ーー第12話 「二人の決まり事」ーー
ーーそして私は、暖かな木漏れ日を頼りに目覚める。
目覚めた私の瞳に映ったものは……
静かに、けれど確かに揺れる『緑』が溢れる景色だった。
”更地じゃないっ……! ちゃんと戻っててくれた……!”
前回のお兄ちゃんと『憤怒』の戦いで、見る影もなくなっていた暖かな森。
……お兄ちゃんの温もりを、
私が始まった時に感じた『優しい温もり』を、私を照らす木漏れ日から感じる。
その暖かさで、私はようやく実感できた。
”私は、生き返ることができたんだ”……って。
「おはよう」
「……!
色欲、さん……!」
「……初めての『死』は、あの暗闇はどうだった?」
私にそう問いかける色欲さんの声は、
怒っているようにも心配しているようにも聞こえた。
「……っ!
……暗かった……怖かった、よ」
そう。
暗かったし、怖かった。
でもーー。
「…………
そうでしょうね。……分かったなら、もうーー」
「ーー私は大丈夫だよ」
「……!
あなた……」
「暗闇には慣れてるし、
今の私には『光』があるから」
「……『お兄ちゃん』が、いるから」
ーーでも、お兄ちゃんがいる限り大丈夫。
私の中に暖かな光が残るから。
……私は『今の私』を見失わずにいられるから。
「……っ!
……あなたはどこまでも、変わらないのね」
「……?
色欲、さん?」
「どこまでも『純粋』……」
「……その名前のように。
” 『リリー』 ”という、『救世主がつけた名前』のように、ね」
”っ……!
……なんで、お兄ちゃんがくれた名前って知ってるの……?”
お兄ちゃんとの大切な思い出を……
『二人だけの思い出』を、なんで色欲さんが……。
「知ってるわよ」
「……っ。
どう、して」
「……? 前に言ったでしょう」
「彼が……
『傲慢』が殺された後からは、ずっと……」
「ずっと、
『あなたの中』で生きているって」
驚く私の問いかけに、色欲さんは不思議そうに答えてくれた。
私が黙ったままでいると、
何かに気付いたように、突然お兄ちゃんのことを呟きだす色欲さん。
「……
でも、あの救世主がね~」
「……!」
「あの、
苦しみながらも『みんなの救世主』であろうとした、頑固な彼がね~」
「……っ!
『あの』……って……」
「特定の誰かに、
『名前をつけてあげる』ほどに、想いを寄せるなんて」
「人は変わるものね~」
色欲さんの言葉を聞いて、
私の中にモヤモヤしたものが生まれる。
私は思ってた。
”もしかして、
私の知らない『昔のお兄ちゃん』を知ってるの……?”
”それだけじゃない。
……『二人だけの大切な思い出』も、色欲さんは知っている……?”
「ふふっ、知ってるわよ」
「……っ!
なん、で……」
「あなたと救世主のことは、全部知ってる」
「……っ。全部……」
「そう、全部。
……あなたの始まりも、大切な思い出も……」
「あなたが知らない、
『救世主の過去』も……」
「私は『全て』を知っている」
「いや……
やめ、て……」
「……ふぅ。
だから、あなた以上にーー」
「……だめ……」
「ーー救世主のことを『理解』しているのは、『私』なのよ」
” ……っ ”
私は、耐えられなかった。
色欲さんの言葉を聞いた直後、私は駆け出していた。
ーーお兄ちゃんがいる、『お兄ちゃんと私の家』に向かって。
「……ふぅ。
『嫉妬』か……」
「自分で決めて、
分かった上でやったことだけど……」
「……嫌な女ね、私って」
色欲さんが何かを呟いていたけれど……。
一刻も早く、
『お兄ちゃんに聞きたいこと』がある私には、気にしている余裕はなかったんだ。
息を切らしながら走る私の周りは、日が落ちて暗くなり始めてたーー。
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ーーそして明かりが灯る『二人の家』に辿り着いた私は、
元気にご飯を作っているお兄ちゃんの姿を見つけるや否や、あることを尋ねた。
「はぁ、はぁ……
……お兄ちゃんっ……!」
「……!
リリー? そんなに慌ててどうしたんだい?」
「お兄ちゃんのことを教えてっ……!」
「……?
僕の、こと……?」
私は知りたくて知りたくて、たまらなかった。
……『昔のお兄ちゃん』を。
「リリー。落ち着いて」
「……っ。でもっーー」
「ーー僕は、どこにも行かない。
だから……ゆっくりでもいいんだよ」
「……!
お兄、ちゃん……」
「リリーの話なら、ちゃんと聞くから」
お兄ちゃんの優しい言葉で、ようやく私は落ち着いた。
だけど……胸の中に生まれたモヤモヤは消えることはない。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
「良いんだよ。
それで、リリーは何を聞きたいんだい?」
「……っ。
それは……」
「大丈夫。
僕に答えられることだったら、ちゃんと答えるから」
「……うん。わかった」
「なら、お兄ちゃんに聞くね。
……『昔のお兄ちゃんのこと』を、私に教えて」
「……っ!
……リリー、なんでいきなり……」
「知りたくなったの。
……私の『大切なお兄ちゃん』のことだから」
「……っ。
……リリー」
お兄ちゃんは明らかに動揺して、困っていた。
……私はこの反応を知っている。
お兄ちゃんは『過去のこと』を話さない。
今まで私が、いくら聞いても話してくれなかった。
そして、この反応をいつもするーー。
「…………ごめん」
「……っ。
お兄ちゃん……」
ーーほら、ね。
そして、この後の私が返す言葉も決まってるんだ。
「ううん、私こそ……
お兄ちゃんに無理させてごめんね」
「……リリー……」
「僕はーー」
……そう。
もう、お決まりの流れ。
「ーーお兄ちゃん、私お腹が減っちゃったな」
「……リリー」
「一緒にご飯を食べよっ!」
「…………うん」
「……。
ありがとう、リリー」
そして、静かに二人でご飯を食べた後……
……すっかり暗くなった空の下、
私はこっそり、あの森へ行く。お兄ちゃんに見つからないように。




