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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第二章 その偽善者は歩み続ける。聖者の行進を。
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第十七話 哀しき再会

「俊樹くん……どうして……!?」


 早風の目の前に現れた、大鎌を背負った白髪の青年。

 仮面で顔を隠していたが、早風は彼の正体を見抜いていた。


「…………」


 すると俊樹は周囲を見渡し、監視カメラを確認する。

 カメラに向けて手の平を向け、何もない宙を握り潰すと、それと連動したかのようにカメラが粉砕された。


「その能力……やっぱり、そうなんだね…………」

「大鎌を置いておくべきだったか……いや、万が一にもこの武器は必要だったな……」


 そう言いながら、俊樹は仮面を外し、早風たちに素顔を晒した。


「えっ……!?」

「おい……なにやってんだ……〔ファーブロス〕……!」


 あっさりと素顔を見せた俊樹に、丈留と雅彦が驚く。


「あの二人は古巣の友人だ。仮面を外さなくても、正体はもうバレている」


 二人に弁明した後、俊樹は改めて早風と目を合わせる。


「お久しぶりです、早風さん。ヘアクラーズ(ナンバー)2、〔ファーブロス〕……俺は今、その名前で活動しています」

 

 俊樹は早風に対し、丁寧な口調で話した。ただ、和人や聖也の時とは違い、一人称は『俺』のままだ。

 コードネームを口にした俊樹に、「やっぱり名乗るのが普通なのか……」と丈留は呟いている。


「俊樹くん……行方不明になって……死ぬ人じゃないとは思ってたけど……どうしてヘアクラーズに!?」

「そう思うのも無理はないでしょう。俺も元々、ファルベ・プロダクションにて護衛を務めていた身。それが今では、事務所を破壊する側に立っているのですから」


 俊樹が口にした過去。

 藍白あいじろ俊樹としき――彼はかつて、ファルベに所属していた護衛で、所属当初から一位の実力を持っていた青年。

 早風が涼香に話していた、藍白姉妹の護衛を務めていた長男こそ、俊樹であったのだ。


「……〔オランジェ〕、知ってた?」

「昔……アイドルの護衛をしていた話を、〔ブラオ〕から聞いていたが…………まさか、ファルベだったとはな……ごほッ!」


 長い言葉を話したことで、雅彦が血を吐いてしまう。


「〔オランジェ〕、もう喋るな。〔ハオト〕、そいつを看てやれ。応急処置の方法はわかるか?」

「大丈夫。目の前の怪我人に教えてもらったばかり」


 俊樹が指示を出すと、丈留が雅彦の応急処置を行い始める。


「失礼。話を戻します。俺がヘアクラーズに入った理由――それはシンプルに、復讐が目的です。といっても、俺の復讐はすでに果たせましたが……今はあるじの復讐をサポートしています」

「復、讐……?」

「早風さんには、色々とお世話になりましたから、正直に話します…………ファルベ・プロダクションの先代社長を殺したのは…………俺です」

「!?」

「!?」


 直球で放たれた真実に、櫨染姉弟が驚く。


「拓真さんに聞いてみてください……あの人は目撃者なので、その真実を覚えているかと。ただ正直……現在まで俺の名を吐かないことには、驚いてますが」

「……なぜ、先代を殺したのです?」


 気になった早織は、早風と合流するように歩いた。


「早織さん、あなたなら薄々察してるのでは? 俺の妹…………安那あんな栞那かんなを無惨に殺した犯人が、その社長だったからですよ」

「……!?」

「…………」


 早風が言葉を失う中、俊樹が言うように真実を察していた早織は何も言わず、目を伏せるだけだった。


「あの社長――いや、あのクソ野郎は……妹二人を人形にした…………その事実を財力で抹消できるような上位層の人間を、俺が殺さなければ、誰があいつを殺すと言うんだ!!」


 過去の忌々しい記憶を思い出した俊樹は、拳を横に振る。

 それと同時に、何か大きな物がぶつかったかのように、壁が大きな音を立てて凹んだ。


「……度々失礼。本題に入ります。我々ヘアクラーズは、そんなクソ野郎を駆逐するための存在。故に、ファルベは()()()()()を除いて対象外。早風さんたちと戦う理由は、本来ないのです」

「とある……一人?」


 早風は、その人物が気になった。


「湊零です。我が主はその人に強い殺意を持っておられます。何やら前科持ちみたいなのですが……それ以外にも殺す理由がありそうです。その深いところにある理由までは、俺にも教えてくれませんでした」

「零さんが……前科持ち!? そんな話、聞いたことない!?」

「彼が前科持ちなのはよろしくて。誰しも、隠したい過去はありますもの」


 ここで、早織が割って入ってくる。


「ですが……今は何も悪さをしていないかと。彼が反省しているのであれば、狙う必要はないかと思われますわ」

「前科者の再犯率は高いのが、社会の現状です。可能性が少しでもあれば、それを摘み取るべきだと考えています。もし仮に本当に更正していたとしても…………我が主が殺せと言ってるのであれば、俺はその人物を殺します」

「ずっと思ってましたけれど……無敵とも言われた俊樹さんが、妹さん以外に尽くす相手ができるなんて……意外ですわ」

「無敵? そう見えていただけです。クソ野郎が送った刺客には大変苦戦しました。上には上がいるんです。窮地に追い込まれた中、助けてくださったのか……主なのです! 主は俺の復讐を最後までサポートしてくださりました。だから今、俺は主のために動いているのです! 我が主のためならば、この命は惜しくない! 死んだとしても、愛しい妹たちの元へ帰れるだけ!!」


(俊樹くんにここまで言わせるとなると……かなりの強さと、カリスマ性があるに違いない……)


「また話が逸れましたね。我々は、紅藤結生のプロデューサーを殺します。それを見逃していただければ、もうお互いに争う理由はなくなります」

「…………それは、できない」


 数秒考えた早風だが、結生プロデューサーを見殺しにする選択はできなかった。


「なぜですか? 死体はこちらで処理します。今回のトラオム襲撃とは別件で、彼が行方不明になったことにするのも容易いです」

「僕は……あの人が刑務所に入って、更正して帰ってくる可能性を信じたい」

「更正できなければ、被害者が増えるだけです。今回は、早風さんたちの活躍で阻止できましたが、次は阻止できない可能性もあります」

「それでも、殺すのはだめ」

「……これ以上話しても、可能性の話だけで、平行線が続きそうですね」

「……そうだね」


 俊樹と早風は距離を置き始めた。

 張り付き始める空気から、戦闘が始まってしまうのが伝わってくる。


「……!?」


 その前に、俊樹は背負っていた大鎌を床に降ろした。


「早風さんは〔オランジェ〕との戦闘で負傷しておられます。怪我をした友人を全力で戦うのは、俺の気が引けるので。その上で、今は対立した関係にあるとはいえ、昔の友人を殺したくはありません」

「…………」

「……失礼しました。早風さんは、相手の長所を潰す戦闘スタイルでしたね。特に、相手の武器を奪うことに長けている……ならば――」


 俊樹は床に転がっているトラオムの部下だったものから、ナイフを奪って左手に持つ。


「これで早風さんは、長所を活かして戦えますね。俺も、あなたを動けなくなるまで攻撃するつもりなので……全力で来てください」

「言われなくても……!」


 ついに戦闘が始まった。

 早風は地面を蹴り、目にも留まらぬ速度で俊樹と距離を詰めようとする。

 常人なら反応できない速度だが――


「――【()()()()】」


(来る……!)


 俊樹は冷静に、何も持ってない右手で、何もない宙を横に払う。

 早風はそれに合わせて跳躍する。その刹那――早風の真下に転がっていた死体が、何かに払われるよう、横に吹き飛んだ。

 早風は俊樹の目の前に着地し、彼の腹を殴ろうと拳を突き出す。だが俊樹はそれをあっさりと躱す。


「なるほど……以前よりも速度が上がっている……」


 早風は連続で攻撃を繰り出すも、全て躱されてしまう。

 その合間に俊樹は早風に蹴りを入れる。絶対に回避できないタイミングで放たれた攻撃を、早風は受け止めるしかなかった。


「くっ……!」

「ですが、スピード任せじゃ俺に攻撃は当てられませんよ」

「まだだ……!」


 早風は攻撃の手を止めない。

 俊樹は彼の攻撃を難なく回避し、隙を突いて何度もカウンターを返す。 


(ダメだ……この人に攻撃を当てられる気がしない……!)


 早風が弱気になっていると、後方から紅茶の弾丸が飛んでくる。彼の背後に立っていた早織が、狙撃銃で俊樹を狙ったのだ。

 俊樹はその不意打ちにも反応し、最小限横に移動して回避した。


「やはり、わたくしの弾丸も当たりませんわね……」

「俺も狩人でしたから。その立場が変わっただけです」


 俊樹は早風の拳を何度も躱しながら、軽口を叩いている。


わたくしの弾丸が当たらずとも、撃ち続けるだけですわ!」


 早織は狙撃銃の上部にある蓋を外し、中に紅茶を入れる。この行動は、実銃でいう弾丸の装填にあたるものだ。

 補給し終えた早織は、紅茶の弾丸を連続で放ち始める。

 俊樹が弾丸を回避し、その先を読んで早風が拳を突き出す。だが俊樹はそれを見越した上で躱しており、早風の拳は紙一重のところで当たらない。


「さて……」


 そう呟いた俊樹は、左手に持ったナイフで早風の肩を狙う。

 早風はその攻撃を後ろに倒しながら回避し、そのまま回し蹴りを繰り出す。俊樹の左手を狙い、ナイフを落とさせようとした。


「甘いですね」


 俊樹は左手に持ったナイフを離し、迫り来る早風の片足を受け止める。そのまま俊樹は足払いし、もう片方の足も浮かせて横に倒した。

 そのまま早風の腹を踏みつけようとするが、早風はそれよりも速く後ろに転がり、体を跳ねらせて両足を床に立たせようとする。


「そうするしかないですよね」


 だが早風が宙に浮いたタイミングで、俊樹は床に落としたナイフを左足で蹴り飛ばす。そのナイフは、早風の方へ真っ直ぐ飛んでいく。


「うぐッ!」


 ナイフは早風が着地すると同時に、彼の右足に刺さる。それによって、ほんの僅か体が硬直する早風。

 俊樹はそれを、見逃さなかった。


「――悪く思わないでください」


 俊樹は右手を前に向け、宙を軽く握る。


「がぁ!! ぁぁ……!!」


 刹那――早風の体が何かによって圧迫され、内蔵が潰されて血を大量に吐いた。

 俊樹が右手を開くと、早風は何かに解放されたかのように、体をゆっくりと前に倒した。


 俊樹の能力――【アエウイ】

 目に見えない物体を生成し、それを自在に操るというもの。

 まさに初見殺しの能力で、相手が能力を把握していなければ瞬殺できてしまう、とんでもない能力だ。仮に能力を把握できていても、目に見えないものを完璧に捉え続けるのは不可能。何より、自分で物体を生成できる上に、それを私用した遠距離攻撃ができるため、念力よりも遥かに厄介だ。

 早風は見えない『巨大な手』に掴まれ、死なない程度に握り潰されたのである。

 余談だが、能力名【アエウイ】は俊樹の妹が幼い頃に名付けたもの。

 正式名称は、【アンシクト】である。



「――()()()の弟に何してくれてんだ、てめぇ!!」


 傷ついた早風に、早織は激昂しながら走り出す。

 狙撃銃を剣に変形させ、俊樹へ斬りつけようとする。しかし、振り下ろす前に手首を掴まれ、動けなくなる。


「相変わらずのキレっぷりですね。安心しました」


 そう言うと、俊樹は早織の腹を強く蹴り、遠くへ吹き飛ばした。

 飛ばされた彼女の体は壁に激突する。


「がはッ!!」


 普段の早織から放たれるとは思えない、汚い悲鳴を上げた後、意識を失った。


「……強すぎるね、〔ファーブロス〕」

「ったりめぇだ……〔ブラオ〕が唯一勧誘して入れた男だぞ…………その〔ブラオ〕はあいつ以上に強いが……」


 俊樹の後ろで、彼の戦闘を見ていた丈留と雅彦が呟いた。

 雅彦の応急処置は、既に完了している。


「……早風さんたちは、物陰にいるプロデューサーがなんとかしてくれるだろう」


 俊樹は振り返り、床に置いた大鎌を拾う。


「さて、俺たちは結生のプロデューサーを――」

「〔ファーブロス〕! 危ない!」


 丈留が声を上げると同時に、銃声がスタジオに響く。

 何者かが放った弾丸は、俊樹の後頭部へ飛んでいく。完璧な不意打ちだが、彼はそれを見ず、体を横へスライドさせて回避した。

 その後、俊樹は後ろを向き、弾丸を放った人物を目視する。


「…………まさか、こっちの現場へ応援にくるとは」


 その人物は――湊零であった。



「僕の仲間を傷つけたんだ……タダで帰すわけにはいかないよ」



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