ーー第28話 「夢のような幸せな日々」ーー
ーー” 『この子』はもう大丈夫 ”
『色欲』は彼女の中で静かに呟いた。
『誓いの口づけ』を終え、
彼の腕の中で安らかに眠る『彼女』を起こさないように。
”この子は『彼を想う心』と『我儘な愛』を持っている。
その二つと『約束』を忘れなければ、望む明日へ辿り着けるはずよ”
”もう、私では辿り着けない『明日』へと”
そしてーー。
”そして、
この廻る時の中で『この子』は成長してる”
感情を知り、向き合うことで……
私の目論見通り、順調に『この子の力』は増している。
それは『怠惰の力』を感じ取っていたことから、分かる。
”それに『憤怒の雷』と『暴食の闇』も、
自分に対してだけじゃなく、『力の対象』を意識して選べるようになっていたしね”
”ううん、それだけじゃない。
感情に関係なく、力を『自由』に使えるようになっていた”
……”覚醒の時は近い、か”
『覚醒』の時……
その時がきたら、ようやく『私の願い』を叶える条件が揃う。
”そして私は、
『罪』を犯して『願い』を叶えるの”
”この子には……『恨まれる』だろうな”
” ……でも……仕方ない、よね。
『私』はもう、彼を『救い上げる』って決めたのだから ”
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ーーーーあの光の中での『誓い』の後、
私は『幸せな日々』をお兄ちゃんと一緒に過ごしてる。
”本当に、夢みたいに『幸せ』で一杯なんだっ!”
ーー『二人』でいろんなことをした。
お兄ちゃんに『贈り物』をするために、
暖かな光で包まれた日に二人で『あの森』へ行った。
”いつか燃えてしまった『花冠』を、
また……お兄ちゃんの頭にかぶせてあげられたっ!”
『花冠』をかぶったお兄ちゃんは、
あの時みたいに微笑みながら泣いてくれた。
”私を抱きしめながら、『ありがとう』って泣いてくれたんだっ……!”
あの時の『花冠』は、
『私たちの家』に大事に飾ってる。
”私とお兄ちゃんの『大切な思い出』だから”
他にもお兄ちゃんを支えられるように、
『私』は買い物やご飯づくりにも挑戦をした。
”今度は『一人』じゃなくて、
お兄ちゃんに手伝ってもらいながら『少しずつ』頑張ってるんだっ!”
……あの時とは違って、
私はお兄ちゃんに相談してみた。
”私が『一人』で出来るようになりたい”って。
そうしたらお兄ちゃんは、
少し驚いた後に嬉しそうに微笑んで、言ってくれた。
「それなら、
僕も手伝うから少しずつ頑張っていこう!」
「……?
でも、お兄ちゃんに手伝ってもらったら……」
「リリー。
最初から全部『一人』で頑張らなくてもいいんだ」
「……僕たちは『独り』じゃなくて、『二人』なんだから」
お兄ちゃんは、そう言ってくれたんだ。
……だから今も私は、
お兄ちゃんに手伝ってもらいながら少しずつ頑張ってる。
”お買い物は、
少し遠くから見守ってもらいながらだったら、一人で出来るようになったっ!”
”ご飯を作ることは、
お兄ちゃんに隣で教えてもらいながら、少しずつ覚えてるっ!”
まだ一人で『全部』は出来ないけれど、私は焦らず『笑顔』で挑戦できてる。
”だって、私は『独り』じゃないから。
お兄ちゃんが『隣で一緒に』頑張ってくれるからっ……!”
ーーそうして今日も、私は眠りにつく。
日はすっかり落ち、
外は『夜の暗闇』に包まれていた。
そんな暗闇の中でも、私は寒くなかった。
”お兄ちゃんの体温が『私』を温めてくれるから”
私は感じる『温もり』に嬉しくなって、
隣で横になっている『お兄ちゃん』に思わず抱き着いていた。
「……お兄、ちゃんっ……!」
お兄ちゃんの体を枕にするように、顔をうずめて擦りつける。
……お兄ちゃんは、
そんな私の頭をそっと優しく撫でてくれる。
「リリー……」
「……君がいてくれるから、
僕は『生きよう』と思えるんだよ」
深くなっていく暗闇。
その中に『小さな囁き』が響いた。
頭の方から聞こえてきた『囁き』に、
重くなってきた瞼を少しあげて、私は上を向く。
……”お兄ちゃんと目が合った”
その『瞳』は私を見ていた。
『愛おしそう』に見つめていたんだ。
ーー深い光が宿る『その瞳』に目を奪われる。
「……僕は、
ずっと『独り』だった」
「人間たちの想いから生まれた僕……」
「……僕は『普通の人』じゃ、なかったんだ」
ぼんやりしている『私』に、
お兄ちゃんの穏やかな声は響き続ける。
「……でも、
『あの方』は教えてくれた」
「リリーも……僕と『同じ』だって」
「僕は、『独り』じゃないって」
……? あの、方……?
「『あの方』って……?」
「…………『女神様』、だよ」
「リリーと僕にとっての『母親』……」
「『お母さん』、
みたいな存在……なんだ」
……?
……おかあ、さん……?
……私と……お兄、ちゃんの……?
「いつか、リリーも会えるよ」
「……リリーが苦しくて苦しくて、
どうしようもなくなった時に……」
「『女神様』は必ず、助けに来てくれるから」
お兄ちゃんの穏やかな声が『子守歌』みたいに響いてくる。
幼子を寝かしつけるように、
お兄ちゃんの暖かな手が『私の頭』を優しく撫でている。
……私の意識が、ゆっくりと沈んでいく。
暖かな『暗闇』に優しく包まれて、次第に瞼が落ちていく。
ーー” 『女神様』は、
ずっと僕たちを見守ってくれているんだ ”ーー
落ちてゆく私にも、『その呟き』は確かに届いていた。




