第二十三話 『暗黒郷』に希望を斬り拓く者・偽りの『理想郷』を斬り伏せる者
いつも和人が気晴らしにくる、公園の中心部。
「はぁ――!!」
聖也を引き留めるべく、和人が彼に攻撃を仕掛ける。
何の捻りもない、一直線の突進。
「…………」
和人が突き出した拳を、聖也は最小限の横移動で回避。それと同時に、和人の腹に蹴りを入れる。
「うぐッ!」
和人の体は後ろに吹き飛び、街灯に背中をぶつけそうになる。
「……本当にやるのか?」
「あったりめぇだ!!」
和人は右手に紫色の炎を生成する。
「【エンビース】――《スラッシュ・ディストピア》!」
炎を剣状に伸ばし、聖也の体を斬ろうとする。
「……やるしかないんだな」
聖也は素早くポケットからバタフライナイフを取り出し、右手の平を切る。出血した血液で盾を作り、和人の攻撃を防ぐ。
その流れで盾を剣に変え、和人に向けて伸ばすように振り下ろす。
和人はそれを横に躱す。本来であればここで攻めに行きたかった和人だが、それよりも早く聖也が彼の懐に入る。聖也は和人の腹を殴ろうと拳を突き出すと、和人は後ろにバックステップを踏む。
「なッ!?」
地面に着地すると同時に、和人の背中に鈍い衝撃が走る。
和人の回避に合わせて、聖也が背後に回って膝を背中に打ち込んだのだ。
前に怯んだ和人に体勢を整えさせる間もなく、聖也は彼のうなじに手刀を当てて意識を飛ばそうとする。和人は素早く振り向き、聖也の手首を掴んで阻止する。
「掴んだぞ!!」
和人は能力を使い、聖也の手首に紫の炎を纏わせる。
「……」
だが聖也は動揺することもなく、上半身を視界に捉えている和人に対し足払いをする。
意識外からの攻撃に為す術なく和人は足を宙に浮かせ、聖也の手首を掴んだ状態で宙づりになった。この状態だと膝蹴りを顔面に喰らうことになるのを察した和人は手を離し、不格好に転がりながら後退する。
「くそ! 相変わらず速ぇ!」
和人は体を跳ねらせるように起こし、体勢を整えた。
その隙に、聖也は自身の血液を使って、手首に纏わり付いた紫の炎を消火する。
(わかっていたが、俺の能力は聖也の能力と相性が悪すぎる! 能力の押し付け合いじゃ、間違いなく勝てねぇ……!)
義理の兄弟。共に同じ親の元で、同じ修行をしてきた。
その中で試合稽古をしたこともあった和人は、聖也との実力差を自分自身一番理解出来ていた。
(シンプルな力比べなら、6:4で多少上だ)
和人は強く地面を蹴り、回り込むような動きで聖也の左横を取る。戦闘経験豊富な護衛でも目で追えない動きで、聖也の死角を取った和人。
だがその例に、聖也は含まれない。
和人が拳を聖也の横顔にぶつけようとした。攻撃が当たる寸前、残像を殴ったかのように拳が空を切る。聖也は和人の攻撃を最大限引きつけ、瞬きする間もなく彼の横に移動していたのだ。聖也はその勢いを足に乗せ、和人の腹を蹴る。
「うぐッ!」
和人の体が吹き飛び、近くにあった木に背中をぶつける。
(わかってる。力で勝てたとして、それをぶつける機会を作らなきゃ意味がないってことを。そして、それを作るには……速度がいる)
聖也は間髪入れず和人に接近し、右膝を彼に入れようとする。その攻撃を、和人は聖也から見て左に避けようと動く。
しかし――
「――遅い」
聖也は左足で回し蹴りを行い、和人の顔に勢いよくぶつけた。
右足の攻撃はフェイントとして行おうとしたものではない。和人が左に動いたのを見て、瞬時に攻撃方法を変えただけ。
(速度勝負なら聖也には勝てねぇ……体の柔軟性だけじゃない……動体視力が異常に発達してやがる……)
頭に強い衝撃が走ったことで体勢を大きく崩し、横に倒れた。
(左目はどんな生物をも越える動体視力。右目だけならと思ったが、それでも人間離れした視力と反応をしやがる……俺と聖也の速度の対は――――1:9。追いつけるわけがねぇ)
「…………」
動かなくなった和人を見て、聖也は黙ってこの場を去ろうとした。
「――まだだ……!」
だが和人はまだ諦めない。どれだけ実力差があっても、このまま聖也を帰すわけにはいかなかった。
「……もう充分だろ。これ以上は、和人の活動に支障が出る」
「うるせぇ!!」
和人は両足に力を込め、ふらつきながらも立ち上がった。
「最初に言っただろ! 死ぬまで諦めるつもりはねぇと!!」
「なぜそこまでして、オレを止める?」
「お前に……幸せに生きてほしいからに決まってるだろ!! 今のお前は……自分を殺して生きてやがる……」
「当然だ。オレは父さんのためにも――仲間が前を向いて生きていけるためにも、腐った奴らを駆逐する。オレの幸せなんて、知ったことではない!!」
「俺は!! 俺らはそう思ってねぇんだよ!! 花子もそうだ! お前の幸せを願ってる! だからもう、自分を犠牲にする真似はさせねぇよ!!」
和人は右手に紫の炎を纏わせる。
「【エンビース】――《スラッシュ・ディストピア》!!」
そして炎の剣を伸ばし、聖也に斬りかかった。
「……【スカー】――《スラッシュ・ユートピア》」
それに対し、聖也は結晶化させた血の剣で斬り返す。
炎の剣と、血の剣が衝突。
血の剣は結晶化させていたため、液体ではなく固体となっていた。
しかし、重力の壁をも切断する硬度を持つ血晶が、炎を斬れないわけもなく――
「が……ぁ…………!」
炎の剣に打ち勝つと同時に、和人の体に袈裟斬りが走った。
和人は前に倒れ、血の海に浸かり始める。
「…………」
聖也は和人に背を向けながらスマホを取り出し、電話をかける。
救急――ではなく、俊樹に。和人のことも考えて、今回の件を大事にしないほうがいいと考えたからだ。
『お疲れ様です、我が主』
「すまない、色々あって和人が怪我をした。申し訳ないが、治療を――」
刹那――聖也の背後から大きな発火音が聞こえた。
「!?」
聖也が後ろを向いて確認すると、立てないはずの和人が立っていた。
――蒼の炎を、身に纏いながら。
「和人…………本気を出してまで、オレを引き留めたいのか…………」
『主、何かあり――――』
聖也は電話を一方的に切り、和人の方へ体を向き直した。
和人は非常に険しい表情を見せている。自身の感情を抑えることなく、全てを表に出すように――
「これで……勝った気でいるなよ…………聖也!!」




