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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第二章 その偽善者は歩み続ける。聖者の行進を。
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第九話 人は見かけによらないもの――とは言うが……

「そういや二人とも、今日は二人にとって初の給料日だ。明細の確認方法はわかるな?」


 社長の拓真は、その場にいた流れで涼香と和人に訊ねる。


「え、マジ!?」


 それを知らなかった涼香はスマホを取り出し、給料を確認する。


「……約三十万…………なんか色々引かれているとは言え、安くないか?」

「今までロクに働いたことのない奴が文句言うな」


 給料に不満を零す涼香に、和人がツッコむ。

 彼女の発言に、拓真は咳払いをした後にこう説明する。


「私の会社は、必要最低限生活できるよう固定給料に歩合も加えている。新人の初給料なら高い方だ。むしろ、まだグッズ販売などがない中でその給料なら、かなり上出来と言えるだろう……まぁ、今月はこのままだと来月の給料が大きく下がるが」

「私に仕事を!! 仕事をください!!」

「俺に寄生してた奴の発言じゃねぇ……成長してやがる!?」

「涼香の営業スタイルを考えると、与えられる案件が絞られちまう……ちなみに、今のところテレビ出演の案件は来ないものだと思ってくれ」

「そ、そんな……茶の間を凍らせるのが、私の夢だったのに…………!」

「だからだろうよ」

「だがそう悲観するな。二人の社宅を確保できたぞ。そこでなら自由に配信活動をしていい。その配信で得たスパチャはそのまま自分で受け取っていいぞ」

「おっし! 私の腕がなるぜ~!」


 気持ちが高揚した涼香は、シャドーボクシングを始める。


(何故にシャドーボクシング?)


 そう思いながら、和人は自身の給料を確認する。

 様々な税金によって引かれているが、手取りは約四十万だった。


「ブラック企業時代の三倍は上がってる……」

「それで良く生活できたな……お前ら……まぁ、安いと文句を言われるよりはマシか」


 和人が異常なだけで、普通の人は安いと感じるだろう。

 治安の悪い世間の中、昨今だと警察以上に命のやり取りを行う芸能関係者の護衛職。

 常に気を張ってアイドルを守る彼らは、いつ自身がアイドルのために身を挺して死ぬか、わかったものではない。精神的にもキツい仕事で、月給四十万は安すぎると思う護衛が多いのが、事実である。


「護衛の中でランク付けされているのは知っているな? それも多少インセンティブに影響を与えるが、和人はまだ入ったばかりだから、今回はそれも反映されていない。来月はもう少し上がっていると思うから、期待してくれ」

「は、はい…………ん?」


 和人は明細を見ていく中で、気になる項目が。


「戦闘、手当……?」

「文字通り、護衛にあたって殺意のある一般人や【トラオム・ワーレン】などの犯罪組織と遭遇した際に付く手当だ。正直な気持ちで答えて欲しいが…………その手当、安いだろ?」

「そう、ですね……」


 和人が戦闘手当で貰えた額は、一万円。

 危険人物に遭遇した回数に比例して一万ずつ上がるのだが、命のやり取りを行った証にもなる手当にしては、あまりにも安く感じるだろう。


「悪く思わないでくれ。どの事務所も同じくらいの設定にしている。理由は単純、その手当を目当てに、こっちから危険人物に戦いを挑む馬鹿を出さないためだ。護衛はあくまでもアイドル達を守るために存在している。賞金稼ぎみたいな動きをされたら、返ってアイドルの身が危なくなるからな……とはいえ、何も特別な報酬がないと、護衛のモチベーション低下に繋がる。申し訳程度の手当が出るようにしてるぞ」

「そうなんですね。わかりました」


(とりあえず、来月は一万の戦闘手当が確定してるわけだな)


「それから、さっきも少し話したが、社宅が決まっている。引っ越しのタイミングは任せるが、今月中には頼む。社宅となるマンションの管理人が私の知り合いだ……何かあったら怒られるのは私だからな」


 拓真は社宅について詳細にまとめられた資料を、和人に渡した。


「承知しました」

「さて、私は他の支部に顔を出してくる……会長が見回ってる可能性が高いからな……」


 拓真はそう言って、事務所を後にする。

 それとほぼ同時に、蓮次郎が和人たちの元に現れる。


「お待たせしました! 記者の方が来たので、移動しますよ!」


 今日は雑誌の記事に書くインタビューを受ける日であった。


「うぃー……あっ、そうそう! 蓮次郎の給料ってどんなもんだった?」


 すると、涼香が直球で聞いてきた。


「…………行きましょう」


(……言えないくらい、低かったのか…………)



   ※



 翌日。

 仕事もレッスンも入ってなかった涼香は、和人と共に社宅の内見に来ていた。


「普通のマンションか……」

「そりゃそうだろ。変に目立つ建物だったら、狙ってくださいって言ってるもんだぜ」


 二人は社宅となるマンションの外見を眺めていた。


「さて、まずは管理人に挨拶しないとな……」


(拓真さんの知り合いっていうくらいだから、貫禄がありそうだな……)


 マンションの周囲を回って入り口を探したところ、その付近で掃除をしている一人の少女がいた。

 桃色の髪をした、小学生くらいにしか見えない少女だ。


(もしかしたら、管理人の娘さんかも?)


 和人たちは少女に近づこうと歩みだしたところ、少女が彼らの存在に気づき、目を合わせる。


「んぅ…………?」


 少女は、異物を見るような目で和人を見つめる。


「おい和人、私の知らない間に幼女に手を出す趣味でもあったか?」

「んなわけねぇだろ! というか、大体の時間お前と一緒にいるから、そんな暇ねぇっての!」


「――あぁ! 大変失礼しました!」


 二人の会話を聞いた少女が、我に返ったように慌てて駆け寄ってくる。


「和人さんと涼香さんで合ってますか?」

「は、はい。今月からこのマンションに住む赤沼和人とこっちが茜宮涼香です」

「お待ちしておりました! 私は飛山ひやまかえでと申します! このマンションの管理人です!」

「…………え?」


 見た目が小学生の少女――楓は自分が管理人であることを口にする。

 その真実を、和人と涼香はすぐに受け入れる事ができなかった。


「ガキらしい嘘だな。ママかパパを呼んでくれ」

「ガキとは失礼な! 私は立派な大人です! 親が他界しているくらいには生きてます!」

「この馬鹿が失礼しました! ……ちなみに、拓真さんとお知り合いという話を、本人から聞きましたが……?」

「そうですね! 拓真くんとは、昔ともに戦った戦友です!」


(せ、戦友!? しかも『くん』呼び!? もしかして、この見た目で拓真さんより年上、なのか!?)


「さっきは私も失礼しました。和人さんが、私の弟に似ていたものでして……ここで立ち話も何ですし、中へ案内しますよ!」


 楓は二人を連れ、マンションの中へ入っていく。

 二人の部屋は四階にあり、中にあるエレベーターを使って上に上がる。


「そういえば、拓真くんから聞きましたが、和人さんは三咲様の養子だとお伺いしましたが、本当ですか?」


 その最中、楓が和人に質問を投げた。


「えっ!? あー、はい。本当です」


(三咲、様……!?)


「私、昔は御島家の使用人として働いていたので、三咲様とも関係は深いです。これも何かの縁です。何か困った事がありましたら、遠慮無く相談してください! 三咲様は私の恩人ですし、瑛土様にもお世話になりましたから」

「は、はい……その時は、お願いします……」


(そういえば三咲さん、アイドルのイメージが強いが、御島財閥の娘だったな……その使用人が、今はマンションの管理人をしているのか……)


 そうしている内に、四階に到着し三人は降りる。


「すぐ正面の四〇一号室が()()()。四〇二号室が涼香さんの部屋です!」


(身元が確定した瞬間、呼び方を改めるな)


「部屋の中ってタバコ吸える?」

「一応吸ってもいいようにしてありますが……万が一別の場所へ引っ越す際に黄ばんだ状態でしたら、清掃代を請求しますよ」

「要するに問題ないってことだな! このマンション最高!!」


 すると涼香は、廊下でタバコを吸い出そうとする。


「共用スペースはダメです!」

「チッ!」

「そんな露骨に舌打ちします!? 和人様の担当アイドルじゃなかったら、ぶん殴ってましたよ!?」

「おっ? やってみろよ? こっちには擁護してくれるファンが付いてるんだぞー。私がその気になれば、あんたを無職に堕とすことも出来るんだぞー」


(そのファン……殴られた事実知っても、『自業自得』と言って流しそう……)


 涼香が楓を挑発していると、近くの四〇三号室から人が出てくる。

 その人物は、和人達が良く知る人物だった。


「あれ!? 涼香先輩と、和人くん!?」

「花子!? もしかして、ここに住んでるのか!?」


 部屋から出てきたのは、瑠璃川花子。彼女も社宅として、このマンションに住んでいる。

 玄関前がやたら騒がしかったので、気になった花子が部屋から出てきたのだった。


「お二方、花子さんの知り合いだったんですね」

「高校時代の、同級生です」

「よろしく花子! タバコ吸うから、ベランダに洗濯物干さない方がいいぞ」

「部屋干し派なので大丈夫ですよ!」


 涼香と花子は謎にハイタッチをする。


「――こちらが鍵です。入居扱いになっているので、後は自由に見て帰って大丈夫ですよ」

「わかりました! ありがとうございます!」


 和人は二部屋分の鍵を受け取り、早速扉を開けて中を確認していく。

 花子も便乗して、二人が住むそれぞれの部屋を見ることにしたのであった。


「さて、私は掃除の続きをしますか」


 その様子を確認した楓は、エレベーターを使って一階に戻ろうとする。

 途中、三階で止まったエレベーターに、一人の青年が乗ってきた。


「こんにちは、楓さん」

「こんにちは! 今から仕事ですか? ()()さん!」

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