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私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<後編>~約束が灯す明日~
32/51

ーー第32話 「私の願い、残す想い」ーー

 ーー闇の底、落ちきったそこで『甘い声』は確かに響く。



「……久しぶり、ね」



 黒い闇を青く染めながら、私の心に響いてくる。



「……しきよく、さんっ……」


「……! あなた……」



 その深い青に包まれて、

その……久しぶりの、優しい声に包まれて……


 私の『想い』は溢れ出す。



「わたしっ……!」


「わた、しっ……

  ……おにい、ちゃんを……」


「……おにいちゃんをっ……うらぎっちゃったっ……!」



 そう。私は裏切ったんだ。

……『人』として愛してくれた『お兄ちゃん』を。


 ……私は『魔族』に、なってしまった……。


 ” 『救世主』である、

お兄ちゃんの『敵』に……なっちゃたんだ ”


 ”私の意志で『人間』を……殺しちゃった、から”



「……っ……

  ……しきよく、さんっ……」


「……わたしっ……」


「わたしっ……!

  どうしたら……いいのっ……?」



 私の溢れる想いを、

『色欲さん』はただ静かに聞いていた。


 ”何も言わず……受け止めて、くれた”



「どうしたらっ……

  ……おにいちゃんっ……ゆるして、くれーー」


「ーー大丈夫」


「……大丈夫、よ」



 色欲さんは、

泣き叫ぶ私を優しく包むように……そう、言ってくれた。



「あなたの『大切な彼』なら、

  きっと……許してくれるわ」


「……あなたがちゃんと謝れば、ね」


「……! 

  ……ちゃんと……あやま、る……?」



 その言葉で『私』は思い出した。

昔、お兄ちゃんが言ってくれた……優しい『赦しの言葉』を。


 ”リリーが悪いことをしたって、

ちゃんと謝ってくれたなら、それだけで良いんだ”



「そう。

  だから大丈夫」


「あなたと彼なら、大丈夫よ」



 ”大丈夫”


 色欲さんの言葉が、

溢れて暴れて止まらない『私の暗い心』を静めてくれる。


 ”安心、させてくれる”



「……でも、

  ちゃんと謝るために……あなたは知らなくちゃね」


「…………?

  …………なに、を…………?」


「『救世主』としての彼を」


「……あなたが殺してしまった『人間』を、

  『魔族』から守り抜いた……彼の苦しみを」



 ……!

  ……お兄ちゃんの、苦しみ……?



「彼は望んで『救世主』になったわけじゃないの」


「……ただ、そう生まれ……

  その生き方しか知らなかっただけ」


「…………

  だから彼は、ずっと苦しんでいた」



 ……ずっと……

  ……前、から……?



「だからこそ、

  あなたに『人』として生きて欲しいと願っていた」


「『人』として幸せになってほしいと願って……」


「あの『帽子』を贈ったのよ。

  ……自分と同じ苦しみを『あなた』に知ってほしくないから」



 ……大切な……

  ……あの、帽子っ……!



「『魔王』として、

   覚醒したあなたなら……」


「今のあなたなら、思い出せるはずよ」


「……かつての『彼』を」


「『七つの大罪』と戦った、

  『救世主』としての彼のことを」



 ……私の知らない、お兄ちゃん……



「彼の苦しみを知ったうえでなら、

  ちゃんと謝れる……ちゃんと『彼』と向き合えるはずよーー」



 ーーその言葉と共に、

深い青に染まっていた『私を包む闇』が、黄色く変わっていく。


 ”色欲さんの声が……遠くなっていくっ……”



「大丈夫。

  あなたはこれから『旅』をするだけ」


「大罪たちの『記憶の中』を巡るだけ……だから」



 ”記憶を、巡る……?”


   ーー闇がどんどん『黄色』に染まっていく。



「……だから、

 『記憶の旅』を巡り終えた時に決めてね」


「謝って仲直りした後の『明日』を。

  あなたは『大切な彼』にどう生きて欲しいのか、をね」



 ”明日を……決める……?”


   ーー『深い青』がだんだん薄くなっていく。



「大丈夫。あなたならーー」



 ーーそうして『私の闇』は、黄色く染まったーーーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーーー”あなたなら『望む明日』を掴めるはずだから”


 最後の言葉を伝える前に、

『あの子』は旅立ってしまった。


 ”でも大丈夫。あの子ならきっと……”


 私はそう信じる。

終わってしまった『私』には信じることしか、できない。


 ”もう『七つの大罪』は……

   ……『彼』と『私』は終わってしまったの”



 それに、もう……

『私の願い』はいつでも叶えられる。


 少し狂いはあったけれど、

魔王は目覚め、それに呼応して『彼』も……『傲慢』も完全に目覚めた。


 『傲慢』はあの子の身体を奪って、『救世主』と戦っている。


  ……昏く深く積もった『怨み』を晴らすために。


   ……ただ、『救世主』を殺すために。



 そして救世主を殺した時、

ようやく……『彼』は怨みから解放される。


 ”暖かく私を照らしてくれた『彼の笑顔』が、戻ってくるっ……”


 ……それが『私の願い』。


  罪に塗れてでも、叶えたい……最後の『願い』。


   ”怨みに囚われた『彼』を救い上げて、私は終わりたいの”




 でも、

この願いは『あの子』を苦しめてしまう。


 だからせめて……私はあの子に『時間』をあげる。


 ……救世主を『人』へと堕とす……。

『望む明日』を掴む『覚悟』を決めるための時間を。


 ”救世主としての『大切な彼』を……

  『殺す』ための、覚悟を決める時間をね”



 『今の私』には終わるまでの時間を稼ぐことできる。

……予想外だったけど、救世主がまだ『癒しの力』を使えたから。


 救世主は最後まで狂っていた。

なぜか、『この世界の仕組み』から外れていた。


 ”どうしてなのかは分からない。

        でも……もう、いいの”


 『傲慢』は目覚め、

唯一この世界を終わらせることのできる『あの子』は私の記憶の中へと旅立った。


 ”もう、『私の願い』が狂うことはない”



 ”本当だったら……

直ぐに彼が、『傲慢』が殺して終わり……だったんだけどね”


 ”だから『救世主』には感謝しなくちゃ、かな”


 ”その狂いのおかげで、

私は最後に……純粋に『あの子』のために動くことが出来るから”


 ”あの子に何かを、残してあげられる……から”



 ーーそんなことを一人で呟きつつ、

     深い青を帯びた『闇の中』から、私は『外』を見る。


 そこには……荒野に立つ『魔王』と『救世主』の姿があったーーーー。

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