間の街』ーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー激しい炎に照らされる『街の中心』に私はいた。

天まで届く業火の柱が『ある一点』を除いて、夜の街を囲んでいる。


 逃げゆく人間たちの叫び声が響いてくる。

……人間たちが『その一点』に向けて、叫びながら走っていく……。



 ……やがて静かになっていく街の中、近づいてくる足音が一つ。

……誰かなんて、見るまでもない。…………大剣を握った『お兄ちゃん』だ。


 私を見つめるお兄ちゃんの瞳は変わらずに『冷たい』ままだった。


  その冷たい瞳を見つめ返して『嫉妬』は笑う。



「救世主、あなたは本当に惨めね」


「あなたは人間を守るけれど、人間はあなたを守らない」


「どこまでいっても独りきり……」


「うふふっ! 

 惨めすぎて、笑っちゃうわっ!」



 静かになった街の中を見渡しながら、

最後にお兄ちゃんを見つめて、笑っていた。


 ……笑いながら、泣いていた。



「…………

 ……なんで、そんなものを続けるの……?」


「あなたを縛る……いずれ殺す『呪い』を、

 何でそこまで素直に、受け入れられるのっ……?」



 笑い、泣いて……

問いを投げかける『嫉妬』。


 闇の中にも震えが伝わってくる。

その震えと共に……『色欲さんの声』も響いてくる。



 ”なんで、なの……

   どうして私たちは『力』を持っているの……”


 ”あなたも、あの子も……

彼も、私も……みんな、『力という呪い』に縛られてるっ”



 響いてくる甘い声も、震えていた。


 震える甘い声に意識を取られていると、

いきなり『お兄ちゃんの声』が聞こえてくる。



「……どうでもいい。

    どうでも、いいんだっ……」



 震えが伝染していく。

聞こえる声が、響いてくる声が……みんな震えてる。



「僕は人間の想いから生まれた……

  ……『魔族を殺せ』という想いから」


「……それしか、ないんだ」


「なくて、いいんだ。

  ……だって僕は……『救世主』なんだから」



 お兄ちゃんの震える言葉。

それはまるで……断末魔のようだった。


 ……お兄ちゃんが冷たくなっていく。

身体の震えが無くなっていく。……『救世主』に、なっていく。


 ”そしてまた……

  あの冷たい瞳が、冷たい言葉が『私』に向けられる”



   「だから、魔族は殺す」



 その呟きと共にお兄ちゃんが迫ってくる。

大剣を握り、私を……『魔族』を殺すために駆けてくる。


  思わず目をつむりそうになった。

……でも、我慢する。苦しむお兄ちゃんから目を離さない。


 ”もう逃げない。どんな過去も受け止めるって、決めたからーー”



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー迫ってくるお兄ちゃん。

その周りから『炎の柱』が上がっていく。


  ”お兄ちゃんを拒絶するように。

……ううん、何もかもを拒絶するように街中から『業火の柱』が上がってる……”


 泣き狂い、震えている『嫉妬』。その周りの全てが『炎』に包まれていく。


  ……まるで『嫉妬の心』を映すかのように燃えていく。



 ”伝わってくる。

『嫉妬』の震えが、狂いが、悲しみが……。『闇の中』から響いてくるの”


    ……なんで、どうして……


 ”嘆いて問うような二人の声が混ざり合うように響く……。

……『嫉妬』と『色欲さん』の震える声が、響き続けてるっ……”



 それでも『私の瞳』はお兄ちゃんを捉え続けていた。

全てを拒む『炎』を前にしても、お兄ちゃんは止まらない。


 ……どんどんと近づいてくる。

炎に焼かれながら、ただ真っすぐに向かってくる。


 ……白い光を纏うお兄ちゃん。

両手で大剣を握り、後ろに構えて真っ直ぐ迫ってくる。



 私とお兄ちゃんの視線が交わり続ける。


  そして……握る手に力を入れて薙ぎ払う、瞬間ーー



     ーーお兄ちゃんの姿が消えた。




 ”違う、私の視線が高くなってる……!”


 私の身体は『業火』に包まれていた。

街中で燃え上がっていた『炎の柱』が私のもとに集まってきていた。


 ”でも、全然熱くない……? 

    ……『嫉妬の炎』だから……?”


 お兄ちゃんは構わず大剣を薙ぎ払う。


 ……それでも、切られなかった。

集まって包んでくる炎のおかげで私は浮いていたから。



 どんどん大きくなっていく業火を前に、

お兄ちゃんは後ろに飛び退き、離れていく。


  離れるお兄ちゃんを見下ろす私。


 ……そんな私を中心に据えて、『炎の巨人』が生まれた。



 生まれ落ちた巨人は嘆く。

嘆き、全てを拒絶するように『獄炎の渦』を巨体から生み出していく。


 ”次々と生まれゆく炎が『暗い夜』を照らしていったんだ”


 明るく照らされるお兄ちゃんの顔。

私の瞳に映る、その顔は……何の感情も映していなかった。


 ……嘆き狂う『炎の巨人』をじっと見つめながら、

お兄ちゃんは地面を強く蹴り、飛び上がる。……白い翼で空を翔けていく。


 そして……私に向かってきた。


  襲い掛かる獄炎を大剣で切り裂いて、


   目に見えない速さで『白い光』が夜空を翔けて迫ってきた。



 ……その勢いのまま、

私の腕を、足を……次々と切り落としていく。


 ”痛みは無い、けど……だけど……”


   ”こわ、いっ……”


 圧倒的な力を向けられ、思わず呟く。

闇の中で震えている『私の頭上』から声が聞こえる。



「これで終わりだ」



 両手と両足を失い、うつ伏せで地に伏す『巨人』。


 巨人は……『嫉妬』は、最後まで嘆いていた。



「なんでっ……?

  ……どう、して……?」



 その『終わりの嘆き』に、お兄ちゃんは答えた。



「……僕が救世主だから」


「『普通の人』じゃ、ないから。…………仕方ないんだ」



 お兄ちゃんの答える声は震えていた。

また、震えを取り戻して……苦しんでいた。


 ……そして、地に伏す巨人は二つに切り裂かれていく……。



「…………ごめん…………」



 暗くなっていく景色の最後に、震える私は聞いた。

悲しそうな、お兄ちゃんの小さな呟きを確かに聞いたんだーー



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー真っ暗になった景色を前に『私』は震えていた。


 青みがかった『赤い闇』に包まれながら、

自分の身体を抱いて……小さく、丸まっていた。



 ”怖いって、思っちゃったっ……

私っ、お兄ちゃんのことを……怖いってっ……”


 ”お兄ちゃんの、こと……なのにっ……”


 自分が抱いた感情が許せなかった。

大切な人への恐れが……許せなかった。


 ”私、私はっ……受け止めるって、決めたのにっ……!”



 自分の身体を抱く力を強くする。

……無理やりにでも、『震え』を止める。


 ”そう、だっ……!!

受け止めるんだっ……私は、逃げないっ!!”


 ”どんなお兄ちゃんでも、向き合うんだっっ!!!”




 ーー震えを抑えた私のもとに、また『色欲さんの声』が響いてくる。



 ”っ……ごめん、か……”


 ”それは私が……

私が『あの子』に言わなくちゃいけない言葉だ……”


 ”あの子を『人形』にしてしまった『私の言葉』だっ……”



 悲しそうな、苦しそうな声が響く。



 ”あの子の『時戻しの力』は不完全だったの。

力を使うには『対価』が必要だった。……そしてあの子は自身を差し出した”


 ”っ……だから……

安易に力を使えなくするために『封印』してしまったっ……”


 ”私の力で『人形』に、するしかなかったっ……”



 ……っ!!

  ……『人形』……。 やっぱり私のこと、なんだね……。



 ”あの子の笑顔が忘れられないっ……

その表情も、言葉も、声も、温もりも……全て……”


 ”あの子と過ごした暖かい時間を忘れることが、できないっ……”


  ”二人で話した『甘い夢』を……忘れられないっ……”



 ……っ。

  ……色欲さん、苦しそうっ……



 ”だから私は『救世主』に問うの。

その『癒しの力』なら、あの子を……救えるかもしれないからっ……”


 ”だからこそ私は……

問い続けて『救世主の仮面』を剝がさなくちゃいけないっ……!”



 ”待っていてっ……必ずあなたを、助けるからっ……!!”



 その言葉と共に、映る景色は消えた。

いつもみたいに『闇』を染める色が変わっていく。


 ーー『底が見えない深い黒』へと、変わっていくーーーー。

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