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第一話 家にやってきたはとこ

「母さん、次は何を持っていけばいいの?」

「熊行、この段ボールを部屋に持っていって」


 俺の名は瀬川熊行。

 一面田んぼが広がり、車があれば大抵のものは買えるが逆に車がないと生活するのに不便。

 歩けば直ぐコンビニに行ける都会とは程遠い、そんな田舎町に生まれた。

 名前に違わずかなりの長身な上に筋肉質な体つきで、黒髪短髪と少し強面の顔からリアルクマさんと言われることもあった。

 生まれた時から体が大きかったらしく、更にもりもりとご飯を食べてすくすくと成長していった。

 体格に恵まれたので、小さい頃から両親の勧めで地元の柔道道場に通っている。

 そんな俺だが、無事に高校受験を乗り切り、この春から晴れて地元の高校に進学することになった。

 既に制服などの準備も万端で、後は入学式当日を迎えるだけだった。

 高校入学式を数日後に控えたある休日の午後、俺は上下ジャージ姿で母親に言われるがまま自宅玄関に積み上がった段ボール箱を次々とある部屋に運んでいた。

 更には、包装に包まれたパイプベッドや机などの大きな荷物も玄関に並んでいた。

 もちろんこの家には俺の自室があるから、俺が使うものではない。

 俺は、ひょいと二つの段ボール箱を抱えながら目的の部屋に向かった。


「おーい、入るぞ」

「「はーい」」


 俺が目的の部屋の前で入室すると声をかけると、二人の女性の声が返ってきた。

 目的の部屋は俺の部屋から二つ隣で、普段は全く使っていなかったのでほぼ倉庫と化していた。

 とある理由で長年使っていなかったこの部屋を使うことになり、数日かけて部屋にあった荷物を処分するなり庭の倉庫に入れるなりして片付けた。

 そして部屋を綺麗に清掃し、ホームセンターで購入した新しいカーペットを敷いて、カーテンも新品のものに変えた。

 カーペットの色は薄いブラウンで、カーテンの色は薄いピンク色。

 つまりは、この部屋の新しい住人は女性ということになる。


「お兄ちゃん、取り敢えず段ボール箱を壁際に置いて」


 部屋に入室した俺に段ボール箱を置く場所を指示したのは、この春中学二年生になる俺の妹の瀬川麻衣だ。

 強面で長身な兄である俺の妹とは思えないくらいの正統派美少女で、栗毛のセミロングに人懐っこい表情をしていた。

 時折地元紙の読者モデルもしていて、地元ではそこそこの有名人である。

 しかし麻衣は俺の実の妹で、もちろんこの家には俺の隣の部屋に麻衣の部屋がある。

 そして、麻衣自身も動きやすいように上下ジャージを着ていた。

 この部屋の住人になったのは、麻衣の隣にちょこんと座って荷物整理をしている儚げな少女だった。


「姫華、段ボールを運んだらベッドとかの大物を組み立てる。できれば、場所を指定してくれ」

「分かった」


 表情の変化に乏しい声で俺に返事をしたのは、母親のいとこの娘で俺のはとこにあたる瀬川姫華だった。

 中学二年になる妹の麻衣よりも遥かに身長が低い薄い体をしており、一見すると妹の後輩にすら見える。

 しかし、紛れもなく俺と同じこの春から高校に入学することになっている。

 特徴的な少し癖のあるシルバーに近いセミロングの金髪で、肌も白く瞳の色も碧眼だ。

 実は姫華の母親は日本人だが国際結婚をしていて、姫華は旦那の血が濃く出ていた。

 それでも、旦那が婿入りしたため名前は思いっきり日本人の名前だった。

 姫華の両親は転勤が多く、高校入学のタイミングでアメリカに長期出張になることが決まった。

 そのため、入学する高校に近く俺も新入生となる我が家に居候することになったのだ。

 今朝俺の父親が姫華の家から荷物とともに本人を連れてきたのだが、姫華の両親は昨日アメリカに旅立った。

 俺たち家族も空港に行って姫華の両親の見送りをしたのだが、俺は姫華の両親からくれぐれも娘を頼むと涙ながらに頼まれてしまった。

 やはり、日本に残した娘のことが気になるのだろう。


 カチャカチャ。


「えーっと、こうしてあーして……」

「「おおー」」


 俺が説明書を見ながらパイプベッドを組み立てていくと、姫華と麻衣が揃って感嘆の声を上げた。

 説明書を見れば組み立てられるとはいえ、女性にとってこういう大物家具を組み立てれるのは凄いことらしい。

 こうして、素直に褒められるのは悪い気はしないな。

 机などもちゃっちゃと組み立てていき、一通り大物家具は配置できた。

 すると、姫華が俺にあるお願いをしてきた。


「熊、本棚に小説を入れるのを手伝って」


 姫華が、本が隙間なくビッチリと入った段ボール箱を指さしていた。

 さっきかなり重い段ボール箱が二つあるなと思ったが、これだけ本が入っていれば重くて当然だ。

 俺たちは、手分けしながら組み立てホヤホヤの本棚に本を並べていった。


「姫ちゃん、たくさんの本があるね。しかも、色々なジャンルのものがあるよ」

「恋愛は、異世界現代関係なくある。ファンタジーとかも好き」


 麻衣と姫華は、本棚に本を並べながら仲良くお喋りをしていた。

 姫華の趣味は読書で、ライトノベル系が好きだという。

 好きなジャンルではなく、気に入った内容の本を読むタイプらしい。

 姫華は実家からあまり荷物を持ってこなかったが、この本一式だけはどうしても持ってきたかったらしい。

 よしっと、これでほぼ荷解きは完成だ。

 空になった段ボール箱を畳んでいると、麻衣が姫華に余計なことを吹き込んでいた。


「姫ちゃん、お兄ちゃんの部屋にはたくさんの漫画本が置いてあるんだよ。私も、時々お兄ちゃんの部屋で漫画本を読んでいるんだ」

「それは興味ある。後で、熊の部屋に入って見る」


 おい麻衣よ、イタズラっ子なニシシって表情で姫華に俺の部屋のことを教えるのではない。

 俺も漫画はよく読むが、いわゆる少年向けの漫画だ。

 なのに、麻衣はよく俺の部屋のベッドに寝転びながら漫画本を読んでいた。

 もしかしたら、二人揃って漫画を読みながら俺のベッドを占領するかもしれない。

 そんなことを想像して思わず苦笑しながら、俺は潰した段ボール箱をこの部屋の押し入れにしまったのだった。

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