ーー第19話 「私の罪の始まり」ーー
ーーそう、
『彼』は私たちの……私の『光』だった。
闇に包まれた冷たい世界を照らす『暖かい光』……
……『傲慢』は『光の大罪』で、私たちを導く『大きな灯』そのものだった。
私は、『彼』に憧れていた。
いつも明るくて、
周りのみんなを笑顔にしていく彼の姿に。
気付いたら、いつも彼の姿を目で追うようになっていた。
……私は『恋』を、していたんだと思う。
でも、
恥ずかしがりやで内気な私は……自分からは話しかけられない。
彼から話しかけてくれない限り、
私は『彼』を、ただ見つめることしかできなかったーー。
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ーーある時、そんな私に転機が訪れる。
角が生えてきたのだ。……彼と同じ『七つの大罪』の証が。
” ーー『大罪の力』を持つ七人 ”
……その内の一人が寿命で亡くなり、
欠けた席を埋めるように、私が『力』に選ばれた。
『私』が受け継いだ大罪の名は『色欲』。……『水の大罪』だった。
”嬉しいっ……!
凄くっ、凄く嬉しいっっ!!”
大罪として『力』に目覚めたことではなく、
『彼と同じ』になれたことに対して、私は喜んでいた。
そして私は、
『大罪』の一人として人々の生活を支えていく。
” ……『色欲の力』を使って、『水』を生み出すことで支えたの ”
人々が生きていくために必要不可欠の『水』。
……それを唯一生み出せる『私』は、
大罪の中でも特に『彼』と話す機会が多かった。
この暗く閉ざされた洞窟で、水は貴重だったから。
ーー『彼』は、常に私の様子を気にしてくれた。
私が辛そうにしていたら、心配してくれた。
私が悩んでいたら、いつも相談に乗ってくれた。
……それは『大罪の力』があってこそ、だったのかもしれない。
でも……
それでも『私』は幸せだった。
憧れていた人が、
手が届くことはないと諦めていた『彼』が、私だけを見てくれているように感じたから。
さらに彼だけは、
『力』を受け継ぐ前と後で……態度を変えることはなかったの。
『色欲』を受け継いだ『私』に対して、
他の人たちが急に恭しい態度で接してくる中で、『彼』だけは変わらずに明るく親しく接してくれた。
……そんな彼と触れ合ううちに、私の心にある『想い』が生まれた。
”彼を、『私の光』を何があっても支えよう”……そんな想いが。
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ーーそんな想いを抱きつつ、私は変わらぬ日常を過ごしていく。
『運命の時』が近づいていることなど知らずに、のんびりと過ごしていく。
そして『運命の時』は突然やってきたーー。
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ーーある日私がいつも通り、
水の生成量について話すために『彼』のもとへ行こうとしたら……
……進む先から『怒号』が響いてきた。
”外に出せよっ! 本当はお前たちなら出来るんだろっ!
大罪の力で、明るい空を見せてくれよっっ!!” ……そんな怒号が響いていた。
……『外に出たい』。
その気持ちは分かる。
だって私たちは生まれてから死ぬまで……
この暗い洞窟の中で、その命を終える『定め』だから。
……それが『七つの大罪』という、
罪の十字架を背負った……ずっと昔から続く私たちの『宿命』だから。
……お母さんやお父さん、お祖母ちゃんやお爺ちゃん、
ご先祖様から続く、逃れることのできない私たちの『運命』……だから。
ーーたとえそれが、背負わされた『偽りの罪』だったとしても。
私たちは『空』や『森』……
……『太陽』や『月』さえも、知らない。
知っているのは、伝え聞いたその『言葉』だけ……。
……この瞳の中に残すことも『映す』ことすら、叶わない。
……なぜなら、
洞窟の入り口を塞ぐ『硬い岩』を壊せないから。
『大罪の力』を以ってしても……壊すことは出来なかった、から。
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ーーそんなことは、みんな知ってるはずなのに。
私はそう思いながら、
”怖いけど止めに入ろう”と、怒号の響く先へ向かう。
そこで私は『許せない光景』を目にしたーー。
ーー『彼』は囲まれ、詰め寄られていた。
複数人で一人を追い詰めていた。
それだけじゃない。
その中の一人が彼の胸ぐらを掴み、叫んでいた。
……『彼』は苦しそうに、顔を歪ませていた。
抵抗もしないで、ただ……苦しみを受け入れていた。
その光景が、私の瞳に映った瞬間ーー
私の心に『黒いどろどろとしたもの』が生まれた。
ひどく甘い匂いを漂わせながら、『黒いもの』が私に囁いてくる。
……ゆる、せない……
……彼を苦しめる奴らを……
……ゆるしちゃ、いけない……
……私の光を奪う奴らを……
……ころしてやる……
……私の前から消えろ……
心を溶かすような、
その『甘黒い囁き』に従って、私は『力』を使ったの。
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……そして、次に私が見た光景は『地獄』だった。
ある者は、舌を噛み切り自害した。
ある者は、自ら首を絞めて自害した。
ある者は、自分から壁に頭を何度も打ち付けて自害した。
ある者は、謝罪をするように地面に何度も頭を打ち付けて自害した。
”その異常な行為する人たちは、みんな……『笑っていた』”
ーー『祭り』でもするかのように、
暗い洞窟の中で、人々は明るく狂っていた。
赤く、狂い咲いていたーー。
……その時の私には、
狂った人たちが『人形』のように……『人形劇』でも見ているみたいに感じたの。
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『祭り』が終わり、
静寂が訪れる中で、赤く染まった世界を茫然と眺めている『私』。
そんな私に、聞き慣れた明るい『彼の声』が届く。
”助けてくれてありがとうっ……!”
彼の言葉が届いたと同時に、身体が暖かくなるのを感じた。
……”何でだろう”と思い、
世界を見直すと、彼の顔がすぐ近くにあった。
ーー私は『彼』に、優しく抱きしめられていた。
その暖かさを理解した瞬間、視界が滲む。
……涙があふれて止まらなかった。
そして私は泣き叫び、
その時から『私の心』と『私の世界』は白い暖かな光で満たされた。
『甘黒い囁き』によって溶かされて、
祭りが引き起こした『赤い濁流』で欠片すら残さず流された『私の心』は……
……”一度『空っぽになった私』は、『彼』によって満たされてしまったの”
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ーーあの時から私は『罪』を犯し続けている。
そしてこれからも、歩む道を『赤黒く染めながら』止まることはない。
” 『彼』のため……いいえ、『私』のために ”
……そして暗闇に『光』が差してくる。
少女は『穏やかな光』に包まれて、また世界は廻り始める。
ーー光に包まれる中、『色欲』は呟く。
” 『罪』に塗れようと必ず、『彼』を救い上げる ”
その呟きは、
全てが光に包まれる前に、残っていた僅かな『暗闇』に溶けて沈んでいったーー。




