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私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<前編>~二人の約束~
20/51

ーー第20話 「お兄ちゃんは私のもの」ーー

 ーー私は『穏やかな木漏れ日』と『暖かな緑』に包まれて、目が覚める。


 目が覚める、けどーー。



「…………」



 ーー体が動かなかった。


 仰向けになったまま、指一つ動かせない。



「……体は大丈夫?」



 色欲さんの心配そうな声が聞こえてくる。


 ……だけど、私は。



「…………」



 何も答えない。


 ……応える気なんてなかった。



「……? どうしたの?」



 それでも色欲さんは、話しかけてくる。


 ” ……うるさいな ”



「……! 

 ……あなた……」



 私の心の声が聞こえたのか、色欲さんの声が震えていた。


 ”どうでもいいか。

……それよりも早く、お兄ちゃんの傍へ行かないとっ!”


 ーーそして私は、『色欲の力』を自分に対して使った。



「……っ!!」



 色欲さんが動揺しているのが分かる。


 ……そんな色欲さんに構うことなく、

私は動かない体を『力』で無理やり動かして、私たちの家へと歩き始める。



「……っ! 

 ダメよっ、やめてっ!」


「あなたは疲れているのっ!」



 ”知ってるよ。

多分だけど、前の時にいきなり『大罪の力』を使ったから……”


 ” ……だから疲れて、体が動かないんだ ”



「っ! 

 そうよっ! だからやめてっ!」


「今の状態で『力』を使ったら、

 あなたが壊れてしまうかもしれないっ!」



 ”知ってる”



「……っ。

 それに、その『力』は……」


「『色欲の力』は危ないものなのっ……」



 ”それも知ってる”


 ” 『色欲の力』は『水の力』。

自分が生み出した『水』を介して、その水を取り込んだ相手の全てを操れる ”


 ” ……まるで、『催眠』をかけるみたいに操れるんだ ”



「……!?

 なんで……」


「……どうして、あなたが知ってるの……?」



 ” ……色欲さんが悪いんだよ。

私に何も言わないで、『私の身体』を使うから ”


 ” …………『私のお兄ちゃん』を奪おうとするから ”


 ーー許さない。



「……!

 ……そう……そういう、こと」


「…………ふぅ」


「あなたは見ていたのね。

 『暴食』との戦いを……そして、『私の力』を身をもって知った」



 ……また心が渇く……


 許さない……許さない……許さない


 ……渡さない……渡さない……渡さない



「……それだけじゃない。

 『救世主』と『私』のことも見ていた」


「…………『嫉妬の炎』を燃やしながら」



 ……満たされたはずなのに、渇く……


 渡すもんかっ……


 ……渡してたまるかっっ……


 ”お兄ちゃんは『私だけのもの』なんだっっ……!!”



「そうね、

 『嫉妬』だけじゃなかったわね」


「……『強欲』、

 そして『暴食』も混じり合った、それはーー」



 ……前よりもっと、渇いて渇いて止まらない……


 絶対に許さないっ……


 ……私からお兄ちゃんを奪う存在はっっ……


 ”お兄ちゃんの傍にいていいのは『私だけ』なんだっっ……!!”



「ーー『独占欲』」


「満たされることのない渇き」


「……己の全てを喰らってしまうほどの『愛の嘆き』」



 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん

 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん


 ”ーーずっと私の傍にいて”



「……そう。

 今のあなたには、もう『私の声』は届かないのね」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーーーそうして『少女』は『家』へと向かう。

『大切な人』が待っている『二人だけの家』へと向かっていく。



 日が落ちて、

すっかり暗くなった世界の中で、『灯りがともる家』を目指して進んでいく。


 ……ふらつきながら、何度も転びながら、

身体中傷だらけになりながら、それでも止まらずに進み続ける。



 ーー『色欲』の瞳に映った『少女の姿』は、

かつての『救世主』を……『小さな灯りに縋っていた救世主』を思い起こさせた。



 ……そんな『この子』にしてしまったのは、私。


 だから、私はーー。



 ”ふぅ……”


 ”いいわ。

あなたの好きにやってみなさい。……最後まで、私が見ていてあげるから”


 ” ……それが、あなたを変えた『私の責任』だから ”



 それに……。



 ”あなたは『私の願い』の障害には、ならない”


 ” 『色欲の力』も、

これまで幾度となく使ってきた『私』には……遠く及ばない ”



 ……だからこそ、私にとって……。

あなたを利用する『罪に塗れた私』にとって……。



 ”思い通りにいかなくても、

ぎりぎりまで『力』を使わずに、狂い壊れていく『あなた』をただじっと見ることは……”


 ”見守り続けることは、せめてもの『罰』なの”



 受け入れられる……

ううん、受け入れなければならない『罰』……なのよ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーーー冷たい夜の中、ようやく私は『お兄ちゃん』のもとへと辿り着いた。



「……ただい、ま……」


「……! リリー、おかえーー」


「ーーっ!?

 リリーっ! どうしたんだっ!?」



 ”何度も転んで、

土に汚れて傷だらけになった『私』を見て、お兄ちゃんは心配してくれたっ!”



 ーー私はまた、満たされる。


 そして満たされた安心からか、体が熱くなっていく。


 世界がぼやけて、真っ白に包まれていくーー。




 ーーーーそして『少女』は意識を失い、倒れゆく。


 その小さな体を『救世主』は焦ったように抱き留めた。



 『救世主』の腕の中に包まれた『少女』。

力を使い果たしたようにぐったりとしている『少女』は、か細い声で呟く。


 ……熱に浮かされたように呟き続ける。



 ” 『お兄ちゃん』 ”ーーと。



 ーー『少女』の中にいる『色欲』には分かった。


 少女は、”熱に浮かされたように”……ではなく、

実際に疲労によって、『熱』を出していることを感じとっていたーー。

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