ーー第31話 「覚醒、そして二つの再会」ーー
ーー私は『窓が割れる音』で目を覚ました。
『暖かい光』は……届かない。
思わず『割れた窓』を見ると、世界は『曇り空』に覆われていた。
……”あの『森』じゃ、ない……!?”
私は混乱した。
『いつもの場所』じゃなかったから。
”なんでっ……? ……どう、してっ……?”
焦り混乱している私に構わず、世界は進んでいく。
……『怒声』は響き、お兄ちゃんは『家の外』へ向かっていく。
……『死』へと、向かっていく。
何もできずに、
その場で固まる私に『声』が届いた。
「……奴を救わなくていいのか」
それは……
『男の人』の声だった。
……『傲慢』の、声だった。
「お前なら、救えるだろうに」
……!
……わたし、なら……?
「ああ、そうだ」
「お前の『力』を使えば、救えるぞ」
……わたしの、力……
「お前の『大罪の力』で、奴を救えばいい」
「奴を飲み込む『闇』を、
全て喰らい尽くせばいい」
……っ!
……その、言葉……は……!
「お前の『言葉』だろう」
「お前の『想い』、なのだろう」
……でもっ、
今の……『闇』、は……
「何を迷っている」
「まさか、
『人間』を喰らうことを躊躇っているのか」
……っ。
……だって……
「フハハ、まさかなっ!」
「『魔族』であるお前にとって、
『人間』を殺すことを『躊躇する理由』なぞ、あるはずがないか!」
…………っ。
……だって、お兄ちゃんは……
……私を……『人』として、愛してーー
「ーー分かっているのか?」
「もし躊躇するならば、
お前は『奴』より『人間たち』が大切だ、ということだからな」
「お前にとって……
……『奴』はその程度の存在だったのか?」
…………っ!! 違うっ!!
……お兄ちゃんは『あいつら』なんかとは違うっっ!!
……私の大切な……『大切な人』、なんだっ……!!
「……! フハハっ!」
「いいぞっ!
ならば、喰らえっ! 喰らい尽くせっっ!!」
「『魔族』として『人間』を喰らい尽くしてしまえっっ!!!」
……喰らい、尽くすっ……!
……お兄ちゃんを、飲み込む『闇』は……全部……!!
「そうだっ!
お前は『奴』を救いたいのだろうっ!!」
「どんなことをしてでも、
どんな『力』を使ってでも、救いたいのだろうっっ!!」
……そう、だっ……!
……どんなことをしてもっ……どんな力を使ってでもっっ……!!
…………私が、お兄ちゃんを救うんだっっ!!!…………
「ならば、
『人』であることをやめろっ!」
「『魔族』として覚醒してみせろっっ!!」
「『魔王』として生まれた、『お前の力』を見せてみろっっ!!!」
ーーそうして『私』は、
黒く、暗く、深い……『闇の底』へと堕ちていくーーーー。
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ーーーー『彼女』が『傲慢』と話している間、
家の中で固まって茫然としている間にも、『外の世界』は進んでいきます。
『彼』は家から出てすぐのところで、
両膝を地面につき、手にした『大剣』の切っ先を自身へと向けました。
そして、周囲を囲む『人間たち』に向けて叫ぶーー。
「あの『女性』は、
僕とは関係ありません」
「彼女は何の『力』も持たない、『普通の人』です」
「……だからどうか」
「どうか、
その『恐れ』は『僕だけ』で終わらせてください」
「どうか……お願いしまーー」
ーー最後の言葉を言い切る直前に、世界は『闇』に包まれました。
……人間の街は『怠惰の土の壁』に覆い尽くされたのです。
世界が『闇』に閉ざされた時、
彼を含めて『彼女以外の全ての存在』の『時間』は止まります。
…………『静寂』が、訪れました。
『静寂なる闇』の中で突如『光』が現れます。
……沈黙する街の『上空』に、
『荒々しい光の束』が静かに浮いているのです。
突如現れた『光の束』は、
彼女の時が経つにつれて、一つ一つ『その形』を変えていく。
……地上に切っ先を向けた、『断罪の剣』へと。
…………そして、『静寂』は破られる。
最後の一つが『剣』へと形を変えていく。
変わり終えた、次の瞬間ーー
ーー『断罪の剣』は地上へと降り注いだ。
……罪人である『人間たち』を裁くために。
その身から出る『赤い血』で、『罪』を洗い流すためにーー。
ーーそれは『一瞬の出来事』でした。
『傲慢の光』が、
『彼と彼女』を除く『全て』を焼き尽くしたのです。
一瞬で『人間の街』は赤く染まり、
響いた叫びも、瞬く間に虚空に消えていきました。
そして……。
……赤く染まった街を、再び『闇』が包み込む。
…………『全てを喰らう暴食の闇』が包み込んでいく。
”彼女が買い物に行っていた『市場』も、
彼女たちの『明るい家』も、その家の中にある『暖かな思い出』も……”
”そのすべてを『闇』が、
静かにゆっくりと……吞み込んでいくのです”
ーー闇が全てを包み込み、
喰らい尽くした後……何もかもが終わった後に『彼の時』は動き出します。
彼が動き出して最初に見たのは『闇』。
……次に『曇り空』。
……最後に見たものは『何もない荒野』ーー
ーーそして、荒野で泣き崩れる『彼女の姿』……でした。
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” 『闇』がすべてを喰らった後、『土の壁』は崩れていきます ”
”土の壁が崩れ去り、
『曇り空の下』に現れたのは……『人間の街』ではなく『何もない荒野』”
”そして『荒野』に立っていたのは、二人だけ”
”魔族の想いによって生まれた『魔王』と
人間の想いによって生まれた『救世主』……その『二人』だけ、だったのです”
ーー何が起こったのか理解できず、
言葉を発することが出来ないでいる『彼』。
……そんな彼と彼女の頭上から、
『雨粒』がぽつりぽつりと落ちてきます。
……次第に『雨』は強くなり、
雨音が『彼女の泣き叫ぶ声』をかき消していきました……。
世界の音を『激しい雨』がかき消していく中、
崩れ落ちていた『彼女』はゆっくりと顔だけを上げ、彼を見つめながら呟きます。
「ーー 」
『彼女の声』は激しい雨の中に消え、
彼のもとまで響くことはありませんでした。
しかし、その『言葉』は確かに彼に届きました。
……なぜなら『彼女の口の動き』が見えていたから。
その口の動きを、『彼』はよく……知っていたから。
ーー”ごめん”
彼女はそう呟いた後、力なく地面に倒れこむ。
倒れる彼女の姿を見て、
茫然としていた『彼の意識』は、ようやく『この世界』に戻ってきます。
……雨の中『彼』は走り出す。
大切な『彼女』のもとへと……。
そうして、あと一歩で彼女に届く……
……彼の伸ばした手が『彼女』へ届く、間際ーー
ーー『断罪の大剣』が、二人の間に突き刺さった。
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”天から地へと『一本の光の大剣』が突き刺さり、
彼の『伸ばした手』を、その右腕ごと切り落としました”
地に刺さった『大剣』は大きかった。
彼の見ている世界から、『彼女』を覆い隠してしまうほどに。
切り落とされた彼の腕から『赤い血』が噴き出る。
……綺麗な赤い血が、『光の大剣』を真っ赤に染め続ける。
しかし『その光』を染め上げることは出来ない。
……降り続く激しい『雨』が『彼の血』を洗い流していくから。
”彼の血も、涙も、叫びも……『全て』を洗い流していくのです”
そして降り続く雨の中に、
『荒々しい光』は滲み、徐々に溶けていく。
……地に刺さった『光の大剣』はゆっくりと消えていった……。
『光』に遮られていた『彼の世界』が広がっていくーー
ーー広がった世界の中心に、『彼女』はいた。
倒れていたはずの『彼女』は、
その二つの足で静かに立っていた。
……顔は下を向いている。表情はうかがい知れないーー。
ーー雨の中、荒野に立つ彼女を見つけて、
『彼』が痛みをこらえ『彼女の名』を呼ぼうと、したとき……
……『彼女』がゆっくりと『顔』をあげた。
……顔をあげ、『彼の瞳』をじっと見つめた。
……彼を見つめ、薄く『微笑み』ながら言った。
「久しぶりだな、『救世主』」
”彼女らしくない……
『男性』のような口調で、言ったのです”
驚く『彼の瞳』に映る、彼女。
彼女の頭にはもう『大切な帽子』はありません。
”街を吞み込んだ『暴食の闇』は、思い出の帽子さえも喰らっていました”
……魔族の証である『角』を隠すことなく、静かに荒野に立つ彼女。
そんな『彼女の黒い角』は……降りしきる雨に濡れて、淡く輝き続けていた。
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ーーーー私は『闇の底』へと堕ちていく。
堕ちて、落ちて、落ちきった時……あの『甘い声』が聞こえた。
「……久しぶり、ね」
その声と共に、
私を包む『黒い闇』は『深い青』を帯びていくーー。




