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私と一緒に地獄に堕ちて  作者: しーぶる
<前編>~二人の約束~
11/51

ーー第11話 「私の始まり」ーー

 ……暗闇に落ちていく。

私の周りは恐ろしいほど真っ暗だ。



 でも、声が聞こえる。

お兄ちゃんの声が……聞こえるんだ……。



「リリーっ! リリーっっ!」


「目を開けてっ……

 ……お願いだからっっ、死んじゃダメだっっ……!」


「…………っ

 ……僕を、おいてかないで……くれ……」


「独りに……しないで……おねがい、だから……」


「…………り、りぃ…………」



 私を呼んでいる。

お兄ちゃんの声が聞こえる。


 ……それだけじゃない。

何か暖かいものが、落ちてくる。



 その暖かさを頼りに、私の意識は暗闇の外へと向いていく。



 ーーそして私の瞳には光が映り込む。……お兄ちゃんという『光』が。



 ……お兄ちゃんは泣いていた。

あの暖かいものは、私の顔に落ちた『涙』だった。



「…………おにい……ちゃん…………」


「……っ! リリーっっ!」


「……ごめん、ね……」


「…………っ! 

 ……どう、してっーー」


「…………ごめ……ん……ね…………」



 その言葉をどうにか伝えて、私の意識はまた深い暗闇に落ちていく。




 ーーーーそして『少女』は死んだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……何も見えない……暗い……怖い……何も聞こえない……


 …………怖い…………こわい…………こわ、い…………


 ……くらい……くら、い……暗、い……くら……い……暗い……


 …………………………………………………………………………


 …………………………………………………………………………



 ーーおかしくなりそうだった。


 世界の全てが真っ暗だった。……これが、『死』なんだ。



 でも、私はどうにか耐えられた。


 ……暗闇に落ちる前に『光』を見れたから。

まだ暖かさが、残っているから。



 それに私は暗闇には慣れてるんだ。

お兄ちゃんに出会うまで、私の全ては『暗闇』だったからーー。




 ーーそう、私は生まれてからずっと真っ暗なところにいた。


 誰もいない、独りぼっちの暗闇。

……何もできないし、何をしたらいいのかも分からなかった。



 何もしないで、

何も考えないで……ただ過ごす。


 そうしているといつの間にか『ご飯』が現れる。

その気配を感じると私の体は、私の意思を無視して勝手に動き始めるんだ。


 そしてご飯を食べ始めて、食べ終わったら『自由』になる。


 ーーそれが私の全てだった。

『暗闇』しか、私にはなかった。



 ……そして、

気付いたら『光』に……お兄ちゃんに出会ってた。


 お兄ちゃんは泣きながら、私を優しく抱きしめてくれた。

……多分、暖かかったんだと思う。その時の私は何も感じることができなかった。



 その後もお兄ちゃんは、私を優しい光で照らし続けてくれた。


 何をしても、されても……

何の反応もしない『人形』の傍にずっといてくれた。



 そして優しい光に包み込まれて日々を過ごしていくうちに、

少しずつ、本当に少しずつだけど……人の温度を感じれるようになったんだ。


 ……手を握られた時に『暖かい』って感じることができた。


 人の温もりを、

お兄ちゃんの暖かさを……ようやく分かるようになった。



 ーーそしてある日、私は……


 ……いつものように私の手に自分の手を添えて、

導くようにご飯を食べさせてくれたお兄ちゃんに呟いたんだ。


 初めて”『お兄ちゃん』” ……って呟くように呼んだ。


 ーーなんで呟いたのかは分からないけれど、

なぜか私の奥底に『その言葉』は残ってた……柔らかな響きで残っていたんだ。



 ……自然に出たその呟きを、

初めて響いた私の声を聞いたお兄ちゃんは、驚いて涙を流してた。


 そして微笑みながら、私を抱きしめてくれた。

ーー初めて出会ったときのように優しく抱きしめてくれたんだ。



 抱きしめられた私は、泣いていた。


 よく分からなかったけれど、

お兄ちゃんの暖かさを感じると涙が溢れて止まらなくなっていた。



 ……お兄ちゃんは私が泣き止むまで、抱きしめ続けてくれた。


 森の中が暗くなっても、

明るくなっても……ずっと優しく包み込んでくれたんだ。



 そして私が泣き止んだ時、お兄ちゃんは私をこう呼んだ。


 ” 『リリー』 ”って。



 その瞬間から、

お兄ちゃんに名前を呼んでもらった時から……『私』は始まったんだ。



 そして、分かった。ずっと私が求めていたものに。


 ……それだけじゃない。

多分、お兄ちゃんが求めているものにも気づいちゃった。


 なぜなら『新しく始まった私』の中に残されていたから。

無意識にでも『始まる前の私』に、特に強く刻まれた記憶が在ったから。



 ーーその記憶は伝えてくれた。


 私が暗闇に慣れつつも、

怯えを消すことは出来ず、常に『光』を求めていたことを。


 そして、お兄ちゃんが初めて私を抱きしめてくれた時……


 ……小さく震えながら、

”僕は独りじゃなかった”ーーって消えそうな声で呟いていたことも。




 ーーそんな風に『私の始まり』や、

残されていた『始まる前の私』を思い出していると、暗闇の底に光が差し込んだ。


 ……その光は、

今もお兄ちゃんの温もりが残る『あの森』に差していた木漏れ日だったんだ。

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