表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<後編>~約束が灯す明日~
37/51

ーー第37話 「強欲の風」ーー

 ーーーー世界は緑に染まる。

青みがかった『緑色の闇』に、私は包まれた。


 ”また、青みがかってる……?”


 私を包みこむ『闇』は色づきながらも、

前も今も……変わらずに、なぜか青みがかっていた。



 ”色欲さんと関係、あるのかな?”


 そんなことを考えていると、

また闇の中に『大罪の声』が響く。……過去の景色が映り出す。



「地上の全ては、俺のものだっ!!」



 ”人間の街が……

……私が消した『街並み』が、見えてくる”



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー見えた景色の中で、私は『風』に包まれていた。

……天と地を繋ぐような荒れ狂う『竜巻』の中心で浮いていた。


 激しくうねる強い風は、

地にあるもの全てを巻き込みながら、進み続ける。


 進む先に見えたのは……大きな『街』。


  ”今は無い、『人間の街』”



 どれだけ『強い風』に覆われようと、

私の瞳には『世界』が映っていた。……視界が遮られることはなかった。


 ”遮っていて、ほしかった……”


 思わず私は呟く。

犯した『裏切り』を見せつけられているみたいに感じて、呟いてしまった。



 漏れ出た呟きに反応するかのように、

映る景色の中に、小さな一つの『人影』が現れる。


 現れた人影は『私の進み』を遮るように立っていた。

……人間の街を守るように『竜巻の進む先』に立っていたんだ。



 ……どんどんと『街』に近づいていく。


  ……少しずつ、『人影』が大きくなる。


   その輪郭が……はっきりと見えてくる。



 私には分かっていた。

見なくても……分かっているんだ。


 そして『強欲の声』が叫ぶ。



「出たな、救世主っ!!」



 答え合わせをするかのように、叫ぶ声が『闇の中』に響き渡ったーー。




 ーー竜巻の前に立つ『お兄ちゃん』。


 お兄ちゃんは逃げない。

左手に大剣を握りながら、冷たい瞳を向けてくる。


 ”荒れ狂う風が近づいてきても、

   どうでもいい……みたいな表情で、立っていた”



 その冷たい雰囲気に私の胸はチクリと痛む。

……見慣れないお兄ちゃんの姿に、まだ慣れることが出来なかった。


 それでも何とか、

映る景色を見続けていた『瞳の中』で……お兄ちゃんが下を向く。



「……ふぅ」



 下を向いたお兄ちゃんは、静かに息を吐く。


  そしてーー



     「いくよ」



        ーー竜巻に向かって、走り出した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーお兄ちゃんが向かってくる。

”私のもとへ……ううん、荒れ狂う『風』の中へ”


 お兄ちゃんの体は『鋭い風』に切り刻まれた。

天まで届く『風の壁』が、お兄ちゃんの歩みを止めようと激しくうなっていた。



 ……でも『お兄ちゃん』は止まらない。



 どれだけ『その身』を傷つけられようと、

包む光が癒していく。……『白い光』が、癒してしまう。


 お兄ちゃんの『表情』も全く変わらない。

どうでもよさそうに冷たい瞳で、ただ前を見続けている。


 ”傷は治せても、

   傷つけられる痛みはあるはずなのに……”


    ”痛い、はず……なのに……”



 ”なんでっ……? 

どうしてっ……そんな顔、してるの……?”


  …………お兄、ちゃんっ…………



「救世主、お前は何を手に入れた」


「……その大きすぎる力で、何を掴むことができた」


「お前には何もない……その顔を見たら分かるぞ」


「ーーその苦悩に満ちた、お前の顔を見たらなっ!」


「哀れだっ! 

 お前は『空っぽの器』でしかないっ!!」



 ”気付いてっ、あなたは『空っぽ』なのよっ”


 ”だから……

そんな『救世主』なんて役割に縛られないでっ……”


 ”生まれた『あの子』みたいに、

あなた自身の『想い』を持ってもいいのっ……!”



 ……色欲さんの声が聞こえてくる。


 必死で説得するような、

泣いているような……そんな甘い声が響き渡る。



「……苦悩に満ちた顔……?」


「何を言っているんだ、お前は?」



 お兄ちゃんは歩みを止めずに聞き返す。

どれだけ傷つけられても変わらなかった、その表情が変わる。


 ……少しだけ、イラつきが表れる。



「だって、そうだろうっ!」


「『俺の風』でこれだけ傷つけられても、

   お前の表情は変わらない。……痛みすらも感じないんだろう?」


「そのお前の顔を……

  ……『救世主という仮面』に全てを奪われた顔を……」


「『苦悩』と言わずして、なんと言えばいいんだ?」


「教えてくれよっ! なぁっ!!」



 『強欲』の言葉が、煽るような叫びが……

お兄ちゃんに刺さっていく。……その顔を変えていく。



        「だまれ」



  ……静かな『怒りの顔』へと変えていく。



「ハハハッッッ!!!

  その表情と言葉が答えじゃないかっ!」


「今感じている想いを忘れるなよっ!!」


「……それがお前自身の『想い』なんだからなっっ!!!」



 『自身の言葉』を相手の記憶に刻み付けるように、

『強欲の風』が……お兄ちゃんを切り刻む風が、さらに強く鋭く吹き荒れる。


 ……全てを手に入れるようにお兄ちゃんの手から『大剣』を奪っていく。


  …………それでも、お兄ちゃんの歩みは止まらない。



「もう、だまれ」



 怒りを込めた静かな呟きが響いた。

お兄ちゃんは呟きと共に大きく右足を踏み出す。


 ……『その一歩』が、行く道を阻む壁を乗り越えさせた。

お兄ちゃんが竜巻の中に入ってくる。……怒りを宿した『瞳』で見上げてくる。



 そして……

続く左足で大地を強く蹴り、飛び上がったーー。




 ーー飛び上がるお兄ちゃん。

    勢いのままに白い翼をはためかせ、天を翔け昇る『お兄ちゃん』ーー


 『強欲』が気圧されている。

震えながらも、向かってくる相手に叫び続ける。



「忘れるなっ!

  逃げるなっ!! 想いに向き合っていけっっ!!!」


「その怒りも、苦しみも、痛みも、全てお前自身のものだっ!!」


「手に入れたものを自ら手放すなっっ!!!」



 お兄ちゃんが私に向かってくる。

拳を握って飛んでくる。……怒った眼をして、迫ってくる。


 ”おにい、ちゃんっ……”


 また私は目をつむってしまった。

でも、つむる間際に見てしまう。……”唇をかみしめる、お兄ちゃんの姿”を。



「黙れっ」


「僕は『救世主』なんだ」


「……『空っぽの器』で、いいんだ」



 その苦しそうな呟きは、

逃げるように瞳を閉じた私に向けて、追いかけるように響いてきたーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー次に私が瞳を開いたとき、

映る景色はもう『真っ暗』になっていた。


 ……瞳を閉じていても、最後の景色は流れてきた。


 ”私は……

   ううん、『強欲』は『お兄ちゃんの拳』に貫かれたんだ”



 そうして私は『闇』に包まれる。

……青みがかった『緑色の闇』に、また包まれた。


 最後の景色とお兄ちゃんの苦しそうな姿を見て『茫然』としている私。


 ……そんな私に、闇の中から『色欲さんの声』が響いてくる。



 ”救世主は苦しんでいる。

……『あの子』と違って、役割に縛られている”


 ”そう……。

救世主と違って、あの子は縛られていない……『魔王』という役割に”



 茫然としている私にも響いてきた。

……”お兄ちゃんが苦しんでる”、その言葉が。


 届いてきた言葉と共にさっき見た姿が浮かぶ。

唇をかみしめて苦しそうに呟く、お兄ちゃんの姿が浮かんでくる。



 そして私は思い出す。

私がずっと、お兄ちゃんの過去を知りたがっていたことを。


 ……知りたがっていた理由を。


 ”支えたかったんだっ……!

私は、お兄ちゃんを支えたかったっ!! 苦しんでるお兄ちゃんをっ!!”



 その想いが、私の瞳に『光』を灯してくれる。


 ”だから……もう逃げない。

どれだけ苦しくても、辛くても、目をつむってしまいそうでも……”


 確かな熱を持った光が、私の心に『決意』を抱かせてくれる。


 ……”お兄ちゃんの過去を受け止めるんだっ!!”




 ーー決意を抱いた私に『色欲さんの声』は響き続ける。



 ”魔族の想いから生まれた『魔王』。

……『時を戻す力』を持った『あの子』は、救世主と同じだ”



 ……ぇ……!?

  ……『魔王』? 時を戻す、って……



 ”でも、救世主とは違う。

あの子は臆病で内気で……昔の私に似てる『女性』……”


 ”救世主と同じ年頃の『乙女』として生まれたの”


 ”生まれたばかりのあの子は、ずっと怯えていた。

自分が特別なことに。『独りぼっち』だということに……怯えて震えてた”



 ……もし、かして……



 ”だから私は放っておけなくて教えてしまったの。

救世主のことを。……『お兄ちゃん』という、言葉を”



 ……っ!!

  ……私の、こと……?



 戸惑う私に構わず、

映る景色が闇の中に消えていく。……甘い声が消えていく。


 ーーそして世界は、『青みがかった赤色』に染まっていくーー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ