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私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<前編>~二人の約束~
21/51

ーー第21話 「もう離さないよ」ーー

 ーー熱で倒れた『少女』を『救世主』が看病している。


 仰向けで、

暖かい布に包まれながら、眠り続ける『少女』。


 『少女』の熱くなったおでこに、

冷たい水が染み込んだ布を当てる『救世主』。


 ……おでこの熱で布が暖かくなったら、また冷たい水を染み込ませて当て直す。



 『少女』が汗をかいて寝苦しそうにしていたら、

優しく起こさないように体の汗を拭いてあげる『救世主』。


 ……その後、『少女』の寝息が穏やかになるまで傍で見守るーー。



 ーーいいえ、その時だけじゃない。

彼は……この子の目が覚めるまで、ずっと傍にいた。


 ” 『お兄ちゃん』って、うわごとを呟いてる『この子』の傍にずっといたの ”



 『どこにも行かないよ』って伝えるように、その手を優しく握りながら。


 ”そっと『この子の頭』を撫でながら『リリー』って小さく呟いてーーーー”



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーーー私は『夢』を見ていた。



 ……『怖い夢』。


 お兄ちゃんが……いなくなちゃう夢。


 ”お兄ちゃんと繋いだ手。

その私の手から、お兄ちゃんの手がすり抜けていっちゃうの”



 ……だから『私』は何度も何度も叫び続ける。


 『お兄ちゃん』ってーー。




 ーーその悪夢が何度も廻る中で『私の右手』は冷えていく。


 お兄ちゃんの暖かい温もりを忘れて、冷たくなっていく。



 その手の感覚すら、なくなってきたとき……


 ……暗い世界は突然『穏やかな光』に包まれた。



 ” 『リリー』って呼ぶ、お兄ちゃんの声が聞こえたから ”



 そして私は『悪夢』から目覚めるーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー私が目覚めたとき、最初に感じたのは『右手の温もり』だった。


 次に『頭のくすぐったさ』。そして、私の瞳には『お兄ちゃん』が映り込む。



「……おにい……ちゃん……?」


「……! リリーっ!」



 お兄ちゃんは目覚めた私を見て、瞳を潤ませながら下を向く。


 ……握っていた『私の右手』を、

今度は両手でそっと包んで、胸に抱え込むようにして呟いていたんだ。



 ”良かったっ……!”って。



 ”目が覚めたばかりで、

ふわふわしている『私の心』に、そのお兄ちゃんの姿は鮮明に残り続けたんだ”



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


 ーー目が覚めたけれど、

私は『嘘』をついて、今も寝込み続けている。


 なぜなら、目が覚めたときの『お兄ちゃんの姿』が……


 ……”私だけを見てくれる『お兄ちゃん』が、忘れらなかったから”



 もう体は、元気になってる。

いつでも『いつも通りの私』に戻れる。


 でも……

……それでも私は『噓』をついてでも、『いつも通りじゃない私』を演じている。



 ーー”だって、

そうしていれば『お兄ちゃん』は、どこにも行かないでくれるから”


 お兄ちゃんはずっと、『寝込む私』の傍にいてくれた。


 お兄ちゃんは今まで以上に、『私のため』だけに生きてくれた。




 ……お兄ちゃんに『嘘』をつくのは、心がチクっと痛んだ。


 それでも……

それ以上に、『お兄ちゃんと離れ離れ』にならないことが大事だった。


 ーー『大切な人』を失わないことが、大事だったんだ。



 ”お兄ちゃんを『独占』できる、この時間を失いたくないっ!”




 ーーーーそうして、

体調が悪いふりをして寝込み続ける『少女』の中に『怠惰』が生まれる。


 『色欲』の願いが叶うときに、また一歩近づく。



 ……しかし、『色欲』は素直に喜べなかった。

今の『少女の姿』を見て、喜ぶことは出来なかった。



 ”今の『この子』が、一線を越えないといいのだけれど”


 ーーその『色欲』の小さな呟きは、

『少女』に届くことなく、暗闇に沈んでいったーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーそして『怠惰』は現れる。 


 街は『土の壁』に覆われた。……その全ては『暗闇』に包まれていく。



 『怠惰』は『土の大罪』。

地に根差し、全てを包み込む『母なる大地』の大罪ーー。




 ーー”暖かな日の光を遮られた『闇の世界』”


 ……『色欲』は、

その世界に『懐かしさ』と『恐ろしさ』を感じていた。



 ”この『暗闇』は、あの洞窟を思い起こさせる。

私たちが……『魔族』が住んでいた、『地獄へ続く穴』と呼ばれた洞窟を”



 震え始める体を自ら抱きつつ、

暗闇の中でも変わらず、彼女は『少女』を見守り続ける。


 ただじっと、少女が『道』を歩む姿を見つめ続けていたーーーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーーー私は感じた。

『怠惰』が、街の中心に現れたことを。


 ……驚く私に、暗闇の中から『お兄ちゃん』は静かに告げる。



「リリー、

 少しだけ……待っていてね」


「……っ!?

 おにい、ちゃん……?」



 ”お兄ちゃんが『私の傍』から離れていっちゃうっ……”



「なんでっ!」


「……! リリー……」


「……大丈夫だよ」


「急に暗くなったから、

 少しだけ、外の様子を見に行くだけだから」


「……っ

 でもっっ……!」



 震え始める私の声を聞いて、

お兄ちゃんは『私』をそっと抱きしめる。


 ……冷え始めた私の身体を、優しい温もりが包み込む。



「……おにい、ちゃん」


「リリー……」


「……大丈夫、だから」


「…………っ」



 私の耳元で『お兄ちゃん』が囁く。

……私を安心させるように、ゆっくりと囁くんだ。


 …………だから『私』はーー。



「……いって、らっしゃい……」



 ーー『私』は、震える声で『見送る言葉』を呟いていた。


 ”今の『私の心』には無い、

絶対にあるはずの無い『言葉』を……なぜか、呟いちゃったんだ”



「……!

 ……いってきます」



 お兄ちゃんは、

離れるときに『私の頭』を優しく撫でて、外に行ってしまった。


 ……残された『暗闇の中』で私の身体は温もりを失い、また冷えていく。


 ”…………

  ……やっぱり……最後には、私から離れて……いっちゃうんだね”



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーーー『色欲』は『少女の姿』を見ていた。

その幼い姿を……『少女の中』から、じっと見ていた。



 ……『救世主』が去った後、

魂が抜けたように茫然とする『少女』。


 次第にその目元から……『涙』が零れ落ち始める。



 ……しかし、

『少女の声』は聞こえない。……響かない。


 泣き叫ぶことはせず、暗闇の中で『ただ静か』に涙を流す少女。



 ”そんな『この子』の姿を見て、私は『嫌な予感』がした”


 ”なぜなら……

『この子の瞳』は、全く揺れていなかったから”



 ” 『何かを決意した』ように、

ただ真っすぐ、救世主が去っていった後の『暗闇』を見つめていたからーー ”



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーー『色欲』の予感は当たってしまう。


 外から帰ってきた『救世主』に、

『少女』は笑顔で、一つのお願いをした。……”屈んで、目を閉じていて”と。



 さっきまで震えていたはずの『少女の笑顔』に、

『救世主』は少しだけ困惑しながらも、『大切な少女』のお願いに応えた。 


 ……両膝をつき、屈んで目を閉じる『少女にとって大切な彼』。


 その顔は、『少女の顔』と同じ高さになる。



 同じ高さになった『彼の両頬』に、

『少女』は冷え切った自分の両手を、挟み込むようにそっと添えた。


 その冷たさに驚いたのか、少し体を震わせる『彼』。



 ”リリー?”と呟きながら、

『彼の閉じた瞳』が、徐々に開かれていくーー。



 ーー次の瞬間、


 『少女の笑顔』は『幼い無垢な笑顔』から『大人びた妖艶な微笑み』へと変わる。


 そしてーー



 ーー”この子は救世主に『口づけ』をした”



 ”それだけじゃない。

繋がった『救世主』の中へと、自分の水分を流し込んだの”


 目を見開いて驚く『彼』に対して、

『少女』は彼の口を塞ぎながら、とろんとした瞳で『愛しい相手』を見つめ返す。


 ……そうして『暗闇の中』で、二人の吐息だけが現れては、溶けていく……。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……しばらくして、暗い世界は『一瞬の静寂』に包まれた。



 『静寂』の後、最初に世界を震わせたのは『少女の声』だった。

『少女』はうっとりとした表情で、濡れてきらめく唇を離しながら、囁くーー



 ーー”もう離さないよ”



 その囁きは、

『幼い少女』ではなく『大人の女性』が発したような、妖艶な響きを持っていた。


 そして全てを妖しく染め上げるように、二人を包む『暗闇』に深く溶けていく。


 ”…………

  …………こうして『この子』の、『お人形遊び』が始まった…………”

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