ーー第33話 「二つの光が交差する」ーー
ーー「久しぶりだな、『救世主』」
雨の中、荒野に立つ彼女は言いました。
”彼女らしくない……
『男性』のような口調で、言ったのです”
『その言葉』と、
彼女の『異様な雰囲気』に驚き固まる彼。
そんな彼の瞳に映る『彼女の手』が光に包まれる。
……荒々しい『傲慢の光』が包みこむ。
現れた光は徐々に、
彼女の手の中に集まっていき『形』を変えていった。
止まった時の中で人間たちを裁いた、『断罪の剣』へと。
……その光景を茫然と見つめる彼。
形を成していく『断罪の剣』を手に持ち、薄く微笑み続ける彼女。
そして……
形を成した『剣』は『救世主』を裁くように、薙ぎ払われたーー。
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ーー薙ぎ払われた『光の剣』によって、
『救世主』が裁かれることは……ありませんでした。
彼が『大剣』で『光の軌跡』を止めたから。
彼は『時』が動き出してから、ずっと……
……その左手で握っていたのです。戦うための『大剣』を。
突然現れた『荒野』を見ても。
何が起こったのか理解できなくても。
荒野で倒れゆく『彼女』へ……右手を伸ばした時も。
”無意識に『彼』は感じていたのかもしれません。
闘争の気配を。……迫りくる戦いの予兆を”
ーー『断罪の剣』をどうにか受け止めた彼は、
本能のままに……『彼女』と距離をとるため、後ろに飛び退きます。
そうして離れた『二人』。
強くなる雨の中……
その視線は交差し、お互いの『瞳の中』に向かい合う相手が映ります。
”彼の瞳には……『愛しい彼女』が。
彼女、いえ……『傲慢の瞳』には『殺すべき憎い存在』が”
……いまだ困惑の色を瞳に残す『彼』に向かって、
彼女の身体を奪った『傲慢』は、彼女の澄んだ声で煽るように言います。
「どうした、『救世主』」
「お前の『力』はそんなものか?」
「……違うだろうっ!
見せてみろ、その『化け物の力』をっ!!」
「我の『大切な存在』を奪った、忌々しい『その力』をっ!!!」
怒り、怨み……
強い想いに彩られた『黒い言葉』が世界に響き、『雨』に溶けていく。
自分に向けられ、発せられる言葉に……
『彼の瞳』はひどく揺れ動き、困惑の色を濃くしていきます。
「……リ、リー……?」
「…………なにを、いってーー」
彼の震える言葉を遮るように、『傲慢』が叫びます。
「早く、『救世主』になれっ!」
「『救世主』を『我の力』で殺す……
……そうしない限り、無くならないのだっ……」
「この『憎しみ』はっっ……!!」
「我の……『傲慢の怨念』はっっ!!!」
血を吐くような『その叫び』は、
降り続く雨に溶けることなく、真っ直ぐ彼のもとに届くーー。
ーーそして『叫び』と共に、彼の視界は『荒々しい光』に包まれた。
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ーー『荒々しい光』に包まれる彼。
彼を囲む『光の束』は、一瞬でその形を変える。
囲んだ敵を殺すための……『無数の剣』へと。
大剣を構える間も与えず、
『光の剣』は彼の身体を切り裂き、貫いていく。
……その体から噴き出る『赤い血』は、
降りしきる雨と交わり、荒野に浸み込んでいく。
その口から発せられる『叫び』は、
誰にも届かず、ただ虚空へと消えていく……。
……代わりに世界に響くのは、澄んだ声。
「『救世主』よ、なぜ戦う」
「お前は何のために……誰のために戦っている」
「…………思い出せ」
「救いたいのだろう、『この女』を」
落ち着きを取り戻した『彼女の声』が、
彼に『光』を思い出させようと囁く。……『救世主』を呼び戻すために、囁く。
…………呼び戻した救世主を『殺す』ために、甘黒く囁く。
”その『大切な人の声』は……
『彼』のもとへと、確かに届いてしまいます”
「……っ
……り、りぃ……」
「……ぼ、く……はっ……」
「……ぼく、はっ……!」
「……僕はっ!!」
鋭く尖った剣によって、
その身を貫かれながら『彼』は叫ぶ。
”黒く濁った『瞳』に確かな『光』を宿しながら、叫びます”
……強い光を纏った『彼の叫び』を遮ることは何物にも出来ない。
今度の『叫び』は、
虚空に消えることなく、雨に溶けることなく……『傲慢』に届くーー。
ーーその叫びを聞いた『傲慢』は、満足げに微笑んだ。
……『傲慢の瞳』には映っていたから。
無数の光の剣に囲まれる『彼』から……
血に染まりゆく赤い身体から、『淡い光』が生まれる光景が。
生まれた『淡い光』が彼を包み、
『失われた右腕』と『傷だらけの身体』を癒していく光景が。
”彼が……『癒しの力』を使う光景が、映っていたのです”
突如現れた『白く淡い光』に構うことなく、
『光の剣』は襲いかかる。……彼はまた切り裂かれ、貫かれていく。
……しかし、もう叫ばない。
噴き出る『赤い血』も、
変わらず降り続く雨によって『彼』を染め上げることは出来ない。
荒々しい光の剣も、
『白い光』をかき消すことは……出来ない。
切り裂かれ、貫かれ、赤い血を流しながら……
……傷一つない体で、彼は左手に握りしめ離さなかった『大剣』を振りかぶる。
取り戻した右手も添えて、『両手』で力強く握りながら振りかぶる。
そしてーー
ーー目の前の『光』を、薙ぎ払った。
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ーー『傲慢の瞳』は捉える。
荒々しい光を薙ぎ払い、自らに向かってくる『化け物』を。
……雨に濡れながら、
静かにゆっくりと向かってくる『化け物の姿』を。
大剣を左手に握り直して……
ただ真っすぐに見つめてくる『化け物の瞳』を。
『傲慢の耳』は捉える。
全てを焼き尽くすような光を『その瞳』に宿しながら、
揺れ動くことなく真っ直ぐ見つめて呟いてくる……『化け物の言葉』を。
”化け物の……いいえ、『彼の想い』を”
「リリーを、返せ」
”彼の『言葉』は冷たかった。
『彼の身体』も、『その瞳』も……全てが冷え切っていた”
”なぜなら『彼の灯り』は失われたから。
目の前にいる『傲慢』に奪われたと……理解したから”
ーー”だから『彼』は戦うのです。
人間のためではなく、自らの『灯り』を取り戻すために”ーー
ーー”大切な彼女と一緒に、明るい明日を生きるために”ーー




