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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第一章 そのヤニカスはタバコ代を稼ぐため、アイドルになる。
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第四話 衝突する二人

 和人は、零に案内され護衛用の待機室の前に着く。


「ここが待機室だよ。今日来てる二人は個性的だけど、すぐ仲良くなれると思うよ」

「は、はぁ」


(その言葉聞かされて、実際問題が起きなかったパターンない気がするけど)


 零が扉を開けて中に入り、和人はその後に続いた。

 中は楽屋に近いような雰囲気で、フロントのようなリラックスできるような環境ではなかった。


「…………零、そいつが噂の新入りか?」


 ズボンのポケットに手を入れている、褐色肌をした男が和人を睨みつけている。


「…………」


 その隣には、中性的で金色の髪をした、細身の青年もいた。彼は一瞬だけ和人を見るも、すぐに目を逸らしてしまう。


「うん、そうだよ」

「初めまして、赤沼和人と申します。茜宮涼香の護衛として入りました。よろしくお願い致します!」


 和人は頭を下げた。


「……小豆山あずきやま翔一しょういち宍戸ししど夏実なつみの護衛だ。」

「えっと……櫨染はじぞめ早風はやて、です……姉さん――櫨染はじぞめ早織さおりのボディガード、です……」


 褐色の男が翔一、金髪の青年が早風。

 それぞれ名乗り終えると、翔一が和人に近づく。


「新入り、実戦の経験は?」

「なくはないです」

「なんだその曖昧な答え方は? それは喧嘩か? 命のやり取りか?」

「……どちらかと言えば喧嘩です」

「だろうな……いいか、この業界のボディガードはただの護衛じゃねぇ。組織との戦争みたいなもんだ。命をかける覚悟がねぇなら、今の内に消えな」


 翔一は和人を至近距離で睨み付ける。


「…………」


 翔一が放つ圧は凄まじいものであるが、和人は怯む様子がない。


(先輩には謙るのが社会のルールなんだろうが、職業柄強い奴に人権があるとみた。ここは舐められる訳にはいかねぇな)


「だ、だめだよ翔一さん……! そんな風に威圧しちゃ――」


 早風が和人の味方に付こうとするが、翔一はそれを遮る。


「甘ぇぞ早風。この程度の煽りに屈してる程度じゃ、生き残れねぇんだぞ」


(この人、口は悪いが結構まともな思考してるな)


「それにこいつは、本来受けるべき測定試験をパスしてやがる」


(えっ、試験なんてあったのか!? ……いや、冷静に考えれば普通あるよな)


「コネを使って入った可能性もある……」

「いや、それはないと思う」


 翔一の言葉を否定したのは、零。


「社長がコネ入社を認めるような人に思える?」

「……確かにそれは考えられねぇ。だが試験をパスしたのも事実だ」

「試験を受ける必要が無いほど、強いってことじゃないかな」

「――もし可能なら、その試験を受けてもいいですよ」

「は?」


 和人が口を開くも、翔一は顔を歪める。


「合格して当然――って感じで言うじゃねぇか。知ってるか? 護衛測定試験の合格率は三割切っている。喧嘩でイキっているような輩には到底無理だ」

「合格出来なかった抜けますよ、もちろ――」


 不意に、翔一がナイフを後ろ腰から取り出し、刃先を和人の眼球寸前に突き立てる。

 目にも留まらぬ速さで動いた翔一。


「…………」


 だが和人はビクとも動かなかった。


「どうした? 早すぎて反応もできねぇってか?」

「……相手が《アインスター》かどうか、どんな能力を使うのか知らずにツッコむのもどうかと思いますが?」

「あ? 何言ってんだお前? 強がってんのか?」


 和人の言葉を理解出来なかった翔一。


「しょ、翔一さん……足元を見てください……」

「足元だぁ?」


 翔一が下を向く。

 和人の右足が、翔一の右足を踏む寸前で止まっている。


「これがなんだってんだ? 踏まれようがナイフの方が致命傷になるだろ」

「――俺の能力なら、ナイフが当たる前にあなたを殺せますよ」

「……なんだと?」


 和人は強気な発言をぶつける。


(当たる前ってところは嘘だが、この人は俺の能力を知らねぇ)


「生意気な奴が入って来たな、おもしれぇ……零、このあとの予定は?」

「アイドルの皆さんが行う、配信の打ち合わせが終わるまでは待機だよ」

「よし! おい、和人って言ったな?」


 翔一はナイフをしまい、和人の肩を掴む。


「測定試験の代わりに――――――――」



   ※



 一方、フロントではアイドル達が集まっていた。


「紹介するね! この人が新しく入った茜宮涼香さん! 学生時代の先輩なの!」

「うぃーす! 茜宮涼香っす! 趣味は他人のゲームのデータを消去すること! 将来の夢は世界征服をして、タバコ税を廃止すること! ……タバコをくれたら懐くかもよ」


 花子先導のもと、涼香はアイドル二人に自己紹介をした。


「…………えっ、この子大丈夫なの?」


 涼香のアイドル志望とは思えない常軌を逸した発言に、ピンク色のツインテールが目立つ少女がドン引きする。


「うふふっ、わたくしは良いと思いますわ」


 金髪ロングヘアーをした少女は、涼香を受け入れた。

 片手に紅茶が入ったティーカップを持っており、お嬢様のような雰囲気を醸し出していた。


「良くないわよ!! こんなアイドルが誕生したら、子供の夢が壊れるわよ!!」

「――と、とりあえず二人も自己紹介を、ね?」


 花子が優しい口調で言うと、ツインテールの少女は咳払いをする。


「アタシは宍戸ししど夏実なつみよ。いい? アイドルをやるからには、その醜い欲望を抑えるところから始めなさい!!」

「ちッ……うっせぇな、この女」


 涼香はさり気なくタバコを取り出し火を――


「先輩に向かってなんて態度なの!? それとここ、禁煙だから!!」

「…………!!」


 涼香は鬼の形相――を越える程顔を歪ませる。


「その顔だけは絶対にファンの前で出さないで!!」

「あはは! モザイクも貫通しそうな、酷い顔だね! あはははは!」


 花子は涼香の表情がツボに入り、笑いが止まらなくなる。


「信じられない……花子がこんな奴と仲がいいなんて……」


 夏実は花子の思わぬ一面に、ショックを受ける。


「いや、正直私もなぜ仲良くしてもらってるのか理解出来ん」


 元の顔に戻った涼香は、タバコに火を灯すのを諦め、とりあえず咥えるだけ咥え続けることに。


「次はわたくしですね」


 続いて、金髪の少女が自己紹介を始める。


「初めまして、わたくしの名は櫨染はじぞめ早織さおりと申しますわ。この事務所だと、私が一番長く所属しているので、困った事があったら頼ってくださいませ」

「おぉ! 典型的なお嬢様キャラ特有の、意味のない語尾!」

「なくはないわよ! なくは!!」

「涼香さんは、どうしてアイドルを?」


 早織が訊ねると、涼香は咳払いを挟んでから話す。


「実は母親が病気で、お金を稼がないといけなくて……でも私は馬鹿だから、まともな職に就けなくて……そんな時にプロデューサーが――」

「それ、絶対嘘でしょ」

「……夏実っち、そういうのは言っちゃいけないって、学校で習わなかったのかい?」

「はいぃ!? てか夏実っちって何よ!? 変な呼び方しないで!!」

「涼香さんの言う通りですわ。嘘を嘘として楽しめないのは、芸能に携わる者としていかがなものかと」

「なんで早織はそっちの味方なの!?」

「あははっ! あはははっ!」

「花子はいつまでツボに入ってるのよ!!」


 夏実はツッコミに徹するしかできなかった。


「はぁ……はぁ……さて、本題に入るよ!」


 ようやく笑いを抑えることができた花子が、仕切り直す。


「今日の午後三時から、生配信をするんだ。もちろん、涼香先輩をメインにした新メンバー紹介の配信になるんだけど、ある程度事前に話すことを決めておかないとね」

「午後三時? そんな中途半端な時間にあつまるのか?」


 涼香が疑問を浮かべると、夏実が答えてくれる。


「今日は土曜日だから、問題無いわよ」

「そっか。今日土曜なのか……ニート生活が長かったから、感覚が鈍ってるな」

「ニートだったのにタバコ吸ってるの? 本当に大丈夫なの、この子……」

「大丈夫! これからその金を稼ぐんで!」

「簡単に言うわね……その自信はどこから来るのよ」

「私の可愛さから! 夏実っちより可愛い自信ある」

「はいぃ!? 喧嘩売ってるの!?」

「税込六千円で売ってる」

「ふざけんじゃないわよ!!」

「喧嘩するならお金を払ってね!」

「払わないわよ!!」


 涼香と夏実が口論になる。


「あはは……話、進まなそうだね!」

「今日は時間がたっぷりありますから、問題ありませんわ。むしろ、こうやって親睦を深める時間の方が、貴重ですから」


 花子と早織は楽しそうに口論を見ていた。

 そこに、零が一人で歩いてくる。


「皆、順調――じゃ、なさそうだね……」


 アイドル達の光景を見た零は、「うーん、どうしよう……」と呟く。


「プロデューサー、何かあったの?」


 花子が訊ねると、「あぁ、」と言葉を続ける。


「色々あって、和人くんと翔一が決闘することに――」


 零が最後まで言い切る前に、夏実と涼香が口を揃えて叫ぶ。


翔一あいつが決闘!?」

「和人が決闘!?」

 

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