ーー第35話 「取り戻すための戦い」ーー
ーーーー「リリーを、返せ」
その冷たい言葉と共に、
彼は『傲慢』へと向かっていく。……静かに、ゆっくりと。
向かい来る彼を見て、
傲慢は薄く笑みを浮かべ、澄んだ声を響かせる。
「そうだ、いいぞ」
「お前はそうでなくてはっ!」
「……これでようやく、
あの最後の戦いの続きができるなっ!!」
その言葉と共に、
『傲慢の背後』に光の束が現れる。
『荒々しい光の束』が天と地を繋いでいく。
……現れた光は、
またも『無数の剣』へと形を変える。……その切っ先を『彼』へと向けて。
彼の瞳の先に『無数の光の剣』が作られていく。
そして出来上がった剣が、次々と降り注ぐーー。
ーー剣の雨を受けながらも『彼の足』は止まらない。
変わらぬ歩みで『荒々しい光』に向かい、進んでいく。
……その身を焼き尽くす『光』に向かっていく。
”光に焼かれた彼は『赤い血』に染まります。
でも……その血が『彼の背中』を染めることはありません”
”どれだけ焼かれようと、彼は決して逃げないから”
『彼女』を取り戻すための戦いからは。
『荒々しい光』に呑まれた……『大切な灯り』を取り戻す、この戦いからはーー。
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ーーそうして、
彼と『傲慢』の距離は確実に縮まっていく。
しかし、『傲慢』は浮かべた笑みを崩さない。
……笑みを浮かべながら、興奮した声を響かせる。
「フハハッ! そうだ!
それでこそ『救世主』だ!」
「その『化け物のような力』で、
お前は『色欲』を殺したのだっ……!!」
「……我の『大切な存在』をっ……
……救わなくてはならない、存在をっっ……!!」
「ゆる、さない……
……殺してやるっ……!」
”興奮した声には、
次第に怒りと怨みが込められていきました”
その『暗い想い』に呼応するかのように、
傲慢の背後に生まれ続ける『光の束』が、『黒い雷』を帯びていく。
彼の視界を埋め尽くさんと、
瞬きの間に、黒い雷を纏った『光の剣』が無数に形作られていく。
……鋭く尖った『破壊の細剣』が出来ていく。
出来上がった『細剣』が彼に向けて放たれる。
大剣で防ぐ間など与えない速さで、黒い雨が降り注いだ。
『救世主』を破壊するために。
……『黒い光の雨』が『化け物の身体』を貫いていく。
貫かれる彼の身体を癒すために、
その全身を『白く淡い光』が包み込む。
背中まで空いた『穴』がどんどん塞がっていく。
……それでも『黒い光』は止まらない。
現れた『白い光』ごと『救世主』を呑み込むように、降り注ぎ続ける。
そして……
背中から見える『穴』は増えていく。
空いた穴が塞がる前に、次の穴が空いていく。
どんどん、どんどん……『彼の身体』に空く穴が増えていく。
……『白く淡い光』が吞み込まれる。
黒い怒りを、怨みを纏った『荒々しい光』に吞み込まれていくーー。
ーー『彼の歩み』は完全に止まっていた。
『魔王』と『救世主』の距離は縮まらない。
縮まらないどころか、徐々にその間は離れていった。
…………”彼女と彼が、離れてしまう”
離れていく彼に向けて、彼女の『澄んだ声』が放たれる。
「見ろっ!
これが『魔族の力』だっ!!」
「『その瞳』に確かに刻んで、死んでいけっ!!」
「……お前も本望だろう!
愛した『女の手』で死ねるのだからなっ!」
「フハハハハハっっ!!!」
黒く濁った『叫び』が彼に届いていく。
……彼は唇をかみしめ、その『黒い言葉』に叫び返す。
確かな怒りを込めて、叫び返すーー。
「……ける、なっ……」
「ふざ……ける、なっ……!」
「ふざけるなっ!!
……返せっ!!」
「リリーを返せよっっ!!!」
ーーその叫びが世界に響いた瞬間、
『彼の怒り』に応じるかのように『白い雷』が傲慢に向かって、落ちた。
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ーー天から『白く輝く憤怒の雷』が落ちてきた。
落ちる雷が彼女を襲う。
……とっさに『傲慢』は光の盾を作りだす。
世界が一瞬『白く』包まれる中で、どうにかその身を守る。
しかし……
全てを守ることは出来なかった。
……『彼女の右腕』は、雷に打たれ焼き焦げていた……。
『憤怒の雷』が落ち、
白く包まれた世界が、その輪郭を取り戻した後……
……沈黙が訪れた。
沈黙の中、
荒野に存在するのは二人だけ。
……焼けた右腕を力なく垂らしながら、
ふらつく足で、なんとか立っている『彼女』。
……ふらつきながら立つ彼女を見て、
崩れ落ち、両膝を地面について茫然としている『彼』。
沈黙する二人に構うことなく『雨』は降り続く。
静かな雨に打たれながら、二人は似た感情を抱いていた……。
……『傲慢』は彼が大罪の力を、
『憤怒の雷』を使ったことに、驚きを隠せない。
『彼』は、彼女の焼き焦げた右腕を見て……
自分が『彼女』を傷つけた事実に震え、動揺している。
沈黙する世界で、
『彼女』は目を見開いて驚いている。
『彼女の瞳』が大きく、揺れている。
震える『黒い瞳』が……『彼』を見つめる。
そして……
彼を見つめながら、呟く。
「……なぜ……?」
「……どう、して……?」
その小さな呟きは、
大きな『震え』を伴って、彼へと届いたーー。
ーー彼の身体がビクっと震える。
静かな沈黙は破られ、
止まっていた『彼の心』も、動き出す。
『崩壊』へと……動き出す。
「……ぼ、くは……」
「ぼくがっ……りりぃ、を……」
彼の全てが震えだす。
その言葉も、身体も、心も……なにもかも。
……震える彼は、
左手に握る大剣に右手を添えて、その切っ先を自身へと向ける。
震えながらも、一切の迷いのない動きで。
美しい『その動き』に魅せられたかのように、
彼を見つめる『傲慢』は固まる。……彼を止めることが、できない。
「ごめん、りりー」
傲慢の瞳の中で『彼』は笑っていた。
笑いながら泣いていた。……泣きながら震えていた。
……震えながら、自身を大剣で貫いたーー。
ーー彼女の目の前で、
彼は謝りながら……自害した。
瞳に映る彼が倒れていく。
綺麗な『赤い血』を流しながら、
その中身が黒く、染まっていく……。
『瞳の中』で流れ続ける赤い血が、
固まっていた『傲慢の怒り』を呼び戻した。
湧き上がる怒りが『傲慢』を、
倒れている彼のもとへと導いていく。
手を伸ばせば触れられる距離まで近づいて、
『傲慢』は足を止める。……震える拳を握りながら『倒れた彼』を見下ろす。
……その瞳に『黒い怒り』を宿しながら、震える声で呟く。
「……ざけ、るな……」
「……ふざけ、るなっ……」
降り続く雨でも流せない『怒り』によって、
震える呟きは大きくなり、『叫び』へと変わっていく。
「ふざけるなよっ!!」
「お前を殺すのは魔族だっ!!
魔族である『我の手』で殺すっっ!!」
「そうでなければ、意味がないのだっっ!!!」
「……逃さん……逃すものかっ!!」
ーー『黒い叫び』が世界を染める。
『傲慢の叫び』が響いていく。……『時を刻む針』が、戻っていくーー。




