ーー第22話 「独りぼっちのお人形遊び」ーー
ーー『彼女』は『色欲の力』を使った。
その力を使い、
『救世主』を……『大切な人』を操った。
……『人形』に、してしまった。
『色欲』が最後まで選ばなかった『道』を、真っ直ぐ進み始める『彼女』。
それでも『色欲』は……『彼女』を見守る。
”大丈夫。
『この子』なら戻ってこられる”
”終わってしまった『私』とは違う……
……今を生きている『この子』なら、まだ『望む未来』を選び取れるはず”
”この子が抱いた『最初の願い』は、まだ……形を保ってる”
……そう信じて、
暗闇の中から、じっと『彼女』を見つめ続ける。
その瞳の先に映る『彼女』はーー
ーー彼女は笑顔で、『人形』に抱きついていた。
……『救世主』の形をした、瞳の光を失っている『人形』に。
…………なにも気づかないふりをして、『お人形遊び』に夢中になっていた。
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ーーーー”お兄ちゃんは『私』だけのものっ!”
私は抱きついた『お兄ちゃん』に、笑顔で尋ねる。
「お兄ちゃんは、
私のこと……好きっ?」
「好き」
「……大好きっ?」
「大好き」
”ふふっ……!
お兄ちゃんが、私のこと『大好き』って言ってくれてるっ!”
お兄ちゃんは『疲れたような笑顔』で何でも応えてくれる。
ーー『私』の望んだとおりに、望んだことをしてくれる。
「リリー、震えてる」
「……!
……お兄ちゃんっ……!」
”抱きしめて欲しい”って、
『私』が思ったら、優しく抱きしめて包み込んでくれる。
”私だけを見てくれるっ……!”
「……お兄ちゃん……」
「……もう、どこにもいかない?」
「…………っ
私を置いて……どこかに、いったりしないよね……?」
震える声で、
私は『虚ろなお兄ちゃん』に聞いてみる。
するとーー。
「どこにもいかない」
ーー張り付いた笑顔で、『私の目』を見て応えてくれる。
この暗闇に包まれた世界でも、
私には『お兄ちゃん』がちゃんと見えていた。
……その表情や、姿まで『はっきり』と見えているんだ。
”真っ黒な『お兄ちゃんの瞳』まで、全部ねっ!”
「……!
お兄ちゃんっっ!!」
嬉しい気持ちを抑えきれずに、
抱きついていたお兄ちゃんの胸に、深く顔をうずめる『私』。
「……お兄ちゃん、大好き……だよ」
”私の『渇き』は満たされていた”
”お兄ちゃんは、
さっきの言葉の通りに、どこにもいかなかったから”
” ……暗闇の中から聞こえてくる、あの『うるさい声』が届いても ”
「……うるさいな」
暗闇に声が響いてる。
……『人間』たちの声が響き続けてる。
…………暗いよ…………怖いよ…………
……なんで……何も見えない……どうして……
…………助けてよ…………誰か…………
……お願い…………誰か…………助けて……
ーー人間ではない『女の人の声』も響いてる。
「『救世主』、
貴方はなぜ、そんなに頑張るのですか?」
「……傷だらけになりながらも、進み続けるのですか?」
「そんな生き方をしていては、
貴方はいつか……貴方自身を殺しますよ」
「……時には、
頑張らずに立ち止まって、休むことも大事なのです」
響いてくる『他人の声』が煩わしい。
「本当に、うるさい」
”お兄ちゃんの愛しい声が聞こえないでしょっ!
私とお兄ちゃんの『大切な時間』を邪魔しないでよっ!”
そう思いながら、
しばらく過ごしていたらーー
ーー段々と、『うるさい声』が聞こえなくなっていた。
「……! ふふっ!」
暗闇の中で、
思わず私は笑ってしまった。
”やっと……静かになったっ!”
……そして、
静寂の中で『私』は、愛しい『お兄ちゃん』の言葉を聞く。
「ずっとリリーの傍にいる」
”私はまた、満たされた”
……そんな時、私のお腹が鳴り始める。
でも……
そんなこと、どうでもいい。
”もっと、『お兄ちゃん』の言葉が聞きたいっ!
もっと、『お兄ちゃん』に私だけを見て欲しいっっ!!”
”もっと、もっと、『お兄ちゃん』に……愛してほしいっ!
もっと、もっと、『お兄ちゃん』と……一緒にいたいっっ!”
”お兄ちゃんの……『傍』にいたいっ!
離れてかないで……置いていかないで……お兄ちゃんっっ……”
…………『私の傍』に、ずっといてっっ…………
ーーその『想い』以外はどうでもいい。
どうでもいい、はずなのに……。
……『あの声』は聞こえてきた。
『その言葉』だけは……無視できなかった。
「ーー『お人形遊び』は楽しい?」
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ーー『その声』は、
静かになったはずの暗闇から……
” ……ううん、違う。
『私の中』から聞こえてきたんだ ”
「……お人形、遊び……?」
「……!
……へぇ……聞こえたんだ?」
ーー『人形』。
昔のことを思い出して、思わず反応してしまった。
” ……そう、引っかかったのは『昔のこと』……だけなんだ ”
「……この言葉に反応するってことは……」
「ちゃんと、『自覚』はしてるのね」
「……っ!」
「……うる、さい……」
私が反応したことで、その声は止まらなくなる。
……そして私も、
その煽るような『甘い声』を、段々と『無視』出来なくなる。
”私とお兄ちゃんの『幸せな時間』が……甘い声に侵されていく”
「っ。
……うるさいっ!」
「私とお兄ちゃんの『幸せ』をじゃまするなっっ!」
「……!
……ふふっ」
「……何が、おかしいのっ……?」
「ふふっ、あははっ!」
その甘い声は、笑い続ける。
”私とお兄ちゃんの『幸せ』を笑い続けたんだっっ……!!”
「答えてっっ!!」
ーー私が怒りのままに叫ぶと、ようやく『甘い声』は答え始める。
「……ふふっ、ごめんね」
「あなたが、
『お兄ちゃんの幸せ』……なんていうから」
「……彼を『人形』にして、
『彼自身の幸せ』を奪った張本人である……あなたが」
「…………ぇ…………」
”私が、お兄ちゃんの『幸せ』を……奪った……?”
……その言葉を突き付けられた『私』は、『私の世界』は止まる。
茫然とたたずむ私に、『甘い声』は容赦なく言葉を告げる。
「……あなたが、
『救世主』を殺したの」
……『私』が、殺した……?
……お兄ちゃんを救うために頑張ってきた、『私』が……?
「彼の心を殺して……
……『人形』に、したのよ」
……大切な……
大切な『お兄ちゃん』を、『人形』に……した……?
……『人形』だった私を……
『人』に、してくれた……『お兄ちゃん』を……?
”でも……
お兄ちゃんは、笑ってるよ……?”




