第十四話 組み手の相手は?
高校生活も半月もすれば、だいたいの生活のリズムにも慣れてきた。
うちの高校の柔道部は朝練をしないので、筋トレだけ家でやっていた。
「ふっ、ふっ……」
俺は、朝食前に腹筋背筋腕立て伏せと、スクワットをやっていた。
こういうのは継続が大切なので、部活がない日も毎日行っていた。
「「すぴー、すぴー」」
そんな俺が腹筋をやっている隣にあるベッドでは、姫華と麻衣が二度寝をやらかしていた。
今日は寝ぼけて俺のベッドに潜り込んでいないのだが、朝食前になって制服に着替えて俺の部屋に漫画を見に来たらそのまま寝てしまったのだ。
よし、これで訓練終了だ。
ごそごそ、ごそごそ。
俺は手早く制服に着替え始めた、のだが……
「う、うーん。うん? お兄ちゃん……」
「熊、パンツ一丁」
麻衣と姫華が俺がパンツ一丁になったタイミングで目を覚まし、ジト目で俺のことを見ていたのだ。
はっきり言う、お前らが起きていたら目の前で着替えないなどの配慮はするぞ。
俺は、ジト目を続ける二人のことを無視して制服に着替えたのだった。
「目が覚めたら、熊がパンツ一丁だった」
「熊行、あんたももう少しデリカシーを持って女の子に接しないと駄目だよ」
朝食のパンを食べながら姫華が部屋であったことを目撃者のように話したが、母さんもそこまでは強く言わなかった。
そもそもが、年頃の女の子が男子の部屋で普通に寝るなって話だよなあ。
さて、朝食を食べ終えて準備完了だ。
すると、母さんが俺と姫華に放課後について確認をしてきた。
「熊行は部活よね。姫華ちゃんは部活あるの?」
「ある。終わったら熊のところに行く」
「二人とも、気をつけて帰ってくるのよ」
俺は柔道部だが、姫華は予定通り文芸部に入った。
本を読むのではなく、実際に創作に取り組んでいるという。
しかも、下書きはスマホでパパッとやるらしい。
クラウド連携してデータ保存しているらしいが、その辺は姫華の方が詳しいので今度教えてもらおう。
ということで、朝食を食べ終えた後、俺と姫華は高校に向かったのだった。
「それでは、本日の授業は以上です。皆さん、気をつけて帰りましょう」
担任の伊東先生がホームルームの終わりを告げると、一斉に生徒が動き始めた。
そんな中、姫華が武道場に行こうとした俺に話しかけてきた。
「熊、いいんちょーと一緒に行ってくる」
「おう、気を付けてな」
姫華は俺にそう言うと、理沙のところに向かって行った。
中学の時に理沙は学級委員長をやっていたらしく、健の策略により高校でも学級委員長となった。
そして、理沙のあだ名が「委員長」になったのは一瞬のことだった。
そんな理沙は小説好きで、姫華とともに文芸部に入部した。
姫華としても、数少ない知り合いが一緒で気が楽らしい。
さてと、俺もそろそろ武道場に行こうと思ってカバンを手に取ったのだった。
ドシーン!
「ぐふっ……」
「いやあ、熊がいると手加減無しで組手ができるからいいな」
本日の部活ももう少しで終わる時間になったが、俺は瀬川先生と何故か乱取りの相手をさせられていた。
瀬川先生は滅茶苦茶強いのだが、余りに強すぎて女子生徒では相手にならなかった。
それでも今までは一応手加減して男子生徒と相手をしていたらしいが、親戚で巨漢の俺が入ったので手加減不要となってしまった。
というか、正直なところ何で巨漢の俺が背の小さい瀬川先生にポンポンと投げられるのかが不思議でならなかった。
「ほらほら、力尽くで技をかけても仕方ないぞ。如何に相手の重心を読み、そして重心を崩すかが大切だぞ」
ズドーン!
「こうして、相手の重心がどこにあるかが分かれば、熊だってぶん投げられるぞ」
「「「はい!」」」
瀬川先生は、俺を手本にして女子生徒に投げの手本を見せていた。
うん、暫くは受け身の練習が増えそうだ。
ちなみに俺は先輩を含めた男子生徒の中で最重量級で、実力もそこそこあるはずだ。
実際に、この前男子柔道部の部長にも普通に勝てた。
しかし、瀬川先生の前ではそんな自信など木っ端微塵に粉砕されたのだった。
そんな中、一足先に文芸部を終えた姫華が理沙とともに武道場に姿を現した。
「瀬川先生、熊が投げられるところを撮ってもいーい?」
「おー、いいぞ。ついでだから、動画で撮って私に送ってくれ。生徒への見本にする」
「ラジャ」
姫華は、既に俺が瀬川先生に何回もぶん投げられているところを見ている。
なので、最初から俺が投げられる前提で瀬川先生に話を振っていた。
理沙も既に何回か俺が瀬川先生に投げられているのを見ているが、瀬川先生が柔道の達人だとはこの前初めて知った。
カシャカシャ。
ズドーン!
「おー、いい感じに撮れた」
「どれどれ? おお、これは教材にも利用できるレベルだな」
姫華がスマホを瀬川先生と女子生徒に見せていたけど、姫華としても小説の題材にしたいから撮影は丁寧にやっていた。
こうして、今日も俺は瀬川先生に投げ続けられたのだった。
「熊行君、姫華さん、また明日」
「おお、じゃーな」
「いいんちょー、また」
校門で理沙と別れた後、俺は姫華とともに帰り道についた。
姫華の体力増強も兼ねて歩かせているが、姫華は相変わらずの体力の無さだった。
もう少しご飯を食べて体力をつけないとならない。
「姫華、今日の部活はどうだったか?」
「うーんとね、作品とともに文化祭で出すものを作っている」
俺は姫華と歩きながら部活の話を聞いたが、発表の場があるので色々作っているらしい。
何れにせよ、形になるのは夏休み明けらしい。
「熊は、夏休み前に大会だもんね」
「俺の階級には化け物がいるから、まあ勝つのは難しいな」
柔道も何回か大会があるが、そもそもスポーツ強豪校でもないからうちの高校はそこまで強くない。
個人戦でも中学の時から全敗ってのがいるし、そこそこやれれば良いと思っていた。
こうして、ブラブラと話しながら俺と姫華はうちに着いたのだった。
「「ただいま」」
「お兄ちゃん、姫ちゃん、お帰り! 姫ちゃん、お風呂一緒に入ろう!」
家に入った瞬間、麻衣の賑やかな声が聞こえてきた。
母さんも帰ってきているし、俺も着替えたら風呂に入ろう。
部活終わりは汗臭いって、姫華と麻衣に言われるんだよなあ。
こうして、俺は姫華と麻衣が風呂から出てからゆっくりと風呂に入ったのだった。




