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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第二章 その偽善者は歩み続ける。聖者の行進を。
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第七話 この結果は必然か? 偶然か?

先輩(スコルピウス)の仇討ちだ! 大人しく死んでくれ――!!」

「!?」


 紫髪の少年と対峙した和人。

 少年は手にしていたクナイを和人へ向けて投げる。和人はそれを横に避けた。


(考える暇はねぇみてぇだ。このままツッコむ!)


 突然始まった戦闘に、和人は考えるよりも先に体を動かす。

 和人は少年の懐に入り、腹を殴ろうとする。


「おっと! 噂通り速いみたいだ!!」


 少年は横に跳びながら、もう片方のクナイを飛ばす。

 和人はそれを避け、少年の背後に回り込む。


「させるか!」


 少年は()()()()()()()()()()()()クナイを取り出し、振り返りながら和人の体に刺そうとする。


「【エンビース】!」


 和人は攻撃を屈んでかわした後、紫の炎を纏った右拳を少年の腹に叩き込む。


「うッ!!」


 少年の体が後方に飛ぶと同時に、炎が腹部に纏わり付く。


「本当に……厄介そうだ……!!」


 体勢を整えた少年は、懐に備えていたペットボトルを取り出し、水を腹部にかけた。

 スムーズな処置を施したことから、和人の能力を事前に把握して挑んだことが分かる。


「……もう敵に知られてんのか」

「先輩が死んだときの情報から、あんたの能力はバレてるよ」

「先輩って、ダンボール使って戦ってた奴のことか?」

「そうだ!!」


 少年はクナイの先を和人に向け、怒りを露わにする。


「俺は【トラオム・ワーレン】第八幹部補佐――『アンタレス』! 憧れの先輩を殺されて黙っていられるほどの男じゃない!!」


 少年(アンタレス)は両手に持ったクナイを交互に投げながら、横に移動する。


「悪の組織にも、一定の絆はあるみたいだな」


(この攻撃、妙に単調だな……)


 和人も横に移動し、クナイをかわす。


「あんたからすれば、俺らが悪に見えるだろうね!!」


 少年は上着のポケットからドスを取り出し、和人の正面から責めようと走り出した。

 和人は敢えて立ち止まり、少年がドスを振り下ろすのを待つ。


「はぁ!!」


 少年がドスを振り下ろすも、和人には当たらない。彼は攻撃をかわしながら、少年の背後を取った。


「エンビ――」

「【アブスピエレン】!!」


 和人が拳を突き出す前に、少年が能力名を口に出す。当然のように、彼も《アインスター》だ。

 しかし、少年の様子に変化が見られない。

 和人は拳をぶつけるのが最善と考え、そのまま攻撃を仕掛ける。


「――うぐッ!」


(何だ!? クナイが……横から……!?)


 しかし、拳が届く寸のところで、横から飛んできたクナイが拳に突き刺さった。


「なっ!?」


 その方角を確認すると、目の前にいるはずの少年が距離を置いた横の場所に立っていた。

 横にいる少年は、横に移動しながらもう片方のクナイを投げる。和人は後ろに一歩引き、クナイをかわした。


「【エンビース】――《スラッシュ・ディストピア》!」


 そのまま炎の剣を生成し、横にいる少年に向けて振り下ろそうとする。


「――何よそ見してるんだ?」

「!?」


 しかし、今度は目の前にいた少年が振り返り、ドスを振り下ろしてきた。


(クソッ! どうなってやがる!!)


 和人は炎の剣でドスの刃を受け止めた。技で生成された紫の炎は、物体を燃やすことはないが干渉はできる。実際に斬ること自体はできないが、物を受け止めることはできるのだ。


「お返しだ!」


 和人は空いている左手で、右手に刺さったクナイを抜き、目の前にいる少年へ投げ飛ばす。


「そうするよねぇ!!」


 だがその動きを見ていた少年は、飛んでくるクナイを掴み取る。

 クナイの持ち手を掴み取ったことで、自身へのダメージはない。

 職人技を見せた少年は、ドスで剣の刃を流しながら和人の懐へ入り、掴み取ったクナイで彼の左脇に突き刺した。


「チィ!!」


 深く刺さる前に和人は少年の腹に蹴りを入れ、強引に距離を置く。


「あれ? 思ってたより弱い? こんな奴に先輩は殺されたの?」


 少年は和人を挑発するように、嘲笑を浮かべる。


「その言葉、呑むなよ……その弱い奴に、お前も殺されるかも知れねぇからな……」


 和人は左脇に刺さったクナイを抜き、地面に落とす。

 正面にいる少年に意識を向けつつ、横目で周囲を確認する。クナイを投げ飛ばしてきた方の、少年の姿が嘘のように消えていた。


(奴の能力……恐らくだが、直前に取った行動を立体映像のように再生する能力。その能力に攻撃した行動を再生させながら、実体は別行動ができる……一人でありながらペアの連携が取れる、厄介な能力だな……)


「あんたも、その強気な態度がどこまで持つか、見物だ!」


 少年は()()()()からクナイを一本取り出し、和人へ向けて投げ飛ばす。それを追いかけるように、少年も和人の横に回り込むように駆けだした。

 和人は身を横にずらしてクナイをかわし、向かってくる少年に炎の剣を振り下ろす。


「【アブスピエレン】!」


 少年は攻撃をかわし、懐に入ってドスを突き立ててくる。

 その間に、クナイを投げた位置に残影が現れ、再びクナイを投げ飛ばしてきた。


「二度も通じるかよ!!」


 和人はドスの攻撃を素早く剣で防ぎ、顔に迫ってくるクナイを最小限の動きでかわす。そして、空いている左拳を目の前にいる少年に叩き込もうとする。


「――《メタスタシ》」


 少年が呟くと、和人の目の前から消滅した。


「まさか――!?」


 和人は視線を前に戻す。

 前方――少年がクナイを投げた位置に実体が戻っており、上着の裏から素早く新しいクナイを取り出して、投げ飛ばす。


「ほらほら!!」


 間髪入れずに少年は能力を使い、残影を和人の懐に出現させ、ドスを突き立てようとした。


「――そういうことかよ」


 あることに気づいた和人は、ドスの攻撃を敢えて脇腹で受け止める。


「うッ――だが――」


 クナイもスッと頭を傾けてかわし、和人はドスを握った『残影』の少年の手首を強く掴む。


「捉えたぞ!!」

「なっ!?」


 和人が掴んだのは残影のはずだが、彼の行動によって実体が残影の方に戻された。


「能力で飛んでくるクナイが俺に刺さるなら、能力で出現したお前も触れるよなぁ!!」

「くそ! 放せ!!」


 少年はもう片方の手で、上着の裏にあるクナイを取り出そうとする。和人は炎の剣を消滅させた右手で、少年の手首を掴んで阻止した。


「そしてその動きも見逃してねぇぞ。最初、お前は()()()からクナイを取り出していたが、後は全部()()()()からだ。服の袖から出したクナイは能力によるものだが、お前はそれを手に取って自在に操っていた……能力で生み出されたものは、少し経てば消えるのにな」


 和人の言うように、直前に投げたクナイは、何処にも転がっていなかった。


「そして俺に刺さったクナイは消えることなく地面に転がっている……つまり、お前の能力は残影として直前の行動を再生する能力なんだろうが……再生の妨げになるような衝突が起きれば、残影に実体が戻る…………お前がさっきしたようにな」


(あくまで俺の直感だったから、上手くいくとは思わなかったが)


「この――!!」

「【エンビース】」


 抵抗しようとする少年に、和人は両手から紫の炎を生み出す。


「がぁぁ!!」


 その炎は少年の体を一気に包み込む。


「熱い!! やめろぉ!! やめろってぇ!!」


 少年は味わったことの無い暑さと、無数の針に刺されるような痛みに体を震わせながらも、和人から離れようと彼の腹に膝蹴りを入れる。


「…………」


 その膝蹴りは重かったが、和人は動じない。

 ここで少年を放してしまったら、能力で逃げられる可能性が高かったからだ。


「がぁ……ぁ――――」


 耐えきれなくなった少年の体から力が抜け、膝を地面に落とす。

 それを確認した和人は炎を解き、両手を放した。


「――――」


 少年は白目を向いた状態で、うつ伏せに倒れる。

 まだ脈は打っているが、彼の魂はもう消滅していた。


「終わったか……しかし――」


 和人はドスを脇腹に刺したまま、涼香達の元へ戻りはじめる。


「想像以上に強かった…………あのダンボール野郎に勝てたのは、翔一さんのおかげ……だな」








「…………俺が出る幕はなかったか」


 和人と少年の戦闘を、物陰で最初から見ていた人物がいた。

 白髪の青年――俊樹だ。


「和人様……正直、俺が思っていたよりは強くないみたいだが、咄嗟の機転が利くようには見えた…………どれだけ力の差があっても、僅かな相手の隙間を突ける人間が、最後に勝つ。それを実現できる和人様は、この先も生き残れるだろう……」


 そう呟いた俊樹は、何事も無かったかのようにアジトへ戻っていく。

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