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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第二章 その偽善者は歩み続ける。聖者の行進を。
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第十六話 避けられぬ戦い

「てめぇも死んどけ!!」


 雅彦が怒りに身を任せて、鎖分銅を早風に向けて振り下ろした。

 早風は横に躱しながら、回し蹴りを雅彦の横顔に当てようとする。


「!?」


 カウンターに近い回し蹴りであったが、雅彦は身を屈めて回避。そのまま早風の腹を蹴る。


「うぐッ!」


 片足立ちの体勢で蹴られた早風は後方に転がるも、すぐに体を跳ねさせて体勢を戻す。


「……〔オランジェ〕が戦ってるなら、あいつも殺した方がいいんだね」


 雅彦の背後にいた丈留は拳銃の弾倉を入れ替えた後、早風に向けて引き金を引いた。

 放たれた弾丸は、早風の足元に向かって飛んでいく。彼はそれを見切り、必要最低限の横移動で回避したが――。


「【ゲーグル】――《エクスプロ―ジョン》」

「!?」


 躱されて地面に埋もれた弾丸が、丈留の言葉と同時に爆発を起こす。

 早風は爆発に合わせ、超反応で横に体を投げるも、無傷では済まなかった。


 丈留の能力――【ゲーグル】は、拳銃から放たれた弾丸を自在に操る能力。

 弾道を自分の思うように動かせるのはもちろん、今やって見せたように爆弾に変えることもできるのだ。


「がはッ……!」


 爆発の衝撃で内蔵が傷つき、早風は血を吐く。


「くたばりやがれ!!」


 その隙に雅彦が鎖分銅を横に振る。

 早風は身を低くして攻撃を躱し、そのまま風の如く雅彦の懐に入った。


「甘いんだよ!!」


 雅彦は手を引くと同時に、膝蹴りを入れようとする。早風はそれを横に躱しながら、彼の腹に拳を当てようとしたが――


「――がッ!!」


 早風の後頭部に、鈍い衝撃が走る。

 雅彦が引いた手は、鎖分銅を持つ手。引いたことで分銅が戻り、早風の頭に当たったのだ。


「言っただろ、甘いってな!!」


 雅彦は今度こそ膝蹴りを、早風に腹に入れる。


「うばッ!!」


 それを直に受けた早風は、吐血する。

 雅彦は続けざまに、分銅を握った拳で早風の顔を殴りかかるが、早風は素早いバックステップで回避する。


「…………」


(彼……結構強い……下手なトラオム幹部よりは断然……!)



「――わたくしの愛しい早風が、思いの他苦戦してますわね……」


 少し離れた場所で、早風の戦闘を見ていた早織。

 彼女はティーカップにペットボトル飲料の安い紅茶を淹れていた。

 この状況で呑気に紅茶を飲むようにしか見えない素振りをしていたが――




「――【ティーゼート】」




 突如――彼女が手にしていたティーカップが変形。狙撃銃へと姿を変え、それを構えた。


「痛めつけられてる弟を前にして、黙っている姉ではありませんわ!」


 彼女は銃の引き金を引き、雅彦の頭へ紅茶の弾丸を放った。


「あぶな!?」


 雅彦は紙一重でそれを躱した。

 その一瞬の隙に早風は、床に転がっているトラオムの部下だったものからナイフを奪い、雅彦の腹に突き刺した。


「ぐッ! やってくれたな!!」


 雅彦は痛みに構わず、早風の腹に蹴りを入れる。

 早風はそれを敢えて受けるようにして後ろに後退した。


「……あのアイドル、《アインスター》だったんだ」


 丈留が早織の方を見ながら、そう呟いた。


 早風が強い故に本人の出番は少ないが、彼女も戦闘できる《アインスター》だ。

 【ティーゼート】は、紅茶の入った容器を武器に変形できる能力。武器を動かす原料も紅茶だ。ペットボトルの方を武器に変えれば早いとツッコミが入るところだが、変形した武器の色合いは容器が元になるため、ティーカップの方が綺麗で見栄えがいい――という理由で彼女はカップを愛用している。そのため、正論を言うとブチ切れるので注意。


「厄介だな……あっちを抑えてくる」


 丈留は早織の方へ駆け出す。


「姉さん! ――ちっ!」


 早織の元へ行こうとする早風だが、それを雅彦が鎖分銅の攻撃で妨害する。


「お前の相手は俺だが……〔ハオト〕! 間違っても殺すなよ!!」

「――わかってる」


 丈留は返事をしながら、拳銃から弾丸を二発放った。


「あらあら、可愛いですわね。昔の早風を思い出しますわ」


 早織は軽口を叩きながら、弾丸を回避する。

 だが弾丸は壁に当たる前に旋回し、早織の背後に向かって飛び始めた。


「――ここですわね」


 それを読んでいた早織は振り返ることなく、直感で回避してみせた。


「!?」


 躱されると思ってなかった丈留は驚き、自分の足元に返ってきた弾丸を慌てて横に避ける。

 回避したことで丈留の足が止まり、それを見逃さなかった早織は彼の足を狙って紅茶の弾丸を撃つ。


「ちッ!」


 丈留は何とか回避を試みるも、弾丸が足を掠り、皮膚が抉れてしまう。


「今ので直撃しないとは、やりますわね」

「こいつ……何か、腹立ってきた」

「あらあら、わたくしのようなレディに、『こいつ』なんて呼んではいけませんわ。モテませんわよ」

「…………二度と軽口叩けないようにしてやる!」


 早織の挑発に乗った丈留が、再び早織に突進する。




「ちょこまか動くんじゃねぇ!!」


 一方、早風は雅彦の攻撃を躱し続けながら、攻撃のタイミングを測っていた。


(彼、扱いにくい鎖分銅を器用に動かしている…………なら――)


 早風は敢えて、その場で立ち止まってみせた。


「そこだ!!」


 彼を完璧に捉えたと確信を得た雅彦は、分銅を彼へ投げ飛ばす。

 その軌道は、最短距離で届く直線だ。


「今……!」


 早風はなんと、分銅に向かって走り出した。そして速度を落とさずに、分銅を手に取る。掴んだ衝撃が手から腕全体に伝わるが、早風はそれに構わず走り続ける。


「その手には乗らねぇよ!」


 雅彦は鎖を手前に引き、早風の体勢を崩そうとする。それを回避するために、彼が分銅から手を離すと雅彦は考えていたが――


「そう来るのは……少し前からわかってた」


 鎖を引くのに合わせて、早風は地面を蹴り、体を宙に浮かせる。

 雅彦が鎖を引いて分銅を引き剥がそうとする癖は、結生プロデューサーから守った際に見切っていたのだ。


「マジかよ……!」


 雅彦は為す術なく、早風の跳び蹴りを腹に喰らう。

 蹴りを入れた場所には、ナイフが刺さったままだ。


「ぐあッ!!」


 蹴りの衝撃で雅彦は後ろへ吹き飛び、壁に衝突する。


「ぼはぁ……!!」


 ナイフもより深く刺さったことで、彼は大量の血を吐く。


「〔オランジェ〕!?」

「よそ見は厳禁ですわよ!」


 雅彦の身を案じる丈留。その隙を容赦無く、早織が狙い撃つ。

 紅茶の弾丸は、間違いなく丈留の体に当たるタイミングで放たれた。


「あら……?」


 しかし、弾丸は何もない空間に弾かれた。

 まるで、見えない壁が出来たかのように。




「――櫨染の二人を相手に、そこまで戦えれば上出来だ」



「えっ…………!?」


 男の声を聞いた瞬間、早風の顔色が変わる。その声に、聞き覚えがあったからだ。

 すると、ヘアクラーズの二人が入って来た入り口から、仮面よりも背負った大鎌の方が目立つ青年が入ってくる。

 笑顔と無表情――二つの顔が描かれた仮面を被った、白髪の青年――俊樹としき

 翔一が三人と見間違えそうになったのは、決して勘違いではなかったのだ。


「ごめん、〔ファーブロス〕!」


 丈留は跳躍するように早織から距離を置き、俊樹と合流する。


「気にするな。初陣で()()()()と戦えたのなら、良い経験になっただろう。そして〔オランジェ〕……お前もよく、()()()()相手にダメージを与えたものだ。正直、タコ殴りにされると思っていた」

「クソ……皮肉にしか聞こえないぞ……〔ファーブロス〕!」

「本心で褒めている。あの二人は、事務所内でもかなり強かったからな……」


「嘘……だよね……どうして…………!?」


 俊樹の姿を見た瞬間、何かを確信した早風の体が震え始める。


「……これは、どういう運命のいたずらなのかしら?」


 早織も俊樹の姿を見て、早風と同じものを覚える。


「どうして……どうして……!?」


 早風は、仮面で顔を隠している俊樹の正体をわかっていた。




「ここに、君がいるの……!? 藍白あいじろ俊樹としきくん……!?」




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