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私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<後編>~約束が灯す明日~
30/51

ーー第30話 「逃れられない合言葉」ーー

 ーー私の戦いは始まった。


 朝、私は起きて『ご飯』を作る。

お兄ちゃんはまだ寝てる。……家の中は冷えている。



 世界は……まだ薄暗い。

  まだ少し、眠たい。



 ”でも、私は『戦う』って決めたんだ!”


 ”昨日、お兄ちゃんは震えてた。

だから今日は震えなくていいように、始まりから温めてあげないとっ!”



 小さな灯りを頼りにご飯を作っていると、

いつの間にか、ひんやりしていた家の中が暖かくなっていた。


 ”背中が暖かい……お日様が昇ってきたのかな?”



 そうしてご飯を作り終えた私は、

背中から感じていた『仄かな暖かさ』に振り向く。


 振り向いた先には、お兄ちゃんがいた。

窓から差し込んでくる『朝日』を背に、静かに立っていた。



「……!

  おはようっ! お兄ちゃん!」



 私は不安をかき消すように、

   笑顔でお兄ちゃんの傍に行く。



「……ごめん」


「わわっ!?

  ……お兄、ちゃん……?」



 お兄ちゃんは、

目の前に来た『私』をそっと抱きしめ、囁く。


 ……”そんなお兄ちゃんの体は、震えていたんだ”



「…………ごめん」



 小さな震えと共に、

冷え切ったお兄ちゃんの体温が伝わってくる。


 私の身体も冷えていく……。


  でも、私はーー。



「……大丈夫、だよ」


「だから……

  謝らないで、お兄ちゃん」



 ーー私は、

    お兄ちゃんの『光』に、なるんだ。



「……

  私たちは『二人』、なんでしょう……?」


「だから、ね」


「二人で支えあって、生きていこう」



 お兄ちゃんの背中に手を回して、

私は冷えた身体を抱きしめる。……『私の温もり』を分けるように。



 ーーそうして、『朝』は過ぎていく。


 朝日に照らされ、

冷えた世界は『温もり』を取り戻していくーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー朝が過ぎたら『昼』が来る。


 暖かいお日様に照らされて、

   私は街の市場へ『お買い物』に行く。


 ”お兄ちゃんに留守番してもらって、一人で行くんだ!”



 今のお兄ちゃんを『一人』にするのは……

少し心配だったけど、食べるものがなかった。


 だから私は買い物に行く。



「行ってきます!」



 私は笑顔でお兄ちゃんに言う。



「……ごめん」



 お兄ちゃんは謝る。

……弱弱しい微笑みを浮かべて、また……謝る。


 その『合言葉』のような謝罪が『私の胸』にチクっと刺さった。


 それでも……

私は『笑顔』を返して、家を出るーー。




 ーー家を出たとき、『視線』を感じた。


 私たちを監視するように、

じっと……静かに見つめている。


 ”昨日から、ずっと……”



 その視線は、

街の中心近くにある『市場』へ近づくほど、強くなっていった。


 ……強く、全身を刺すように増えていった。



 私は気にしない。

”気にしたら……ダメだ”


 ”今、私が負けちゃったら……

……誰がお兄ちゃんを支えるの……?”


 ”誰も、いない。

だから『私』は負けちゃダメなんだっ……!”




 ーーそうして、

何とか『お買い物』を終えて、家へと帰る。


 ……監視する『視線』は家に入るまでずっと『私』を見ていた。


 ”それでも『私』は気にしない。

……気にしないで、『笑顔』でお兄ちゃんに言うんだっ!”



「ただいまっ! お兄ちゃん!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーそして昼が過ぎ、『夜』が来る。


 横になっても、

体を丸めて小さく震える『お兄ちゃん』。


 ……私に『背』を向けて、隣でだんだん冷えていくお兄ちゃん。



「……お兄ちゃん。

  私を見て。私の方を、向いて」



 ゆっくりと優しく、

震えるお兄ちゃんの背に向けて『私』は囁く。


 『私の囁き』にお兄ちゃんはビクッと身体を反応させた。



 そして、徐々に……

『私の方』を向いてくれる。


 お兄ちゃんの『震える瞳』が私を見つめる。



「……大丈夫、だよ」



 私は『その瞳の震え』を包み込むように、

お兄ちゃんの頭に両手を回して、私の胸にそっと導いた。


 ……私の温もりで、安心させるように。



「お兄ちゃん……聞こえる……?」


「私の『生きてる音』……

  ”ドクン、ドクン”って、いってるでしょ」


「……大丈夫」


「私は生きてるから。

  ……お兄ちゃんを『独り』には、しない」


「ずっと……『隣』にいるから」



 そうして私は、

お兄ちゃんの頭を優しく撫でる。


 ーー夜泣きする幼子をあやすように、眠りにつくまで撫で続けるーー



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー『私の戦いの日々』は続いていく。


 その日々の中で、

私たちを監視する『視線』は増え続けた。


 視線を遮るために、窓の内側に布をつけたりもした。


 明るかった『私たちの家』はどんどん暗くなっていく。

  ……”それでも私たちは、『一緒』に生きていくんだっ”




 ーーでも、私たちの日々は砕かれる。

窓を割り、家の中に入ってきた『尖った石』によって。


 ……割れた窓から響いてくる、『人間たちの怒声』によって。



 うずくまって怯える私たちに『声』が響いてくる。



 ”出てこいっ! 救世主っ!

……いや、この化け物がっっ!!”


 ”あんな力、普通の人じゃない……”

  ”怖い……”  ”恐ろしい……”


 ”もし……襲われたら……”

”もしも……敵になったら……”


 ”その前に追い出さないと……” ”私たちの街から……”


 ”生き残るために、消さないと”

”怖いものは……恐ろしいものは、危ないから”


 ”いらない、から”



 ……そして『響く声』が一瞬消えた。

『一瞬の沈黙』、その後に響いた一言がお兄ちゃんを動かした。



 ”もしかして、

    『あの女』も……化け物……?”



 …………


……その『恐れ』が、お兄ちゃんを動かしてしまった。



 お兄ちゃんは震えながらも、

  立ち上がり歩き出す。


 薄暗い家の『出口』に向かって。

……曇り空に覆われた『外の世界』に、向かって。



「……っ! いやっっ!!」



 私は叫んで、立ち上がり、

お兄ちゃんの手を掴もうとする。


 ……でも、届かない。


 虚空を掴んだ勢いで、

私は顔を強く床に打ちつける。



 世界が滲む。

『涙』が、出てくる。


 私は……立ち上がれない。


 気付いたときには、

お兄ちゃんは『外へと続く扉』に手をかけていた。



「……ごめん」



 扉を開け、

外へ出る間際にお兄ちゃんは呟く。


 ……私に『背』を向けて。



「……い、やっ……」



 私はもう一度立ち上がろうとする。


 その時、右足が痛んだ。

見てみると……『赤い血』が流れていた。


 ”割れた窓で切って、たんだ”



 それでも唇をかみしめて立ち上がる。


 そして血の跡を残しながら、

足を引きずり、どうにか『外』に出る。


 ーーその瞬間、お兄ちゃんの『震えた声』が聞こえた。



「あの『女性』は、

  僕とは関係ありません」


「彼女は何の『力』も持たない、『普通の人』です」


「……だからどうか」


「どうか、

  その『恐れ』は『僕だけ』で終わらせてください」


「どうか……お願いします」



 ……その言葉の後、

私の目の前で『お兄ちゃん』に『大剣』が突き刺さる。


 ーー私の世界が、『赤く』染まった。


 赤黒く染まった『剣の切っ先』が私に向いている。

……両膝をついて、胸のあたりを貫かれた『お兄ちゃんの背中』が見える。



 私は『声』を上げることも忘れて、

足を引きずりながら『お兄ちゃんの前』に行く。


 ”お兄ちゃんに抱きしめてもらうために”


  ”お兄ちゃんの『温もり』で、

    凍えた『私の身体』を溶かしてもらうために”


   ”いつか熱を出した時みたいに、

       この『悪夢』から目覚めるために”



 ……目の前に来た私を、

黒く濁った『お兄ちゃんの瞳』が捉える。


 そしてーー。



「…………ごめん」



 ーー私を愛おしそうに見つめて、

     その『合言葉』を残すお兄ちゃん。


  ……私の頭を優しく撫でながら、倒れる『お兄ちゃん』。



「……なんで……」



 理解できない……

したくない現実を前に、私は呟くことしかできなかった。



「……おにい、ちゃん……?」



 倒れたお兄ちゃんから、

綺麗な『赤』が広がっていく。


 ーーお兄ちゃんが、

『死』という『醜い黒』に染まっていく。



「……っ

 ……ゃ……だっ……」


「……い、やっ……」


「ーーーーいやぁぁぁぁっっっ」



 私は叫んだ。

悲しみ、怒り……溢れる想いを抑えきれずに。


 ーーその瞬間、世界は薄暗く包まれていくーーーー。




 ーーーー叫ぶ彼女は綺麗な『赤い花』のようでした。


  彼女の身体は『真っ赤』に染まっていたから。

飛び散った『彼の血』で『かぶっていた帽子』ごと、赤く染まっていたのです。

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