ーー第3話 「救世の終着点」ーー
ーーそして『色欲』と名乗った女の人の声は、お兄ちゃんの死について話し始めた。
「最初に、あなたは救世主が死んでしまう理由を理解してる?」
「……理由……」
「それは……私が、帽子をかぶらなかったから……」
「……っ
……『魔族』だって、知られちゃったからっ……」
泣きだしそうになる私を、色欲さんは優しい声で否定する。
「それは違うのよ」
「……っ!?」
「だって一回目の時、
あなたはちゃんと帽子をかぶっていたでしょう?」
「……! 一回目……」
ーー私はあの時のことを思い出す。
”そうだ、初めてあの悪夢の光景を見たときは……
お兄ちゃんは帽子をかぶった私の頭を撫でてくれたんだ”
そして思い出した光景の中、人々が叫んでいたことと、
お兄ちゃんを見つめるその瞳が……怯えるように小さく震えていたことに気付いた。
「”救世主は……もういらない”」
「……あの人たちは、怯えながら叫んでた……」
「そう。
それが救世主が死んでしまう理由なの」
「……これが、理由……?」
「救世主は人間の想いから生まれ、人々の恐れで死ぬのよ」
……私はその言葉の意味を理解したくなかった。
だって、そんなの……
”お兄ちゃんの命は、お兄ちゃんのものじゃない”
……って言ってるように聞こえるよ。
「……そうよ、救世主の命は人々のもの」
「……っ! なんで、考えてることが……」
「分かるわよ。
だって、私はあなたの中にいるんだから」
「……! 私の、中に?」
「うん、あなたの中にしかいない存在」
「ーー私たち『七つの大罪』は、すでに全員が『救世主』に殺されているの」
その言葉は衝撃だった。
もういない存在……私の中にだけ、いる存在……。
そして思い出した。『七つの大罪』という魔族のことについてーー。
「七つの大罪……人間を大勢殺した、魔族……」
「……人とは違って、角が生えている生き物」
「そうね。角は生えているわ。
でも見た目に関して、人間と違う部分はそれだけなの」
「……あなたと同じように、ね」
「……っ
……私と、同じ……」
「うん。
あなたと私たち、そしてーー『救世主』は、同じなんだよ」
「……! お兄ちゃんも?」
「そう、救世主も同じ。
普通の人とは違って、白い翼を持ち、『癒しの力』を持っている」
「……あなたが角を持ち、『時戻しの力』を持っているように。
そして私たち『七つの大罪』も角を持ち、それぞれ『力』を持っていた」
”ーーお兄ちゃんと私が、同じ……!”
そのことに嬉しさを感じつつ、私の中にはある疑問が浮かんだ。
「……?
なんで、色欲さんは私に話しかけれるの?」
「……もう、死んでるのに」
「ふぅ……。
言ったでしょ。……あなたの中にしかいない存在だって」
「私だけじゃない。
あなたの中には『七つの大罪』の全てがあるの」
”ーーなんで?”
……そんな疑問しか湧いてこない。
”私の中に『七つの大罪』の全てがある……? どうして……?”
「それはーーあなたが最後に生き残った『魔族』だから」
「……! 最後の、魔族……」
「あの『地獄へ続く穴』と呼ばれている洞窟の前で、
彼と……大罪の中で最後に残った『傲慢』と、救世主が戦った」
「そして救世主が勝ったことで、七つの大罪は全員殺されたの」
「……その時、
あなたと救世主は出会い、共に生きていくことになる」
そうだ、あの洞窟の奥でお兄ちゃんは怯える私を見つけてくれた。
……でも『傲慢』っていう魔族は、知らない。ーー知らない、はず……。
「私たち『七つの大罪』の力の源は、『生きたい』という一つの強い願いだった」
「……だから救世主に殺された後、
バラバラになって漂っていた『七人の力』が集まって……」
「最後に生き残った魔族である、
あなたの中で、想いだけの存在として生き続けているの」
私の中に、色欲さんたちがいる……。
かつて人間達を恐怖させた、恐ろしい力が私の中に……。
「そうよ。
だからあなたは、この世界で『七つの大罪』の力を使うことができる」
「……っ!」
「力を使えるからこそ、救世主を救うことができる」
「……お兄ちゃんを、救う……」
「救世主は『救世主』である限り……
……人を救う存在である限り、人の恐れによって殺される」
「人々の恐れの対象になった瞬間に、自ら死を選んでしまうから」
「……! ……自殺……」
私が見た悪夢……
二回ともお兄ちゃんは自身の武器で、自らを貫いていた。
そうだよ、お兄ちゃんが負けるはずがないんだ。ーーだって『癒しの力』があるんだから。
「そう。
救世主は意図的に力を使わず、自殺を図った」
「なぜなら『救世主』だから。
人間の脅威となる存在には、死をもたらす者だから」
「……たとえそれが、自分自身であっても」
そして改めて、
色欲さんはお兄ちゃんが死んでしまう理由を、私に突きつける。
「救世主が死ぬ原因は、『人の恐れ』」
「そして、
それはあなたが何もしなくても必ず救世主に向けられる」
「一回目の時のように……ね」
「ーーだって人々は思い込んでいるから。
魔族がいない世界で、人だけの世界で『力』を持つのは『救世主』一人って」
「……だから人々は救世主を恐れ、
その恐れによって救世主は自ら死を選ぶ」
「二回目の時は、
その運命を早めただけ。ーー逃れられない結末を」
「…………その結末を変えるには…………」
「……救世主を救うには、
あなたが彼を『ただの人』へと堕とすしかないの」




