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第三話 時間がない!

 翌朝、俺は母さんと一緒に朝食を食べていた。

 父さんは既に仕事に行っており、本来ならここに麻衣と姫華もいなければならない。

 しかし、二人の姿が未だに見えなかった。


「うーん、このままだと光ちゃんのところに遅れちゃうわね。熊行、ちょっと様子を見てきて」


 食事を終えた母さんが俺に話してきたが、現在の時刻は八時で九時には高校に着きたい。

 十分もあれば高校に着くとはいえ、流石に着替えとかの時間も考慮しなければならない。

 常日頃、母さんと麻衣は女性の支度には時間がかかると豪語していて、実際にその通りだった。

 俺なんかは直ぐに準備が出来るが、そこは男女の差ってものがあるのかも。

 俺はとにかく二人を起こさないと思い、ため息をつきながら席を立った時だった。


「「おはよ……」」


 俺が呼びに行こうとした姫華と麻衣が、眠たそうに目を擦りながら食堂に姿を現した。

 昨夜姫華は問題なく早く起きると豪語していたのに、残念ながら結果は惨敗だった。


「ううっ、姫ちゃんとのお喋りが楽しすぎたよ……」

「楽しかった……」


 席に座った麻衣と姫華が眠そうにもしゃもしゃとパンを食べ始めたが、女性のお喋りは長いのが通説だ。

 結果に違わず、二人のお喋りは夜の遅い時間まで続いたみたいだ。

 母さんも、「全くもう」って呆れた表情をしていた。


「じゃあ、お母さんはもうそろそろ出かけるわよ。熊行も姫華ちゃんも、時間に遅れないようにね」

「「「行ってらっしゃい」」」


 母さんは、俺たちの見送りを受けてバタバタとしながら出掛けていった。

 そして、俺は姫華にあることを告げた。


「姫華、八時四十分には出かけるぞ」

「えー、はやーい」


 姫華はパンを手に持ち、俺に頬を膨らませながらブーイングしてきた。

 俺としては、姫華が早く起きれば済む話な気がした。

 苦笑しながら、俺は自室に向かったのだった。


「じゃーん」

「わあ、お兄ちゃんも姫ちゃんも新しい制服よく似合っているよ!」


 俺は、身支度を整えて真新しい制服に着替えて玄関で姫華を待っていた。

 すると、同じく身支度を整えて制服に身を包んだ姫華と、食堂から寝間着のまんまの麻衣が姿を現した。

 俺が着ているのは、濃紺のブレザーとズボンにワイシャツ、学校指定のネクタイを身につけるという、ごく普通の男子用制服だ。

 対して、姫華も男子と同じ濃紺のブレザーにグレーのチェックの入ったスカート、そしてブラウスに学校指定の赤いリボンを首元に身に着けていた。

 麻衣がはしゃぎながら俺と姫華の制服姿を褒めていたが、姫華が制服を着ると金髪碧眼との対比が凄いな。

 まるで、モデルか人形が制服を着ているみたいだ。


「姫華、上着は持ったか? 流石に外は寒いぞ」

「バッチリ」


 姫華はアウターを手に持っていて、寒さ対策にストッキングを履いていた。

 かくいう俺も、某メーカーが出したダウンを手に持っていた。

 さて、そろそろ出ないと。

 俺と姫華が靴を履いていると、麻衣が俺に話しかけてきた。


「お兄ちゃん、後で美香ちゃんたちが遊びに来る予定なの。多分、お兄ちゃんと姫ちゃんが帰って来るよりも早く来るはずだよ」


 麻衣には仲の良い友達が三人いて、良く家に遊びに来る。

 まだ春休み中だし、俺とも顔見知りだから何も問題ないだろう。


「何か飲み物とかいるか?」

「大丈夫だよ。冷蔵庫の中を見たら、ジュースとかあったから」


 だから、麻衣は食堂から来たのか。

 俺は、麻衣に追加で必要なものがあったらスマホに連絡するように伝えた。


「じゃあ、行ってくるぞ」

「行ってくる」

「いってらっしゃい」


 俺と姫華は上着を着て、麻衣に挨拶をして家を出た。

 時間は八時四十分と少し、これなら何とか時間に間に合う。

 俺はそう思ったのだが、ここで大きなミスを冒してしまった。


「熊、歩くの速い」


 そう、俺と姫華で歩幅が全然違うのだ。

 俺は百八十五センチメートルを超える大男なのだが、姫華は百四十センチメートルあるかないかだ。

 そうなると、必然的に俺が姫華の歩幅に合わせてゆっくりと歩かないとならない。

 これでは、予定時間に間に合わないのは必然的だ。

 仕方ない、秘密兵器を使うか。


「姫華、ちょっと待っていろ」

「分かった」


 俺は姫華を道の途中で待たせて、猛ダッシュで家に帰った。

 そして、家から姫華のところまで秘密兵器に乗って戻った。


「姫華、時間がない。後ろに乗れ」

「了解」


 秘密兵器とは、普通のママチャリだ。

 本来なら二人乗りは反則だが、背に腹は代えられない。

 姫華を後ろのキャリアに乗せ、俺は急いでママチャリを漕ぎ始めた。


「おー、はやーい」

「姫華、落ちないように俺に捕まっていろ!」

「ラジャ」


 俺は姫華が自転車から落ちないように気をつけながら、急いで高校に向かった。

 くそう、高校に近いからと完全に油断していた。

 町の人がママチャリに姫華を乗せながら漕いでいる俺のことを見て何か言っているが、今は全く気にする余裕がなかった。

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