ーー第20話 「お兄ちゃんは私のもの」ーー
ーー私は『穏やかな木漏れ日』と『暖かな緑』に包まれて、目が覚める。
目が覚める、けどーー。
「…………」
ーー体が動かなかった。
仰向けになったまま、指一つ動かせない。
「……体は大丈夫?」
色欲さんの心配そうな声が聞こえてくる。
……だけど、私は。
「…………」
何も答えない。
……応える気なんてなかった。
「……? どうしたの?」
それでも色欲さんは、話しかけてくる。
” ……うるさいな ”
「……!
……あなた……」
私の心の声が聞こえたのか、色欲さんの声が震えていた。
”どうでもいいか。
……それよりも早く、お兄ちゃんの傍へ行かないとっ!”
ーーそして私は、『色欲の力』を自分に対して使った。
「……っ!!」
色欲さんが動揺しているのが分かる。
……そんな色欲さんに構うことなく、
私は動かない体を『力』で無理やり動かして、私たちの家へと歩き始める。
「……っ!
ダメよっ、やめてっ!」
「あなたは疲れているのっ!」
”知ってるよ。
多分だけど、前の時にいきなり『大罪の力』を使ったから……”
” ……だから疲れて、体が動かないんだ ”
「っ!
そうよっ! だからやめてっ!」
「今の状態で『力』を使ったら、
あなたが壊れてしまうかもしれないっ!」
”知ってる”
「……っ。
それに、その『力』は……」
「『色欲の力』は危ないものなのっ……」
”それも知ってる”
” 『色欲の力』は『水の力』。
自分が生み出した『水』を介して、その水を取り込んだ相手の全てを操れる ”
” ……まるで、『催眠』をかけるみたいに操れるんだ ”
「……!?
なんで……」
「……どうして、あなたが知ってるの……?」
” ……色欲さんが悪いんだよ。
私に何も言わないで、『私の身体』を使うから ”
” …………『私のお兄ちゃん』を奪おうとするから ”
ーー許さない。
「……!
……そう……そういう、こと」
「…………ふぅ」
「あなたは見ていたのね。
『暴食』との戦いを……そして、『私の力』を身をもって知った」
……また心が渇く……
許さない……許さない……許さない
……渡さない……渡さない……渡さない
「……それだけじゃない。
『救世主』と『私』のことも見ていた」
「…………『嫉妬の炎』を燃やしながら」
……満たされたはずなのに、渇く……
渡すもんかっ……
……渡してたまるかっっ……
”お兄ちゃんは『私だけのもの』なんだっっ……!!”
「そうね、
『嫉妬』だけじゃなかったわね」
「……『強欲』、
そして『暴食』も混じり合った、それはーー」
……前よりもっと、渇いて渇いて止まらない……
絶対に許さないっ……
……私からお兄ちゃんを奪う存在はっっ……
”お兄ちゃんの傍にいていいのは『私だけ』なんだっっ……!!”
「ーー『独占欲』」
「満たされることのない渇き」
「……己の全てを喰らってしまうほどの『愛の嘆き』」
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
”ーーずっと私の傍にいて”
「……そう。
今のあなたには、もう『私の声』は届かないのね」
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ーーーーそうして『少女』は『家』へと向かう。
『大切な人』が待っている『二人だけの家』へと向かっていく。
日が落ちて、
すっかり暗くなった世界の中で、『灯りがともる家』を目指して進んでいく。
……ふらつきながら、何度も転びながら、
身体中傷だらけになりながら、それでも止まらずに進み続ける。
ーー『色欲』の瞳に映った『少女の姿』は、
かつての『救世主』を……『小さな灯りに縋っていた救世主』を思い起こさせた。
……そんな『この子』にしてしまったのは、私。
だから、私はーー。
”ふぅ……”
”いいわ。
あなたの好きにやってみなさい。……最後まで、私が見ていてあげるから”
” ……それが、あなたを変えた『私の責任』だから ”
それに……。
”あなたは『私の願い』の障害には、ならない”
” 『色欲の力』も、
これまで幾度となく使ってきた『私』には……遠く及ばない ”
……だからこそ、私にとって……。
あなたを利用する『罪に塗れた私』にとって……。
”思い通りにいかなくても、
ぎりぎりまで『力』を使わずに、狂い壊れていく『あなた』をただじっと見ることは……”
”見守り続けることは、せめてもの『罰』なの”
受け入れられる……
ううん、受け入れなければならない『罰』……なのよ。
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ーーーー冷たい夜の中、ようやく私は『お兄ちゃん』のもとへと辿り着いた。
「……ただい、ま……」
「……! リリー、おかえーー」
「ーーっ!?
リリーっ! どうしたんだっ!?」
”何度も転んで、
土に汚れて傷だらけになった『私』を見て、お兄ちゃんは心配してくれたっ!”
ーー私はまた、満たされる。
そして満たされた安心からか、体が熱くなっていく。
世界がぼやけて、真っ白に包まれていくーー。
ーーーーそして『少女』は意識を失い、倒れゆく。
その小さな体を『救世主』は焦ったように抱き留めた。
『救世主』の腕の中に包まれた『少女』。
力を使い果たしたようにぐったりとしている『少女』は、か細い声で呟く。
……熱に浮かされたように呟き続ける。
” 『お兄ちゃん』 ”ーーと。
ーー『少女』の中にいる『色欲』には分かった。
少女は、”熱に浮かされたように”……ではなく、
実際に疲労によって、『熱』を出していることを感じとっていたーー。




