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大きい熊と小さな姫ちゃんは凸凹コンビ  作者: 藤なごみ


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第十一話 賑やかなクラスメイト

「疲れた……」


 そして、何とか入学式は無事に終わったのだけど、教室に戻ってきた姫華は伊東先生が帰りの挨拶をして教室を出た瞬間にまたまた机にパタリと突っ伏していた。

 しかしながら、思った以上に姫華に対するクラスメイトからの視線はキツくなかった。

 というのも、姫華が普通に新入生代表挨拶を完璧にやり切り、その結果として疲れたと受け止められていた。

 マイクの音量調整もあったが姫華の声色もよく、更にハッキリと話したのが好印象だった。

 そして、その見た目もあって他のクラスからは誰だってなったが、うちのクラスは一輝と美緒のおかげもあって直ぐに姫華の人となりが広まったのも大きかった。


「姫華ちゃん、よく頑張りましたね」

「はふぅ……」


 早くもAクラスのお母さんと言われている一人の女生徒が、満面の笑みで机に突っ伏している姫華の頭を撫でているのも一種の効果だった。

 ほんわかで母性溢れるこの人は玉木彩といい、ちょっと赤っぽいセミロングヘアなのだが背は普通なのに母性の象徴のボリュームがもの凄かった。

 俺は、生まれて初めて母親を超える巨乳を見たのかもしれない。

 ちょっと垂れ目な彩が更にニンマリしながら姫華の頭を撫でていたので、クラス内の雰囲気がかなりほんわかとしていた。

 そんなほんわかした空気を、一輝が一瞬にして粉々にぶち壊した。


「おい熊行、配られた市の広報に妹が載っているぞ」

「あっ、本当だ。麻衣ちゃんが大きくなっているよ!」


 美緒まで一輝の話に食いついてきて、全員に配られた市の広報のあるページを周りに見せていた。

 俺は既に知っている、麻衣が市内の観光名所の案内のモデル役をしていたのを。

 よりによって、見開き二ページに渡って特集されていた。

 もちろん、メインは市内の観光名所案内だ。

 だが、その撮影に俺も同行したが、広報課のカメラマンがかなり張り切って撮っていたのを知っていた。

 そして、結果として大々的に麻衣が何枚もの写真に写っていたのだ。

 にわかに、クラスメイトがざわざわとざわめいた。


「あっ、ちなみにこの子まだ中二になったばっかりなんだよね。それでこのスタイルの持ち主で、更に実の兄が熊行なんだよ。でも、お互いにブラコンでシスコンなんだよね」


 ざわざわ。


 おーい、美緒よ余計なことを言うな!

 というか、さっきも俺のことをシスコンって言っただろうが。

 しかし、全員の手元に麻衣の写真が載っている広報があるので、何人もが俺と麻衣の写真を何回も見比べていた。

 まあ、見た目だけなら全然似ていない兄妹だもんな。


「ふーん、それでいて美少女の姫華さんとも同居中なのね。美人な実妹と、美少女なはとこと同居……」


 そして、やや引きながら俺のことを見ていた真面目そうな女子生徒がいた。

 名前を菊池理沙といい、黒髪ストレートのセミロングにキリッとした表情は、まさに委員長タイプだ。

 だからこそ、俺が美少女に囲まれている環境に戸惑っているのだろう。

 しかし、大前提が間違っている。

 麻衣は俺の血の繋がった実妹で、彼女でもなんでもない。

 そこは、絶対に間違えちゃ駄目だ。

 そんな中、よりによって姫華が俺にトドメを刺してきた。


「そういえば、今朝起きたら熊のベッドだった」

「それは、姫華が寝ぼけて俺の部屋に入ってきたからだろうが! 俺も、朝起きるまで全然分からなかったんだそ!」

「うん、たぶん寝ぼけていたかも。でも、麻衣も一緒だった」


 ザワザワザワザワ。


 もう、うちのクラス内の全員が俺のことをとんでもない人間だという表情で見ていた。

 誰だよ、実妹とはとこと一緒に寝る豪気な人間だって言った人は!

 思い切って、変人と罵ってくれた方がまだマシだよ。

 もう、俺は泣きたいぞ。

 すると、ここで華麗に自爆したものが現れた。


「あっ、寝ぼけちゃったんだね。僕も、たまに寝ぼけてお姉ちゃん……はっ?!」


 しーん……


 坊ちゃん刈りのとても背の低い可愛らしい男子生徒が、自分の失言に気がついて慌てて口を抑えていた。

 水瀬樹という庇護欲を買うような可愛らしい見た目に反して、剣道の達人らしい。

 そんな樹の失言に、クラスメイトは一斉に樹の方を向いたのだ。

 実は樹のお姉さんはこの高校の先輩で、生徒会副会長として紹介されていた。

 長身ツリ目ポニーテールのキリリとした、如何にも厳しそうな先輩だというのが俺たちの第一印象だった。

 すると、実は樹と同じ中学の彩がちょっとした裏話をした。


「うふふ、樹ちゃんのお姉さんは見た目はとても厳しそうだけど、樹ちゃんのことが大好きなのよ。まるで、熊行ちゃんのところみたいね」

「彩ちゃん、その、お姉ちゃんにバレるとまた怒られる……」

「大丈夫よ、樹ちゃんのお姉ちゃんはとても優しいのよ」


 なんというか、彩と樹のほんわかとしたやりとりに、クラス内に広がっていた空気が一瞬にしてほんわかしたものに変わったのだ。

 正直言って、助かっとしか言いようがない。


「くくく、このクラスはゲームよりも面白いなあ。一年間退屈しなさそうだ」

「健、あんた何言っているのよ……」


 理沙が、呆れながら少し太った男子生徒にツッコミを入れていた。

 本間健と言って、姫華を見て「二次元は見るに限る!」と豪語した、変人もといある意味凄い人物だった。

 理沙と同じ中学らしく、それこそ保育園から一緒だという。

 いずれにせよ分かったのは、このクラスは一輝と美緒が普通に見えるくらい濃い面子の集まりだということだった。

 そのため、金髪青眼の姫華の存在も全く気にしなくて済みそうだった。

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