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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第二章 その偽善者は歩み続ける。聖者の行進を。
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第十九話 ヘアクラーズのリーダー

()()()()、部隊の準備は完了しているぜ』


「了解。お前は監視を続けろ、()()()()()()


 インカム越しにタウルスと呼ばれた男が、公園の近くを歩いている。

 彼は【トラオム・ワーレン】の第二幹部を務めている、実力のある男だ。


「……そろそろ、始めるの?」


 そう呟いたのは、彼の隣に立っていた白い髪を二つに結んだ少女。

 彼女もまたトラオムの一人であり、第六幹部を務めている。

 コードネームは『ヴィルゴ』


「あぁ……だが、もう少しタイミングを測らせてもらう」


 すると、タウルスがアルデバランと呼んだ人物から、インカムによる通信が飛んでくる。


『タウルス! 良いニュースだ! 瑠璃川花子の護衛が持ち場を離れて、何処かへ駆けだしたぞ! 攻めるなら、今がチャンスじゃないか!?』

「ほう……理由はどうであれ、チャンスに変わりないな……部隊に攻めるよう、指示を出してくれ」

『了解!』


 アルデバランとの通信を終えた男は、公園へ向かって直進し始める。少女ヴィルゴもその後をついていく。


「さて、我々も動こうか。新人護衛の赤沼和人……彼の力は未知数だが、湊零を越えることは…………」

「? どうかした?」


 途中で言葉を止めた男。よく見ると、体が小刻みに震えている。


「……最悪だ。これなら、湊零と衝突する方がマシだったかもしれない…………」

「一体何を――えっ……!?」


 少女が男の視線を追ってみると、一人の青年が電柱に背をかけていた。

 仮面を付けた青髪の青年。仮面に描かれている、顔の左目が星になっている。

 その正体は、ヘアクラーズのリーダー――〔ブラオ〕

 本名――星住聖也。


「【トラオム・ワーレン】第二幹部――タウルスと、第六幹部のヴィルゴだな」


 聖也は電柱から離れ、タウルスたちの元へゆっくりと歩き出す。


「ほう……我々が来ることはお見通しってわけか……」

『タウルス、大変だ!』


 すると、アルデバランから通信が飛んでくる。


『攻め込んだ部隊が、ヘアクラーズに足止めを受けてる! 灰色の髪をしてるから……〔グラオ〕だ!』

「…………」

『あいつ一人なら、俺が加勢すれば――!』

「ダメだアルデバラン! お前がいなくなったら、現場の監視役がいなくなる。そこで待機しろ」

「冷静だな……幹部の肩書きは伊達ではないか」


 ここで聖也は、一つの案を提示する。


「タウルス……部隊を退かせた上で、お前の首を差し出せ。そうすれば、〔グラオ〕にその部隊を追わないように指示を出す。更に、お前の後ろにいるヴィルゴにも手を出さないことを約束しよう」

「生意気を言ってくれるねぇ…………ヴィルゴ」

「わかってる……私も戦えば――」

「違う、逃げろ」

「え?」


 予想外の指示を出した男に、少女は戸惑う。


「俺は〔ブラオ〕の足止めをするので精一杯になるだろう。幹部に昇格したばかりの君を、一人でアイドルの元へ向かわせても荷が重い。和人は新人でありながら、第八幹部(スコルピウス)補佐(アンタレス)を殺した実力を持っている。返り討ちに遭う危険もあるだろう。部隊の加勢に行くのも、いずれ和人や他の護衛の援軍が入ることを考えれば、焼け石に水だ」

「で、でも――!」

「――彼の言う通りだ」


 すると、聖也が口を挟んでくる。


「オレから見ても、君一人でどうこう出来る状況ではない。もし逃げるのであれば、オレは追わない」


 聖也は、仮面越しに少女の瞳を真っ直ぐ見つめながら、そう言い放った。


「……応援を、呼んでくるね」


 そう言って、少女はこの場を去って行った。


「行ってくれたか……さて、ヘアクラーズのリーダーを相手に、どうしたものか……」

「どうもこうもない。大人しく死んでくれ。お前はアイドルを殺しすぎた。悪いが、拒否権はない」

「逃がしたヴィルゴも充分、アイドル狩りの成果は出しているとツッコミたいが……まぁいい。俺も、お前を殺したかった」


 男はボクサーのように両拳を前に構える。


「俺は先代のボスに拾って貰った恩がある……その人を殺したお前が、憎くてしょうがなかった!!」


 男は聖也との距離を一気に詰め、聖也の腹に拳を叩き込もうとする。

 その動きを完璧に捉えていた聖也は、拳の突き出しに合わせて体を後ろに引き、同時に男の左肩に蹴りを入れた。


「ぐッ!!」


 その隙に聖也は、ズボンのポケットからバタフライナイフを取り出す。そしてナイフで右手の平を切り、出血させる。


「――【スカー】」


 聖也は血を棒状に伸ばし、それを男へ向けて振るう。

 男は蹴り出された直後にも関わらず、聖也の攻撃を的確に横へ回避し、拳を前に突き出す。


「【シュワークラフト】!」


 その拳は当然、聖也の体に当たるはずがなかったが、男の能力を把握していた聖也は体を横にずらす。その直後、聖也の背後にあった電柱が折れる。まるで、何かにぶつかったように。


「流石に、俺の能力はわかってるか……」

「それはお前も同じだろ?」


 男――タウルスの能力【シュワークラフト】は、重力を自在に操ることができる能力だ。

 俊樹の能力と同じように、初見の相手には最強格の能力だが、聖也は男の能力を事前に把握していた。


「いいや、俺はまだ分かっていない……〔ブラオ〕には、もう一つの能力があるはずだ」

「その通りだが……オレが先代ボスを殺したのをわかっているのなら、素性はわかっているんだろ? 過去の戦闘記録を、トラオムは保管しないのか?」

「お前の正体がわかっているのは、事実。だが……もう一つの能力に関しては記録が残らない――いや、正確には、記録することができない能力――と言った方が正しいか……俺が唯一分かっていることは、左目に関係していることだけだ!」


 男は腕を強く振り下ろす。聖也はその動きに合わせて横に移動すると、元いた場所の地面が綺麗な直線を描いて沈下する。

 聖也は回避と同じタイミングで血液の剣を振るい、男の体を斬ろうとした。男はそれに反応して、左手をかざすように剣が来る方へ向ける。すると、剣身が折れるように上半分がバラバラになり、男の体に当たることはなく、前方の空を斬るだけだった。

 男はその隙を突こうと、聖也との距離を詰め、拳を横に振る。聖也はその攻撃を屈んでかわす。


「甘い!」


 男は拳を横に振ったのに対し、能力で聖也のいる前方の重力を強くし、彼を潰そうとした。


「――それはこっちの台詞だ」


 しかし、一秒の間もなく男の背後に回っていた聖也。男がそれに反応する前に、背中にバタフライナイフを突き刺した。


「ぐぅ!! まだだ!」


 男は振り返ると同時に、聖也へ裏拳を叩き込もうとするも、それよりも速く元いた場所に戻り、振り返った男の背中を強く蹴る。


「うぐ!!」


 男は前に蹴り出され、体勢を崩す。

 その隙に、聖也はまだ出血している右手の血液で剣を再生成し、男へ振り下ろす。素早く振り返った男はそれを能力で防ごうとする。



「【スカー】――《スラッシュ・ユートピア》」



 刹那――血液の剣が結晶化する。その硬度と切れ味は非常に高く、重力の壁をも切断。


「がぁ…………!!」


 男の体を斜めに深く斬った。

 男は仰向けに倒れる。


「ごほっ……!」


 内蔵まで届いた斬撃で、このまま放置しても命はない。


(この男……能力だけじゃない……身体能力もバケモンだ……俺の死角を、確実に取ってくる……!)


 死に際だからか、男の脳内で聖也の素早い分析が今になって浮かんでくる。


(冷静に考えればそうだ……先代ボスを倒したこの男に、俺が勝てるわけがなかった…………()()()様の指示に従って……この男と遭遇したら、逃げるべきだったんだ……)


「……()()()()()()と違って、まともな人間に見える。仲間を逃がしていたな」


 聖也は血液の剣を解除し、男へ歩み寄る。


「今後、アイドル業界と関わらないと約束するなら、命までは奪わない」

「……俺の尊敬する人の命を奪った奴に……救われたくない…………俺も覚悟はできている。このまま、殺してくれ」

「…………そうか」


 聖也は懐から拳銃を取り出し、男へトドメを刺そうとした。




「はぁ……はぁ……!」




「?」


 すると、息を切らして走っている男の姿が、聖也の目に入る。

 その人物は、結生のプロデューサーだ。無我夢中で逃げていた彼は、花子のライブ会場付近に来てしまったのだ。


(……タウルスは、放置しても死ぬ…………ならば――)


 聖也は男を放置し、結生プロデューサーの前へ素早く移動する。


「ひぃ……!!」


 瞬きした瞬間に現れた聖也に驚いたプロデューサーは、腰を抜かす。


「紅藤結生のプロデューサーだな。その様子だと、自身の悪事がバレて逃げたところだな?」

「な、なぜそれを……!?」

「クズ野郎だが、あくまでも表社会の人間。自首してアイドル業界から離れると誓うなら、ヘアクラーズはお前を狙うことはなくなる」

「自首……だと……!」


 ここで嘘でも自首すると言えばいいものの、結生プロデューサーは自我を前面に出した。


「そんなことするか! アイドル共とヤれなかったのは残念だが、大金は手に入った! このまま遠くへ逃げ――――」


 聞くに堪えなかった聖也は、拳銃でプロデューサーの頭を撃ち抜き、命を奪った。

 プロデューサーは目を開いたまま、仰向けに倒れる。


「……やはり、こういう人間は殺すしかないんだな」


 そう呟いた後、聖也はタウルスの元へ戻る。

 男の意識はなく、息も浅い状態だ。


「――タウルス!?」


 その直後、応援を呼びにこの場を離れた少女ヴィルゴが戻り、男のもとへ駆け寄る。

 だが不思議なことに応援と思われる人物は一切来ず、さり気ない動きで男のインカムの電源を落としていた。


「……一人で戻ってきたのか、ヴィルゴ」

「!?」


 少女は男を抱き寄せ、聖也を強く睨む。


「…………そいつの男気に免じて、今回は生かしてやる。ただ、次オレと戦うことになった時は……確実に殺す」

「――いいの? 殺さなくても」


 あろうことか、男の味方であるはずの少女が、そのような言葉を口にした。


「あぁ。トラオムは全員ゲスい奴だと思っていたが、そいつは違うみたいだ……闇医者に連れて行ってくれ、〔ヴァイス〕」

「……わかった」

「それから……」

「?」

「妹は元気にやってる。安心してくれ」

「ありがとう、〔ブラオ〕」


 トラオムの幹部――『ヴィルゴ』であり、ヘアクラーズ(ナンバー)4――〔ヴァイス〕である少女は、男を抱え再びこの場を去って行った。


「…………」


 彼女が離れたのを確認した聖也は、別の場所で戦っていた〔グラオ〕――勝正に電話をかける。


『あいよ、親分!』

「そっちの状況はどうだ?」

『もう終わってるぜ! 気前のいい兄ちゃんの助けもあってな!』

「……そうか。先にアジトへ戻ってくれ」

『承知したぜ!』


 勝正との通話を終了する。


(気前のいい兄ちゃん…………状況的に、和人だな)


 そう思いながら、今度は俊樹に電話をかけるのであった。


『お疲れ様です。我が主』

「〔ファーブロス〕、こちらは片付いた――――――――」


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