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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第二章 その偽善者は歩み続ける。聖者の行進を。
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第四話 青の原動力

「――そこにいる、不届き者を排除してからな」


「!?」


 電柱裏に身を潜めていた和人だが、それを大鎌の青年――俊樹に見破られてしまった。


「気配の消し方はかなり上手いが……今回は相手が悪い。大人しく出てこい」

「…………」


(今、あいつと戦っても意味はない……)


 和人は両手を上げ、ゆっくりと電柱から姿を現す。


「!?」


 和人の姿を見た俊樹が驚いた表情を浮かべる。


(どういう反応だ? 俺の何に驚く要素がある?)


「お前は確か…………赤沼、和人か」


 俊樹は初対面のはずである、和人のフルネームを口にした。

 その発音は、妙にぎこちなかった。


「俺を知ってるのか?」

「あぁ、アイドル護衛の新人でありながら、トラオムの幹部を討伐したという情報が入ってきている」


(討伐っていうな討伐って。幹部は獲物じゃねぇぞ)


「……そこで俺から提案がある」

「?」


 俊樹は大鎌を降ろし、和人へ提案を述べる。




「――――我々の、仲間にならないか?」




「……盗み聞きしてた初対面の相手を、良く勧誘できるな」

「我が主は、あなたの活躍を見て興味が湧き、仲間に入れたがっている。我々ヘアクラーズに上下関係はないが、仲間になれば主と同じ扱いを受けると、わた――俺が保証しよう」

「…………」


(……胡散臭すぎる。たかが幹部を一人殺しただけの護衛新人を、ヘアクラーズのボスが欲しがるものか? なんか、話し方も妙にぎこちないし…………奴は何を隠してるんだ?)


「……ボスに会ってから決めるってのはありか?」

「それはできない。ボスの素性をバラされるリスクがあるからな」

「これから連れて行く彼女はいいのか?」

「俺は彼女を信頼している。我が主に救われたのなら、能力を見ているはず。それに関して、口を割らなかったからな」


(確かに……青髪の青年って、探せば案外、沢山いそうだしな)


「…………」


 俊樹が腕時計を確認すると、


「これ以上は長居できない……また会うときに、決断を聞こう」

「まるで、また会えるような言い方だな」

「あなたがアイドルの護衛を続ける以上、その因果で会える。…………その時には、敵ではなく味方であることを望んでおります……()()()


 そう言い残すと、俊樹は希美を横抱きにし、尋常じゃない高さを跳躍して移動する。

 横抱きにされた希美は、どこか嬉しそうな黄色い悲鳴を上げていく。


「…………あの男、マジで理解できねぇ」


 和人は頭を抱えながら、事務所へ戻り始める。


(ただ一つだけ……一応、敵ではないみたいだな…………)



   ※



「驚いたぞ……あのヘアクラーズのボスが、こんな若造とは……!」


 とある会社の社長室。

 その場所には、会社の社長本人と聖也の姿が。

 聖也は全身血まみれだが、自身に付いた傷は手の平だけ。その血は、彼の後ろに転がっている四人の護衛だったものの血液だ。

 そして聖也の正面にいる社長は、椅子に拘束されていた。


「新しい時代を作るのは若者だ…………そんなことを口にする世代が、何を驚く?」


 聖也は懐からタバコを取り出し、ターボライターで火を点けて吸い始める。


「ハイライト・レギュラーに、ターボ式のジッポ…………素人の装備じゃねぇな。親の影響でも――ぐぁ!!」


 聖也はズボンのポケットから取り出したバタフライナイフで、社長の太ももを刺す。


「この状況で良く世間話ができるもんだ……」

「くぅ…………恐怖がないわけではない。それ以上に、君を称賛しているだけだ……」

「売れないアイドルを半グレに渡してるクズに、称賛されても嬉しいわけないだろ」


 聖也はナイフを引いた後、近くに倒れていた椅子を立て直し、社長の正面で座る。


「質問に答えろ。()()の隠れ家を教えろ」

「なるほど……! 会長の首を狙ってる噂は本当みたいだ――ぐぁあ!!」


 聖也は能力で自身の手から流れる血液を飛ばし、社長の片目を潰す。


「回答以外の言葉は求めていない。知っているのか?」

「はぁ……はぁ……わかるはずないだろ。会長の愛人ですら把握してないんだぞ!!」

「なるほど。愛人を狙う必要がなくなったな。では……次の集会日時は?」

「会長は君たち以外からも、命を狙われている身だ……待ち伏せされないよう、集会は当日の朝に通達される」

「当日の朝……それで良く、遊ぶためのアイドルを集められるもんだ」

「仕事に困ってる落ちこぼれのアイドルなんざ、いくらでもいる……甘い言葉で誘えば、怪しい仕事とわかっていてもついて――――がぁ!!」


 社長の言葉に腹を立てた聖也は、血液の弾丸で社長の睾丸を撃ち抜いた。


「ぐぁ!! あぁ!!」

「もう必要ないだろ、騒ぐな」


 聖也はタバコを、血だまりに投げ捨てて消火する。


「ぁぁ……あぁ、わかったぞ……お前の正体……!!」

「何を今更? ヘアクラーズのボスだと言ったのは、あんたが先だろ」

「そうじゃない……お前の苗字……さては、『青住』だろ!」

「…………」

「過去に会長を殺そうとして、返り討ちにあった男も青髪だった。お前は、奴の――」


 社長が最後まで言い終える前に、聖也は衝動的に血液で剣を作り、社長の首を跳ねた。


「…………………」


 聖也は無言でこの場を去って行く。








「今回も、収穫はほぼゼロに近いな……まぁ、今回はオレのミスもあるが……」


 アジトのシャワーを浴び終えた聖也は、帰路を歩いていた。

 すると、スマホに着信が入る。


「――オレだ」

『我が主、麦野希美の保護が完了致しました』

「だからアジトにいなかったのか……ありがとう。彼女はセーフハウスに?」

『はい。思いのほか、あっさりと受け入れてくださりました。それともう一つ……』

「どうした?」

『……和人様に、会いました』

「!?」


 聖也は思わず足を止める。


「……本当か?」

『私が主に嘘を吐いたことがありますか?』

「カモガール事務所襲撃の日程」


『…………』

「…………」


『……それはさておき、彼に勧誘をかけてみたのですが……ボスの素性を知ってから決めたいとのことでした』

「なるほど、薄々気づいているか…………流石に」

『いかがなさいますか? 和人様に主の正体を明かせば、間違いなくこちら側につくかと』

「いや、あいつは止めてくる。何なら、オレをヘアクラーズから抜けさせてくる」


 聖也は、歩みを再開させた。


『と、仰いますと?』

「オレの行動が、危険なものであることを和人も理解できるはず。身内に優しいあいつは、ヘアクラーズの活動を止めに行くだろう。オレはまだ止まれない。()()に手が届かずとも……()()()だけは――!!」


 マンションの入り口に差し掛かったところで、二人の人物が待機していることに気づく。


「……俊樹、折り返す」

『かしこまりました』


 聖也は一度電話を切り、二人の人物に近づく。


「あっ! やっと来た!!」


 その人物は、三咲と瑛土。

 聖也の、育ての親である。

 二人は受理していた依頼を素早く終わらせ、聖也に会うためにマンション前で待機していたのだ。


「三咲さん! 瑛土さん! 来るなら連絡くださいよ」


 聖也は優しい声色に戻る。育ての親であるにも関わらず、律儀な彼は敬語で話した。


「したよ~! でも聖也くん、既読も付けてくれないじゃん」

「えっ、そんなことは……あっ」


 ここで聖也はミスをしてしまう。

 自身が所持しているスマホは、ヘアクラーズ専用のスマホ。

 和人たちと繋がるためのスマホは家に置きっ放しにしており、ここしばらく触っていなかったため、三咲からの連絡に気づかなかったのだ。


「す、すみません……私用のスマホが壊れてしまって…………」

「…………」

「…………」

「って、そんな嘘が通じる相手じゃ……なかったですね……」


 聖也がどうしたものか考えていると、瑛土が口を開く。


「聖也、お前がしていることに関して、俺らが干渉することはない。聖也の行動が正義だとも、悪だとも問いかけることもない」


(やっぱ、バレてるか……)


「俺が望むのは一つだけだ。たった一つだけ…………」


 瑛土は聖也に近づき、肩に優しく手を添える。


「――死ぬなよ」

「…………」

「本当に困ったら、連絡してね! 前作主人公ばりのパワーで解決してあげるから!」

「それしないって話、俺がしたばかりなんだけど?」


 二人はそのまま聖也の事情に深入りすることなく、この場を去って行った。


「……オレを育ててくれて、ありがとう」


 そう呟くと、聖也はマンションの中へ入っていく。

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