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6話

 フィオナからの贈り物を飲み込んだ翌日早朝。

 宿に使いの者が来たとの事で外に出ると、いきなり腕を掴まれ、ひざを付かされる。


「……っ! やはり、来たんだな……」


 その状態を確認すると、役人が書類を読み上げだした。


「ラング男爵、貴殿には貴族当主としての適正の有無が求められております。そして現在、体調の急変や精神的異常を確認したとの報告もあり――薬物使用の疑いが浮上しました。その為の一時的拘束です。食事はしっかりと提供されますので安心してください」


 一時的な拘束をするとの事を伝えられた。

 昨日の夢と同じだ。


 だが私も同じように、唯々諾々(いいだくだく)と拘束をされない!


「……ラング家はこの様な扱いに正式に抗議をさせてもらう! 長年、王国に仕えてきたラング家に対し、ありもしない問題で召喚し、更には使ってもいない薬物の使用だとっ! レギン宰相へ正式な抗議文を送らせてもらう!」


「……そうですか。では牢に到着後、宰相殿をお呼びしましょう。それと貴殿の荷物は全てこちらで没収させていただく」


 役人は面倒くさそうにそう言うと、幾つかの私物と空になった小袋を没収した。


「連れて行け」


 役人の言葉で私は腕を掴まれながら、馬車に乗せられる。


 夢とは微妙に違う。だが、到着すれば結果は同じになってしまうのでは、と不安を抱えながら、馬車に揺られる。


 王城内の貴族用の牢に向かって移動する中、この状況をどうするべきかを考え続けた……だが、上手い道筋は見えないままだった。


 馬車がまり、建物内へと連れていかれる中……確認のために口を開く。


「すまない。レギン宰相殿とは、どのタイミングで会えるのか教えて頂きたい」


「……正式にお呼びするのであれば、しばらく日数がかかります。それならば議会でお話すればよろしいでしょう。余計な手間もかからないので」


「なんだと!? それでは牢にいたままではないか! その前に話したいと正式に申し出ているんだ!」


 役人に掴みかかろうとすれば、体を強く抑えられる。

 そのまま牢に放り込まれてしまった。


「こちらとしても手続きが面倒ですので……それでは、失礼」


 そっけなくそう言うと、役人の部下たちは立ち去っていった。


「彼らもスギア伯爵の手の者ばかりと言う事か……くそっ……!」


 このままでは提供される食事に毒物が仕込まれる……!


「誰かっ! 聞いてくれ! 正式な抗議を! レギン宰相殿に伝えて欲しいっ!」


 貴族牢に私の声だけがむなしく反響する。


 どうすれば良いんだ……彼女のためにも、私は無事で戻らなければならないというのに……!


 フィオナ……どうか私を……助けてくれ……


 嗚咽おえつを殺しながら、牢で一人、涙を流した。

 どこにこんな感情が眠っていたのか分からないほどに、涙がこぼれ続けた。


 夜……

 足音が近づいてきた。


「ラング男爵、夕飯をお持ちしました。どうぞ食べてください」


 3人の役人が食事を持ってきて、牢の机に置いた。


 そんなもの! 食べる訳がない!!

 食べてなるモノか!!


「結構だ! 私は食べたくなどない! 持ち帰ると良い!」


 私の強い言葉に、役人たちは頷き合うとじりじりと近寄ってきた。


「……おい、食べないっていうなら無理やりにでも食わせるからな! 体を抑えろ! 流し込むぞ!」


「おぉっ! 暴れんじゃねぇよ! おとなしく、食っていれば良いものをっ!!」


「わりいが食わさねぇと俺等がやべぇんだよ!」


「ぐぼっ! ごぼっ! やめ、やべろ!!」


「鼻を摘まめ! スープを流し込むぞ!」


「ごぼっ!!? ゲホッ!? ウォエ!?」


 無理やりに流し込まれ、気管に入ってむせた。

 だが、役人たちは流し込み続け、吐き出しそうになれば、鼻と口を無理やりに閉じる。


「ブッゥ!?」


「きたねぇなッ! おい、次はパンだ! パンでスープを口ン中に閉じ込めんぞ! 口空けろ!」


「ウゴッゲ……!?」


「男爵ともあろうお方が、食事の一つも綺麗にできねぇのか? きたねぇったらありゃしねぇッ!」


 私の口の中に食事を詰め込まれていく。

 空気を求め、少しずつ、喉に流れ込んでしまう食事。


 その後も無理やり詰め込み終わると、吐き出す事のない様に手足を拘束されてしまう。


「ゲッホッ! ゲェッ……!」


「大分こぼしちまったが、まぁ、十分食わせたな。見張っとけ。俺はお二方に報告してくる」


 苦しいっ! こんな仕打ち、良くも……良くも……!!!


「お前ら、絶対に……許さないからな!」


「アンタには悪いが、これも命令でな。それにどうせ、アンタは狂っちまう。明日には貴族としてのアンタは終わりだ」


「ふざけるなっ!! こんな事が許されると本気で思ってるのかっ!!」


「関係ない。俺は俺のために、命令に従ってる。アンタに食事を食わせりゃ金がもらえんだ」


「ふざけ――」


 喋っている途中に、バンッと扉が開かれ、そちらを向くとアクド・スギア伯爵とノットー・リンド子爵がいた。


「ふふふ、ラング男爵。何をそんなに興奮しているんだ? どうだ? 役人たちから食べさせてもらった食事の味は。お前がしっかりと味わえる、人生最後の食事だ。吐き出した分もしっかりと食っておくと良いぞ……? はははっ!」


 笑い声を上げるスギア。


「スギアッ! リンドッ! ふざけた事を! ラング家からこれ以上何を奪う! なぜ、ここまでの事を!! 拘束を解けっ!!」


「はははっ、愚かな男だ。あの時、両親が死に、お前が領地を捨てる選択をすれば、もっと早かったと言うのに。お前が必死に領地を維持したせいで、私が苦労する羽目になった! この、死にぞこないが! そもそも、貴様も死んでおれば、こんな面倒など起きなかったというのにっ!!」


「貴様ぁあっ!! 父上と、母上を!! 貴様ッ!!!」


 頭に血が上り、言葉が出ない。


 こいつを今すぐにでも、仇をっ!

 ラング家の!! 父と母の!!!


「ははは! 芋虫の様な格好で、吠えてくれるな。笑いすぎて腹が痛くなるわ。リンド子爵が上手い事、事故に見せかけただけなのに、お前は愚かにも……はははははっ! リンド子爵、あれは上手くやったなぁ?」


「はっ! 事故に見せかけるために、馬車の車輪を緩ませ、御者にはした金を握らせ、山道を走らせたのが功を奏しましたな! 見事にこの男以外は死んでくれました!」


「そうだな。そしてようやく、この男も終わる。貴族からお前は消える! やっとだ! やっと、貴様の土地を奪い取れる!」


「どこまで……! どこまで汚くみにくいっ!!」


「ふんっ、もう吠えるな。明日になれば毒が回り、貴様は廃人はいじんだ。明日の議会ではまともな面ではないだろう。せいぜい、残された時間を楽しめ」


「それではまた明日、ラング男爵。ふへへ……」


 体の拘束もそのままに、二人は出ていく。


「くそっ、くそっ! くそぉおおお!!」


「なぁ、流石に騒がれちまうとあれだしよ」


「仕方ねぇな」


 私に役人が近づいてきた。


「何をする!? 離せっ! はな……ひゅ……」


 首を抑えられ、一人は私の体の上に乗ると身動きを封じる。


「あ……がっ……ぁ……」


 そして……

 冷たい感覚に沈んでしまった。

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