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第六話 お母さんは有名人?

 カタカタカタ。

 ペタペタペタペタ。


 俺は、自転車を押しながら姫華と一緒に帰路に着いていた。

 姫華は未だに自転車に乗って帰るのを諦めていないらしく、道中何回も俺に声をかけていた。

 捨てられた子犬のようなウルウルとした瞳で俺のことを見あげてきたが、俺は心を鬼にして頑として断っていた。

 こんなやり取りを繰り返しながら、俺たちは商店街にやってきた。

 行きは姫華を自転車の荷台に乗せて全力疾走したけど、既に幾つかの店舗は営業を始めていた。

 そんな商店街の一角にある古びた八百屋の前を通った時に、俺に声をかける人がいた。


「おや、熊行じゃない。朝も見たけど、えらいべっぴんさんと一緒じゃのう」


 ビクッ、ササッ。


 急に声をかけられたからか、姫華はビックリしてそのまま俺の体に隠れてちょこんとだけ顔を出していた。

 中学時代の姫華は友達付き合いが少なかったから、こういう急な人との対応に難があるみたいだ。

 俺は、姫華の行動に苦笑しつつ声をかけてきた頭に三角巾をつけてエプロンをしたおばちゃんに返事をした。


「おばちゃん、うちの由美姉ちゃん知ってるかい? 由美姉ちゃんの娘の姫華で、訳あってうちから高校に通うことになった」

「あの由美ちゃんの子どもかい。由美ちゃんも美人だったけど、その子も随分と綺麗な子ね」


 まるで親戚のおばちゃんみたいな反応を示す八百屋のおばちゃんに、姫華も少し警戒心が解けたみたいだ。

 ひょこっと、俺の横に出てきた。


「あの、おかーさん知っているの?」

「知っているとも。高校に通う生徒は、殆どうちの店の前を通るからね。玲奈ちゃんもとびっきりの美少女だったけど、由美ちゃんはまた別次元の美少女だったわ」

「おー、そーだったんだ」


 うちの母親と由美姉ちゃんは、この辺ではかなり有名な美人姉妹だったらしい。

 年は離れているけど姉妹仲は悪くなかったからこそ、姫華をうちに預けることになった。

 姫華はというと、八百屋のおばちゃんから高校時代の母親の話を聞けてかなり目を輝かせていた。

 こうして、暫く八百屋のおばちゃんと談笑した後、俺たちは再び歩き始めた。


「姫華、なんでちゃっかりと自転車の荷台に乗っているんだ」

「えー」


 俺は、抗議の声を上げる姫華を無視して、脇を持ってひょいと自転車から降ろした。

 俺が歩けばあと数分で着くのだから、最後まで頑張りましょう。


「ふいー、着いたー」


 何だか戦い終えた戦士くらいの疲労度で、姫華は家に辿り着いた。

 えーっと、姫華の歩く速さは俺が歩く速さの三倍は時間がかかると思った方が良いだろう。

 目安の時間が分かっただけでも、俺としては収穫ありだ。

 自転車を車庫に入れて、俺はあるものを姫華に渡した。


「姫華、家のスペアキーだ。さっそく開けてみろ」

「ラジャー」


 姫華は、キーホルダーも何も付いていない無骨な鍵を鍵穴に差して回した。


 ガチャ。


「「ただいま」」


 既にこのスペアキーで開くのを確認しているので、姫華は難なく玄関ドアを開けた。

 俺も、姫華の後をついていきながら家の中に入った。

 すると、玄関に家のものではない三つの靴があった。

 確か、麻衣の幼馴染が遊びに来ているんだっけ。

 姫華は靴のことをスルーしたけど、麻衣の幼馴染はよく家に来るから後で紹介させないと。

 そんなことを思っていたら、姫華がこんなことを俺にリクエストしてきた。


「熊、家の鍵に付けるキーホルダー頂戴」


 俺の服の裾を掴んでのおねだりだし、別に姫華にキーホルダーをあげるのは何も問題ない。

 でも、女性の姫華にあげるようなキーホルダーなんて持っていたかなと、俺は部屋の中を思い返していた。

 すると、姫華は迷うことなく俺の部屋の中にトトトって入っていった。

 キーホルダーを探す気なのかなと思って、俺は少し苦笑しながら姫華の後をついて行った。

 すると、姫華はここでも迷うことなく俺の部屋の中の漫画本が置いてあるところに向かった。


 ピッ。


 しかも、ベッドの枕元に置いてあったエアコンのリモコンを操作して、暖房まで入れる熱の入れようだ。

 そして、姫華はあるキーホルダーというか、小さなぬいぐるみがついたものを俺に見せてきた。


「熊、これが欲しい。昨日見た時から欲しかった」


 姫華が爛々とした瞳で俺のことを見上げながら見せてきたのは、ウサギをモチーフにした何かだった。

 体の色はピンクで目つきは悪く、ウサギ特有の長い耳には包帯が巻かれていた。

 というか、俺でも思い出せないようなものを、昨晩よく見つけたな。


「確か麻衣から貰ったやつだけど、俺は使っていないから問題ないぞ」

「じゃあ、念の為に麻衣に確認取ってくる」


 姫華は俺にそう言い残すと、またもやトトトっと俺の部屋を出ていった。

 そして、俺もついていきながら、姫華は麻衣の部屋のドアをノックした。

 というか、姫華よ。

 昨日もだけど、あなたは俺の部屋にいつの間にかいたよな。


 コンコン。


「麻衣、入っていーい?」

「姫ちゃん? いーよ」


 麻衣の部屋の中から麻衣の声が聞こえたので、姫華はそのまま麻衣の部屋のドアを開けた。


 ガチャ。


「「「あっ……」」」


 すると、姫華は麻衣の部屋のドアノブを持ったまま、思わず固まってしまったのだ。

 そして、麻衣の部屋の中にいた麻衣の幼馴染三人も、初対面の姫華を見て思わず固まってしまったのだった。

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