ーー第37話 「強欲の風」ーー
ーーーー世界は緑に染まる。
青みがかった『緑色の闇』に、私は包まれた。
”また、青みがかってる……?”
私を包みこむ『闇』は色づきながらも、
前も今も……変わらずに、なぜか青みがかっていた。
”色欲さんと関係、あるのかな?”
そんなことを考えていると、
また闇の中に『大罪の声』が響く。……過去の景色が映り出す。
「地上の全ては、俺のものだっ!!」
”人間の街が……
……私が消した『街並み』が、見えてくる”
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ーー見えた景色の中で、私は『風』に包まれていた。
……天と地を繋ぐような荒れ狂う『竜巻』の中心で浮いていた。
激しくうねる強い風は、
地にあるもの全てを巻き込みながら、進み続ける。
進む先に見えたのは……大きな『街』。
”今は無い、『人間の街』”
どれだけ『強い風』に覆われようと、
私の瞳には『世界』が映っていた。……視界が遮られることはなかった。
”遮っていて、ほしかった……”
思わず私は呟く。
犯した『裏切り』を見せつけられているみたいに感じて、呟いてしまった。
漏れ出た呟きに反応するかのように、
映る景色の中に、小さな一つの『人影』が現れる。
現れた人影は『私の進み』を遮るように立っていた。
……人間の街を守るように『竜巻の進む先』に立っていたんだ。
……どんどんと『街』に近づいていく。
……少しずつ、『人影』が大きくなる。
その輪郭が……はっきりと見えてくる。
私には分かっていた。
見なくても……分かっているんだ。
そして『強欲の声』が叫ぶ。
「出たな、救世主っ!!」
答え合わせをするかのように、叫ぶ声が『闇の中』に響き渡ったーー。
ーー竜巻の前に立つ『お兄ちゃん』。
お兄ちゃんは逃げない。
左手に大剣を握りながら、冷たい瞳を向けてくる。
”荒れ狂う風が近づいてきても、
どうでもいい……みたいな表情で、立っていた”
その冷たい雰囲気に私の胸はチクリと痛む。
……見慣れないお兄ちゃんの姿に、まだ慣れることが出来なかった。
それでも何とか、
映る景色を見続けていた『瞳の中』で……お兄ちゃんが下を向く。
「……ふぅ」
下を向いたお兄ちゃんは、静かに息を吐く。
そしてーー
「いくよ」
ーー竜巻に向かって、走り出した。
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ーーお兄ちゃんが向かってくる。
”私のもとへ……ううん、荒れ狂う『風』の中へ”
お兄ちゃんの体は『鋭い風』に切り刻まれた。
天まで届く『風の壁』が、お兄ちゃんの歩みを止めようと激しくうなっていた。
……でも『お兄ちゃん』は止まらない。
どれだけ『その身』を傷つけられようと、
包む光が癒していく。……『白い光』が、癒してしまう。
お兄ちゃんの『表情』も全く変わらない。
どうでもよさそうに冷たい瞳で、ただ前を見続けている。
”傷は治せても、
傷つけられる痛みはあるはずなのに……”
”痛い、はず……なのに……”
”なんでっ……?
どうしてっ……そんな顔、してるの……?”
…………お兄、ちゃんっ…………
「救世主、お前は何を手に入れた」
「……その大きすぎる力で、何を掴むことができた」
「お前には何もない……その顔を見たら分かるぞ」
「ーーその苦悩に満ちた、お前の顔を見たらなっ!」
「哀れだっ!
お前は『空っぽの器』でしかないっ!!」
”気付いてっ、あなたは『空っぽ』なのよっ”
”だから……
そんな『救世主』なんて役割に縛られないでっ……”
”生まれた『あの子』みたいに、
あなた自身の『想い』を持ってもいいのっ……!”
……色欲さんの声が聞こえてくる。
必死で説得するような、
泣いているような……そんな甘い声が響き渡る。
「……苦悩に満ちた顔……?」
「何を言っているんだ、お前は?」
お兄ちゃんは歩みを止めずに聞き返す。
どれだけ傷つけられても変わらなかった、その表情が変わる。
……少しだけ、イラつきが表れる。
「だって、そうだろうっ!」
「『俺の風』でこれだけ傷つけられても、
お前の表情は変わらない。……痛みすらも感じないんだろう?」
「そのお前の顔を……
……『救世主という仮面』に全てを奪われた顔を……」
「『苦悩』と言わずして、なんと言えばいいんだ?」
「教えてくれよっ! なぁっ!!」
『強欲』の言葉が、煽るような叫びが……
お兄ちゃんに刺さっていく。……その顔を変えていく。
「だまれ」
……静かな『怒りの顔』へと変えていく。
「ハハハッッッ!!!
その表情と言葉が答えじゃないかっ!」
「今感じている想いを忘れるなよっ!!」
「……それがお前自身の『想い』なんだからなっっ!!!」
『自身の言葉』を相手の記憶に刻み付けるように、
『強欲の風』が……お兄ちゃんを切り刻む風が、さらに強く鋭く吹き荒れる。
……全てを手に入れるようにお兄ちゃんの手から『大剣』を奪っていく。
…………それでも、お兄ちゃんの歩みは止まらない。
「もう、だまれ」
怒りを込めた静かな呟きが響いた。
お兄ちゃんは呟きと共に大きく右足を踏み出す。
……『その一歩』が、行く道を阻む壁を乗り越えさせた。
お兄ちゃんが竜巻の中に入ってくる。……怒りを宿した『瞳』で見上げてくる。
そして……
続く左足で大地を強く蹴り、飛び上がったーー。
ーー飛び上がるお兄ちゃん。
勢いのままに白い翼をはためかせ、天を翔け昇る『お兄ちゃん』ーー
『強欲』が気圧されている。
震えながらも、向かってくる相手に叫び続ける。
「忘れるなっ!
逃げるなっ!! 想いに向き合っていけっっ!!!」
「その怒りも、苦しみも、痛みも、全てお前自身のものだっ!!」
「手に入れたものを自ら手放すなっっ!!!」
お兄ちゃんが私に向かってくる。
拳を握って飛んでくる。……怒った眼をして、迫ってくる。
”おにい、ちゃんっ……”
また私は目をつむってしまった。
でも、つむる間際に見てしまう。……”唇をかみしめる、お兄ちゃんの姿”を。
「黙れっ」
「僕は『救世主』なんだ」
「……『空っぽの器』で、いいんだ」
その苦しそうな呟きは、
逃げるように瞳を閉じた私に向けて、追いかけるように響いてきたーー。
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ーー次に私が瞳を開いたとき、
映る景色はもう『真っ暗』になっていた。
……瞳を閉じていても、最後の景色は流れてきた。
”私は……
ううん、『強欲』は『お兄ちゃんの拳』に貫かれたんだ”
そうして私は『闇』に包まれる。
……青みがかった『緑色の闇』に、また包まれた。
最後の景色とお兄ちゃんの苦しそうな姿を見て『茫然』としている私。
……そんな私に、闇の中から『色欲さんの声』が響いてくる。
”救世主は苦しんでいる。
……『あの子』と違って、役割に縛られている”
”そう……。
救世主と違って、あの子は縛られていない……『魔王』という役割に”
茫然としている私にも響いてきた。
……”お兄ちゃんが苦しんでる”、その言葉が。
届いてきた言葉と共にさっき見た姿が浮かぶ。
唇をかみしめて苦しそうに呟く、お兄ちゃんの姿が浮かんでくる。
そして私は思い出す。
私がずっと、お兄ちゃんの過去を知りたがっていたことを。
……知りたがっていた理由を。
”支えたかったんだっ……!
私は、お兄ちゃんを支えたかったっ!! 苦しんでるお兄ちゃんをっ!!”
その想いが、私の瞳に『光』を灯してくれる。
”だから……もう逃げない。
どれだけ苦しくても、辛くても、目をつむってしまいそうでも……”
確かな熱を持った光が、私の心に『決意』を抱かせてくれる。
……”お兄ちゃんの過去を受け止めるんだっ!!”
ーー決意を抱いた私に『色欲さんの声』は響き続ける。
”魔族の想いから生まれた『魔王』。
……『時を戻す力』を持った『あの子』は、救世主と同じだ”
……ぇ……!?
……『魔王』? 時を戻す、って……
”でも、救世主とは違う。
あの子は臆病で内気で……昔の私に似てる『女性』……”
”救世主と同じ年頃の『乙女』として生まれたの”
”生まれたばかりのあの子は、ずっと怯えていた。
自分が特別なことに。『独りぼっち』だということに……怯えて震えてた”
……もし、かして……
”だから私は放っておけなくて教えてしまったの。
救世主のことを。……『お兄ちゃん』という、言葉を”
……っ!!
……私の、こと……?
戸惑う私に構わず、
映る景色が闇の中に消えていく。……甘い声が消えていく。
ーーそして世界は、『青みがかった赤色』に染まっていくーー。




