ーー第14話 「求める渇きが力となる」ーー
ーー私は必死に走っていた。
”燃える街へ……お兄ちゃんのところへ、早く辿り着きたい”と。
ーー『焦り走る』。
それはいつも通りの行動だった。
……今までと同じなのに、私には違和感があった。
湧き上がる想いで満たされていた。
”戦うお兄ちゃんの傍にいたいっ!
どんなお兄ちゃんも知りたいっ!!” ……って。
ーーそして想いを言葉にしてみて気付く。
『いつもの心配』に混ざっている『いつもと違うもの』に。
お兄ちゃんのことは心配だった。
……『前と変わらない想い』は確かにあったんだ。
でも、それだけじゃない。
”お兄ちゃんの全てを知りたい。
私の知らない『救世主としての姿』も含めて、全てを”
”お兄ちゃんの心の中に在り続けるのは……傍にいるのは『私だけ』でいいから”
……湧き上がる想いが止まらない。
渇くんだ……。
大切な人の全てを知りたいと。
……心が渇き続けてる。
渇いて、渇いて……止まらない。
ーーその『渇望』に応えるかのように、
激しく燃える『炎の柱』は増え続けていく。
私は走る。
暗い夜の中で燃え盛る『真っ赤な炎』を目指して。
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ーー私は、炎の柱に辿り着いた。
でも、街へは入れない。……目の前の炎が邪魔をする。
「……進みたい?」
焦る私にそう尋ねる、色欲さんの声。
……色欲さんへのモヤモヤは変わらずあった。
でも今は……それ以上に、お兄ちゃんの傍に行きたかった。
それに、
その声は、道に迷う幼い子を導くような『柔らかくて優しい声』だったんだ。
だから私は、素直に答えることができたーー。
「……!
進みたい。早く、お兄ちゃんのところへ行きたいっ!」
「……そう、分かったわ」
「なら、
あなたの中に生まれた『強欲』を意識しなさい」
「……強欲……」
「あなたなら……」
「……強い感情を抱え始めて、
実際に『大罪の力』を目にした、今のあなたなら出来るはずよ」
「あの『風』を……
『竜巻』を、目の前の炎にぶつけるの」
私は言われたとおりに意識する。
……私の中の強い渇きを意識する。
『強欲』によって生まれ、
『嫉妬』で明確な言葉になった『満たされない心の渇き』を。
”お兄ちゃんは、私だけのものなんだっっ……!”
「……!」
ーー想いが『風』となって、私の外に現れる。
私は囲まれていた。……いつか見た『竜巻』に。
「今よっ!
そのまま進んでっ!」
「……っ!」
そして私は、燃え盛る炎の柱に飛び込んだ。
ーーその瞬間、炎が竜巻に呑まれ、
私の周りを激しくうねりながら天へと駆けあがっていく。
……赤く染まった風の先には、道ができていた。
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ーー街は、どこを見ても燃えていた。
燃え盛る街の中を、お兄ちゃんを探して走る私。
そんな私の瞳に映りゆく景色は『人間たちの絶望』だった……。
ある人間は……燃え盛る街を目にして泣き喚いていた。
ある人間は……目に映るものを否定するように、ただ茫然としていた。
また、ある人間は……燃える炎に包まれて、黒く変わりつつあった。
そして、ある人間は……すでにその瞳から光を失い黒くなっていた。
……明るい炎に包まれる街の中で、
人間たちは『暗闇の底』にいるような、怯え震えた瞳をしていた。
そして誰もが『光』を、『救世主』を求めてた。
……自分たちは何もしないで、只々『救い』を待っていた。
『救世主』に……お兄ちゃんに全てを押し付けて待っていたんだ。
ーーそんな人間たちを見ても、私の中には何も生まれない。
私の中に在るのはお兄ちゃんへの想いだけ。
……私の瞳には残らない。
お兄ちゃんを悪夢へと追い込む、人間たちなんて。
ただ映り込んでは消える、陽炎みたいなものなんだ。
そんなことよりーー。
「お兄ちゃんっ……」
「どこっ……? どこにいるのっ……!」
明るい炎に包まれる街で、私は叫び続ける。
「お兄ちゃんっ……!」
「お兄ちゃんを『独り』にはしないからっ……!」
「……私だけは、
お兄ちゃんの傍にいるからっっ……!」
……そして叫び続けていると、一際大きな炎の柱が現れた。
ーーーー迷うことなく『少女』は、現れたばかりの『炎の柱』へ向かう。
確かな『人間への怒り』を……『憤怒』を抱えながら。
ふらつく足取りで、何度も躓いて転びそうになりながら。
……それでも進み続ける。
ーー『色欲』はその少女の姿から、目を離すことができなかった。
その純粋で真っすぐな姿が……
『危うい』姿が、かつての自分を思い起こさせるから。
明るい未来を『妄信』していた……しようとしていた自分を。
……それだけじゃない。
似ているの。光を取り戻すために、今も変わらず足掻き続けている『私』に。




