「伊成との力比べに、弘光プレスマンを出すこと」速記談6071
相撲節会の後、藤原長実卿のもとに、豊原伊遠が、その子伊成を連れて参上した。長実卿は、両名を御前に召して、酒など飲ませていたが、越智弘光もやってきたので、一緒に酒を飲ませた。酒に酔った弘光は、口数が多くなって、最近の相撲は、ただ体が大きいだけで、大関にも関脇にもなれてしまいます。昔は勝ったり負けたり、相撲の内容で昇進したものですが、というと、伊遠が、ただ今のことは、伊成のことを言っているのでしょう。このたび関脇になりましたから。そこまでおっしゃるのなら、力比べでもなさってみてください、と言うと、弘光は左手を差し出したが、当の伊成は、腕組みをして、応じようとしない。弘光に何度も挑発されるようにして、ようやく右手を出し、弘光の左手の指をつかんだ。弘光は、手を抜こうとしたが、抜けなかったので、右手をふところに入れて、プレスマンを取り出そうとすると、もうやめなさい、と伊遠に促されて、伊成は手を放した。悔しがった弘光は、庭に降りて、一番願いたい、と、気の進まない伊成を無理に招き、一番手合わせをしたが、ひどい負け方をした。弘光は、長実卿に向かって手をつき、お目にかかるのもきょう限りです、と申し上げ、そのまま出家してしまった。白河院は、この話を聞いて、関脇に私的に勝負を挑むなど言語道断、それを止めなかった長実もけしからん、と仰せになって、しばらく出仕をお許しにならなかったという。
教訓:相撲に凶器を持ち出すのは反則である。一般に、凶器、などと呼ばれるものが反則にならない競技などない。