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私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<前編>~二人の約束~
16/51

ーー第16話 「色欲は誘う」ーー

 ーー『色欲』は焦っていた。


 狂い加速していく、この世界に。



 『嫉妬』が倒された直後、

少女が意識を失い、今度は『暴食』が現れた。


 意識がない『少女』を守るように抱く『化け物』の前に現れたのだ。



 ーー『化け物』は敵を認識すると、

『少女』をそっと優しく地面に横たえた後、突然その姿を消した。



 次に『色欲』が『化け物』の姿を見たのは、

……大剣を振りかぶり、『暴食』を切り裂く瞬間だった。



 ……何物をも切り裂く大剣が『暴食』の体に吸い込まれていく。



 そして一瞬で戦いは終わる、はずだった。



 しかしーー。



 ーー静寂の後、『色欲』の瞳に映った光景は……


 ……何事もなかったかのように笑う『暴食』と、

両肘から先を失い叫びをあげる『化け物』……予想とは真逆の光景だった。



 角が生えた男の子の……『暴食』の声が、灯を失った夜闇の中に響く。



「『救世主』……

 お前は満たされたこと、ある?」


「あははっ! 

 無い、ねっ~! だって……」


「……お前は笑わない、からっ!」


「いつもいつも苦しそう。

 ……いつもいつも我慢してるっ!」


「お前は何のため、生きてる、の?」



 言葉を覚えたばかりのような片言が、

男の子の幼い真っすぐな声が『化け物』に向かって響く。



 ーーその声が届いたのか、

叫んでいた『化け物』は後ろに飛び退いた。


 静かに、眠るように横たわる『少女』の傍へと戻った。



 ……少女の中から『色欲』は確かに見た。


 傍に戻った『化け物』の瞳に、

怒りではなく苦しみが浮かんでいるのを。……『光』を取り戻していることを。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……戻ってきた『救世主』を見て、『色欲』は考える。


 ”これ以上、何かが狂えば、

『私の願い』を叶える前に……この世界が壊れてしまうかもしれない”と。


 この世界でしか『彼』を救い上げることは出来ないのにーー。



 ーーそして、『力』を使うことを決意する。


 ”最後の時まで……使いたくはなかったんだけどね”


 そんなことを呟きながらーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ーーそして楽しそうな表情でゆっくりと『暴食』が近づいてくる中、

静かに眠っていた『少女』は目を覚ます。……『私』として。



「……っ! リリーっ!」


「…………」


「大丈夫っ!? リリー!」


「……」


「……? 

 ……リリー?」



 『救世主』が心配そうな顔をして『私』に話しかけてくる。


 ……『色欲』である『私』に。



「『救世主』」


「……っ!? ……誰だ、お前は」



 彼の表情が変わった。


 今までの大切な人に向ける暖かさを感じる表情から、

昔よく見た、人間の敵へと……『魔族』へと向ける冷たい表情に変わっていた。



「私は『色欲』」


「……!

 ……お前、か……!」


「そうよ。

 ……久しぶりね、『頑固な救世主さん』」


「黙れ。

 ……リリーを返せ」


「僕の大切な人を『人形』にするなっ……!」



 彼の瞳に怒りが宿る。


 ……失った両腕から赤い血を流しながら、

もう満身創痍のはずなのに、その怒りに燃える瞳は力強かった。



「やっぱり凄いね。あなたは」


「……でも、いいの?

 このままだと『この子』も死んじゃうわよ」


「……っ!」


「『暴食』に喰われちゃうわよ」


「……もう、殺させない……」


「早くあなたの力を……

 ……『癒しの力』を使わないと、守れないわよ」


「……っ。

 ……黙れ」



 苦しみに歪む彼の顔。


 ”ふぅ……。

そういうことね。あなたはまたーー”



「ーー『力』を使えないんでしょ」


「……っ。黙れ……」



 否定しない彼。


 ”力を使えたり、使えなかったり……

『救世主』だったり『化け物』だったり……狂ってるわね”



 ーーそう、おそらく彼は狂っている。


 なぜならーー。



「あなた、

 この子が死んだ姿を見たことがあるの?」


「……! 

 …………うるさい」



 私の中には疑問があった。


 ……彼の呟きに。繰り返される、”もう殺させない”……という呟きに。



「……ちゃんと答えて。

 大事なことなの。……『暴食』が近づいてる」


「この子を……

 今、目の前で生きている『大切な人』を死なせたくないんでしょう」



 私の言葉で、

怒りに満ちていた彼の瞳に『迷い』が混じりこむ。


 そして私の方を向いて、固く閉じていた口をようやく開き始めた。



「……ある」


「……! 

 そう……その光景を詳しく教えて?」


「……っ。

 ……ふぅ。……リリーは身体中、傷だらけだった」


「切り裂かれたような傷……。

 赤く染まったリリーは、泣いている僕の腕の中で呟くんだ……」


「……『ごめんね』って」


「……っ! 

 それは……」



 ”その光景は……前回の終わりの出来事だ。

……『強欲』との戦いの終着点。今のところ唯一、『少女が死んだ瞬間』”


 『少女』と、

少女の中にいる『私』、そして彼……『傲慢』以外が憶えていられるはずがない。



 ”なんで、『救世主』が前回のことを覚えているの……?”


 私は思わず、救世主の方を向いて尋ねていた。



「いつ……

 その光景を知ったの……?」


「……あいつが、『嫉妬』が現れて、

 リリーが危ないって思った瞬間……突然、思い出した……」


「……その光景だけが、

 『リリーが死ぬ瞬間』だけが鮮明に浮かんできたんだっ……」



 ーーその救世主の言葉を聞いた直後、男の子の笑い声が耳元で響いた。


 話しているうちに、

思わず向き合っていた私と『救世主』は、笑い声には振り向かず飛び退く。



 ……しかし、遅かった。


 『少女』は……私の右腕は、肩から先が無くなっていた。



「っ……くっ……」


「……っ! リリィーっ!!」


「うっ……ぅ……ふぅ……」



 私は激しい痛みの中、

どうにか『力』を使って『少女の痛覚』を遮断した。



「……っ……

 だい、じょうぶ……」


「……でも、

 これで、分かった……でしょう」


「私と、『暴食』が……敵、だって」


「……!」


「この、ままだと……

 『この子』は、しんじゃう……って」


「……っ!」


「……だから、ね……

 きょうりょく、しましょ……『がんこな救世主、さん』」

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