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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第二章 その偽善者は歩み続ける。聖者の行進を。
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第二十話 嫌な確信

「花子ちゃん、今日も可愛かったよ!」

「えへへ、ありがとう!」


 駅前の公園にある、屋外ステージにて。

 花子のミニライブが終わり、握手会が行われていた。

 花子のブースには最後尾が見えないほどの行列が出来ている。全員を相手にすることを考えると、最悪ライブしてた時間よりも長くなる可能性が高い。


「…………」

「えっ、えっと……涼香ちゃん」


 涼香も握手会を開いており、花子ほどではないが行列が出来ている。

 だが本人はファンに目線を合わせず、禁煙場所でありながらタバコを吸っていた。


「ファンです! 握手してください!」


 涼香のファンを名乗る男が手を差し出す。これにようやく反応した涼香が、男の方に視線を向けると、


「その汚い手に握手しろってか? ちゃんと爪切ってから出直してこい!」


 握手に応じるどころか、ファンを罵倒した。


「は、はいぃ――!!」


 ファンは叫びながらその場を去って行った。

 その表情は、何処か嬉しそうである。


「涼香たん、お願いします!」

「その呼び方キッショ! 彼女作った時に、間違ってもその呼び方するなよ!」

「はい! ご教授ありがとうございます!」


「涼香ちゃん、いつも応援――」

「ごほッ! げほッ! 臭お前!? 風呂入ってんのか!? 顔のパーツは悪くないんだから、そこら辺ちゃんとしろ!」

「善処しますぅ!!」


 涼香は次々とファンに罵倒を浴びせるが、ファンは喜んだ様子で帰っていく。


(妙に的確なアドバイス入れてくるもんだから、余計腹立つな……)


 その様子を、彼女の左後ろで見守っていた和人。


(それよりも……)


 ――ドドドッ! ドドドッ!


 遠くから銃声が聞こえてくる。

 耳を澄まさないと聞こえない程度のもので、涼香たちの身に危険がすぐ及ぶことはないだろう。


(この銃声、トラオムが来てるってことだよな? 零さんが戻って来ない以上、下手にここを動くわけにはいかない。周辺を警備していた人たちだけで、どうにか対処できれば嬉しいが……)



「――ファルベ事務所の護衛さん……ですよね!」


 そう思っていると、防護服で身を固めている男が、息を切らしながら駆け寄ってくる。

 和人は嫌な予感を覚えながらも、「そうですが……」と返した。


「我々警備部隊が、トラオムに圧されている状態です! このままだと、この会場に侵入されてしまいます!」

「マジですか……俺も加勢したいところではあるんですが……」


 和人は涼香の方を向く。

 それに気づいた涼香は、目の前のファンを放置して和人の方を見て答える。


「いや、行っていい――というよりは、行った方がいい」

「え?」

「護衛対象を背にして戦うのと、離れた場所に置いて戦うの、どっちがやりやすい?」

「んまぁ後者の方だが……その場合、お前らに何かあったら――」

「私も三咲さんから戦い方を教わってる身だ。幹部クラスが乗り込んで来なければ、自力で対処できるし、花子を守ることもできる。最悪の場合は、蓮次郎を盾にするが」


 サラッと蓮次郎を犠牲にする方針を述べたことに、当の本人は「えぇ!?」と驚くしかなかった。


「私も大丈夫だよ!」


 すると、花子も無理矢理会話に入る。


「零さんがいない時の方が、トラブル少ないから大丈夫だよ!」

「そ、そうなのか……」


(そう言えば再会したときに、そんなことを口にしていたような……)


「それに、警備部隊が突破されて、こちらに入って来た場合……ここにいるファンも巻き込まれるぞ。お前の性格的に、見殺しには耐えられまい。行ってこい」

「……すまん、すぐに戻ってくる!」


 和人は持ち場を離れ、警備部隊とトラオムが交戦している場所へ走り出す。



   ※



「なんだあいつ!?」

「まともに動けるのはあいつ一人だ! 数で押し切れ!!」


 狼狽えていたのは警備部隊――ではなく、トラオムの部隊。

 警備部隊はほぼ全滅に等しく、周辺には大量の死体が転がっている。まだ息のある警備もいたが、全身に弾痕があり、立てる状態ではない。

 その人物を守るよう、トラオムの部隊に一人で立ち向かっている男がいた。


「おやおや、数の暴力で解決しようってか? スマートじゃないねぇ……」


 仮面を被った灰色の髪をした男。

 その仮面には、葉巻を口に咥えたドヤ顔が描かれている。

 彼はヘアクラーズの一員である、勝正だ。


「黙れ! スマートだろうが無かろうが、結果的に勝てば――――」


 トラオムの構成員が最後まで言葉を言い終える前に、勝正は手にしていたリボルバー拳銃で頭を撃ち抜く。

 銃声は一発に聞こえたが、実際に発射されたのは六発。装填された弾を一瞬で使い切り、六発全てを六人の構成員の頭に命中させていた。


「確かに結果は大事だが……理想の結果を出すには、過程も大切なんだぜ」


 彼は話しながら拳銃内の薬莢を捨て、一度に六発の弾丸を素早く装填する。




「――おい、俺が来る必要あったか?」


 現場に駆けつけた和人。警備部隊とは異なるオーラを放つ勝正を目にし、そう呟いた。


「ん? 警備部隊と服装が違う……アイドルの護衛だな?」


 和人の存在に気づいた勝正が、振り向く。

 それと同時に、その隙を突こうとトラオム構成員が自動小銃を向ける。


「よそ見を――がぁ!!」


 だが彼らは引き金を引く前に、全身が紫の炎によって包み込まれる。

 魂を焼かれる痛みに彼らは倒れ、のたうち回る。

 和人が能力で炎の剣を伸ばし、一気に十人の構成員を制圧したのだ。


「紫の炎……何か、引っかかるな……」


 和人の攻撃に既視感を覚える勝正。

 彼の様子を他所に、和人が話しかける。


「その仮面……あんた、ヘアクラーズなんだろ?」

「ご名答。俺はヘアクラーズ(ナンバー)6、〔グラオ〕だ。兄ちゃん、容赦ないね」

「銃を向けている奴に、手加減する理由なんてないからな」


 勝正と和人は横に並び、トラオムの構成員たちと対峙する。


「動ける警備の奴は、息がある奴を安全な場所へ!」

「わ、わかりました!」


 勝正の声で、和人を連れてきた男が近くに倒れている警備を抱き抱え、安全な場所へ運び始める。


「奴らを逃がすな! 少しでも数を――」


 警備の方を狙おうとするトラオム構成員に対し、勝正は容赦無く弾丸を頭に撃ち込む。


「お前らの相手は、俺たちだぜ」

「クソ! 一人増えたからって――!!」


「【エンビース】――《ガトリング・ディストピア》」


 和人は右手の平を正面に向け、そこから炎の弾丸を連射する。

 炎の弾丸は、構成員たちの体に次々と命中。《スラッシュ・ディストピア》と違い、炎は小さいが魂を燃やすことには変わりない。その痛みによって構成員たちは悶絶し、銃を手放して倒れ込む。


「やるねぇ! 俺も負けてられないな!」


 和人に張り合うように、勝正はリボルバー拳銃の早撃ちを始める。

 拳銃の最大装填数は六発。ガトリングのように炎の弾丸を撃ち続ける和人に追いつけるとは思えないのだが、彼は達人のような手捌きで最装填と発射を繰り返す。

 それにより、拳銃とは思えない連射速度を生まれ、和人が十人に当てた時には、その倍の二十人の頭を撃ち抜いていた。


(この男、マッチョなのにクールな戦い方するな……なんかこう、力でゴリ押した方が強そうな体してるのに……)


「う、嘘だろ……!?」


 あっという間に構成員の数が減り、残り十数人まで追い込んだ。

 残った構成員が、焦った様子で話し合う。


「もう無理です! レベルが違います! 逃げましょう!!」

「いや、タウルスさんのためにも、一秒でも時間を稼ぐ! 運が良ければ増援が――」


 すると、構成員のインカムに、トラオムの動きを遠くで監視していたアルデバランの通信が入る。


『陽動部隊! 撤退しろ!!』

「撤退!? どうしてですか!?」


 撤退命令に困惑する構成員。

 構成員の言葉を聞いた勝正は拳銃を降ろし、和人は手を下ろす。


『陽動が失敗した――いや、正確には無駄になってしまった! タウルスがヘアクラーズのトップと鉢合わせて負けたんだ! ヴィルゴがいなければ、殺されてただろう……これ以上戦闘を続けても無駄だ!! 撤退してくれ!!』

「……承知。皆聞いてたな! 撤退する!!」


 生き残ったトラオム構成員は、アルデバランの指示に従ってこの場を去って行く。

 和人たちの目前には、頭を撃ち抜かれた無惨な死体と、魂を燃やし尽くされて亡くなった綺麗な死体が転がっている。


 ――♪


 トラオムが撤退して間もなく、勝正のスマホに着信が入る。


(このタイミングの着信――ヘアクラーズの誰かだな……!)


 和人は耳を澄ませ、勝正の通話を聞くことに。


「あいよ、親分!」

『そっちの状況はどうだ?』



「っ…………!!」



 スマホ越しに聞こえてきた声。

 その声を聞いた和人は、一瞬でその人物の正体を察する。


「もう終わってるぜ! 気前のいい兄ちゃんの助けもあってな!」

『……そうか。先にアジトへ戻ってくれ』

「承知したぜ!」


 勝正は電話を切ると、和人に話しかける。


「感謝するぜ兄ちゃん。お前さん、ファルベの護衛だろ? お礼の品を事務所に送るから、楽しみにしてくれ」

「……お礼の品の代わりに、聞きたいことがある」

「ん、なんだ?」

「電話の相手……ヘアクラーズのボスか?」

「そうだな。ボス――というよりはリーダーに近いが、トップであることに変わりないな。それがどうかしたか?」

「…………そいつ、左目を怪我してないか?」

「…………」


 勝正は答えに迷ってしまった。

 迷いによって生じた間が、和人にとっては答えになっていた。


「悪い。下手な詮索をしてしまった」

「気にするな。こっちも、今の質問で成果を得られた。〔ファーブロス〕の情報よりも、強く感じた。俺たちはいつでも、お前さんが来るのを待ってるぜ……()()の旦那」


 そう言って、勝正はその場を去って行く。


「…………」


 ヘアクラーズのトップの正体に確信を得た和人。

 彼は気持ちを整理できないまま、涼香たちの元へ戻るのであった。

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