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4話

 とうとう王都へ向かう日となった。


 正式に結婚はしていない。だが既にグレンには報せを送った。

 そして婚約者としてフィオナは、私を見送る為に門の前にいる。


「行ってくる。私の留守の間、頼んだ」


「はい! 気を付けてください……無事を祈って、待っております……」


 それだけ。 お互いに言葉少なく。月日は短く、けれど深く理解しあい、別れを告げる。

 けれど、その声音は涙ぐんでさえいるように。


 騎乗し、使いの者たちと移動を始める。

 後ろを振り向けば、彼女は最後までいつも見せる柔らかな笑みで手を振り続けていた。


 そこから幾日は村や町で宿泊しながら移動をした。


 宿場町、満天の星を仰いだ夜を眺める。

 かつてはただ、虚しく昔を思い浮かべるだけだった夜空。今は彼女の姿を探す自分がいた。


 そして、招集前日の夜には王都に到着し、宿で一息つく。


「…………」


 ふと、小袋の中身――宝石の感触を確かめた。


 宝石ここに残っている気がした。

 フィオナの温もりも、祈りも、全部この小さな宝石きおくに――。


 寂しい、のだろう。


 たかが数日、けれど横を見て彼女がいない事を理解する度に……心が沈む。

 以前の私に、少しずつ戻っていくかの様に。


 移動での疲労などよりも、そちらの方が私を疲弊ひへいさせていた。

 あったものが削られていく感覚。


 知らなければ良かった。

 隣に誰かがいるという当たり前を――。


 そんな考えから目をそむけ、そのまま眠りにつこうとベッドに横になる。


 暗い中、月の光だけは煌々(こうこう)と窓から差し込んでいた……


 翌日、王城での議会は針のむしろとなった。

 なぜこれほどまでに私が、ラング家がそしりを受けねばならないのか。


 また一つ貴族の追及の声が上がる。


「ラング家は長く王国につかえてきたが、今の現状は余りにお粗末そまつであると言う他ない! 今までは、元は名家だからと追及してこなかった! だが結果、今の貧窮ひんきゅうを招いていては王国貴族全体がかろんじられる!」


「割譲された領地では領民から喜びの声が上がる一方、そちらの領民からは苦情が来ているのだぞ!」


 どこの領民だというのか。

 私の領地に村は数えるほどしかない。そして、どの村の長から報告など上がっていないというのに。


「自領の村の様子は商会から定期的に報告を受けています。ですが、そのような報告を私は受けておりません」


「領主自らが村を見ていないのに、なぜそのような事が言える! 商会の者を信頼しすぎではないか!」


 そうだそうだ、と周辺貴族から揶揄やゆが飛ばされる。


 周辺貴族の言葉は、ルミナス商会――フィオナを侮辱している様に感じ、思わず心臓――胸ポケットの宝石を触る。


「古くから、我がラング家と寄り添ってきたルミナス商会を侮辱しないでいただきたい。男爵へ降格した後も問題なく領地運営を行えたのは、ひとえにルミナス商会あっての事。撤回てっかいしていただきたい」


 力強く告げれば、揶揄する声が収まる。


「……リンド子爵、スギア伯爵。本当に我がラング領の民からの声なのでしょうか。いささか信じられない。虚偽きょぎの報告ではないのでしょうか?」


 私は続けて、今回の首謀者である二人を否定した。

 沸々(ふつふつ)といてくる怒りの感情。そして、今の自分の情けなさの混じった声で。


 けれど、そんな気持ちはスギア伯爵には伝わらなかったようだ。


「き、貴様! レギン宰相! 上位貴族に向かってこの様な言葉、許されませんぞ! ラギア伯爵家当主、アクド・スギアは抗議しますぞ!」


「そうだ! 私、ノットー・リンドも抗議します!」


「……ラング男爵、言葉には気を付けなさい。この場は現状を確認するために集められたのであって、虚偽かどうかを論じる場ではない。それとスギア伯爵もどうかお静かに。今日は各人かくじんの訴えを聞く日。明日には貴族院の調査員から報告が上がる」


「……ふんっ」


 スギア伯爵は鼻息荒くコップに注がれた水を飲んだ。

 私もその間に合わせて水を飲み、のどうるおす。


 リンド子爵は先ほどまでの怒り顔から変わり、にたにたとした笑みを浮かべだすと、スギア伯爵に耳打ちをし始めた。


 今度はどんな悪だくみで、私の事を非難ひなんするのだろうな……

 父が生きていればこんな事、起きはしなかっただろうに。私が継いでからラング家は本当に……必死に継いできたはずなのにな。


 スギア伯爵はリンド子爵と会話を終えると口を開いた。


「レギン宰相。委細承知しました。それでは、明日の報告を確認いたしましょう。そこで事実が判明するでしょうからな」


 なぜ、そこまで確信しているかのように言える……調査員に金でも握らせているのだろうか……


 不安な気持ちが芽生えながら、その日の会合は終わった。


 宿に戻り、再び一人の時間をベッドの上で過ごす。

 何もする気はおきない。


 フィオナと会う前と同じく、私に話しかける者はおらず、寄り添う者もいない。

 この広い王都には私の味方など居ない。

 感情の出し方をどうすれば良いのか分からない。


 こういう時は、いったいどうすれば良いのだろうか。


 胸に空いた隙間。どうすれば埋まるのだろうか。いつ、埋まる、のか……


 温もりの消えてきた宝石を触りながら、目を閉じた。


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