第八話 夕食後の話
「おばさん、熊の炒飯美味しかった」
「あら、それは良かったわね。熊行の中では、結構美味しい料理なのよ」
夕食時、何故か姫華が興奮しながら母さんに俺が作った昼食の報告をしていた。
母さんは学校給食の調理師でもあるので、俺なんか足元にも及ばないレベルで料理が上手い。
そんな母さんから、合格点を貰った料理の一つが炒飯だった。
使うのは至ってシンプルな材料なのだが、火加減が大事だと何回も教えられた。
基本的に中華系みたいな手早く作る料理が、俺の性分に合っていた。
あっ、そうだ。
ついでだから、入学式の件を伝えておこう。
「母さん、姫華が新入生総代の練習をするから、予定よりも一時間早く来てくれって」
「その話なら、光ちゃんから連絡来ているから大丈夫よ。熊行も、そういう話なら先にSNSに送って頂戴ね」
おお、流石は瀬川先生だ。
父さんも分かっていると頷いているし、これで大丈夫だろう。
俺は、食べ終えた食器を手にして流しに向かった。
すると、母さんがあることを俺に確認してきた。
「熊行、姫華ちゃんって家から高校まで歩いてどれくらいかかるかしら?」
母さんは朝のドタバタを目撃しているから、やはりその点が気になっていた。
「だいたい、俺より三倍歩くのが遅い。だから、単純計算で三倍は時間がかかると見たほうがいい」
「うーん、何となく分かっていたけど、やはりそれくらいかかるのね。暫くは、少し早めに起きないといけないわね」
母さんは、姫華をチラチラと見ながらちょっとため息をついていた。
姫華の通学の際には絶対に俺も付き合わされるはずだから、俺も少し早起きになるのは確定だろう。
姫華には、母さんのうまい料理を食べてもう少し体を強くして貰いたいものだ。
そして、当の姫華はというと、夕食を食べ終えたら麻衣と一緒にお風呂に入ると言って食堂から出ていった。
仲いいことだと思いながら、俺は部屋に戻っていった。
「むー」
そして、姫華と麻衣の後に俺も風呂に入ると、何故か俺のベッドの上で姫華が漫画を見ながら不満そうな声を上げていた。
構って欲しいのかよく分からないが、取り敢えず聞いてみよう。
「姫華、何があった?」
「まさか、麻衣があんなにスタイル良いとは思わなかった。何故私には、瀬川家の血が反映されていないのか……」
ああ、うん、何となく姫華の言いたいことは分かった。
基本的に、瀬川家の女性はスタイルが良い人が多い。
高校からの帰りに八百屋のおばちゃんが母さんと姫華の母親を美人姉妹だと言っていたが、麻衣は年の割にメリハリのついたスタイルだし瀬川先生もスタイルはいい。
姫華の場合は、病弱だった過去が影響していると思うけど。
「姫華は、母さんの作った栄養のある料理を食べて体調を整えるところからだな。これからの成長に期待することだ」
「むー、麻衣にも同じことを言われた。そのうちに、ナイスバディになって熊を見返してやる」
姫華はビシッと俺に指を指して宣言していたけど、まだ先の話になるとは言ってやらなかった。
そして、いつの間にか麻衣も俺の部屋に入って、ベッドの上で漫画を読んでいた。
二人は仲良く喋りながら新しい漫画本を手にしていたけど、熱血バトル系の漫画もよく読んでいるな。
というか、姫華の漫画を読むスピードが尋常じゃないぞ。
俺の何倍もの速さで、漫画を読んでいるな。
麻衣も、本を読むスピードは速い方だ。
「姫華、麻衣、自分の部屋に漫画本を持っていって読んでも良いんだぞ」
「「ここがいいー」」
二人揃って俺の提案を拒否したが、そろそろ部屋の主は寝たいのですけど。
しかし、二人は俺のことなんかお構いなしにずーっと漫画本を読んでいたのだった。