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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第二章 その偽善者は歩み続ける。聖者の行進を。
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第三話 変な口癖は、黒歴史に刻まれるからやめとけ

「なんでずっと黙ってたのよ!?」


 事務所の共有スペースにて、夏実が涼香の両肩を掴んで大きく揺らしていた。


「あんたの護衛が三咲さんの息子だなんて……!!」

「仕方なかったんだ! それを言ったら怒られるのは私だぞ!」

「もし最初から知ってたら……三咲さんに会えるようにお願いしてたのにぃ!!」

「多分、お前みたいな奴に知られたくないから、黙るように言ったんだと思うぞ」


 涼香が珍しく正論をぶちかました。


「和人――和人さんはどちらに!?」

「相手の素性を知って態度を変えるな。和人は外でヤニを摂取してると思うが、絶対に行くなよ。アイドルの護衛をやる上で一番知られたくないことを、知られちまったからな」


「――そうか、和人にも伝えたかったことがあったんだがな……」


 その話を聞いていた社長の拓真が、困ったように頭を掻く。


「社長、なんかあったんすか?」

「重要なことが二点ほど。まぁ、涼香が聞いてくれれば問題ないか…………まず一つ目が、和人と涼香には社宅へ移ってもらいたくてな」

「社宅?」

「今のご時世、アイドルは一般人にも狙われやすい。家もセキュリティの高い場所の方が安心して過ごせるだろう。家賃もタダで、二人分の部屋を手配するぞ」

「おぉ! 防音機能はどうっすかね!?」

「自室で配信するアイドルのことも考えて、防音も良い部屋を選ぶようにしてある」

「おーっし! FPS配信できるぞぉ!!」


(絶対暴言吐きまくるつもりじゃん……)


 近くで聞いていた夏実が、心の中でツッコミを入れた。


「それからもう一つ。涼香には歌手デビューしてもらおうかと」

「ほう?」

「ボイストレーナーから『彼女は花子に並ぶ逸材だから、歌手デビューさせた方がいい』って言われてな。収入源が増えるわけだから、チャレンジしてみたらどうだ?」

「もちろん! 金のためなら!!」


 拓真は涼香の意欲に刺さるような言葉を放ち、彼女はそれに見事流された。


「さて、私は西支部に行ってから、そのまま直帰させてもらう」

「西支部……別の場所にも事務所を構えているのか?」

「そうだ。東西南北の四カ所に支部を分けている。アイドルの人数は少数ではあるが、一カ所に集めると襲撃を受けたときの被害が大きくなるからな。どこの支部に出勤しても問題はないんだが、基本的には皆、馴染みあるところを使い続けるな。本社のようなものもあったんだが……先代社長が殺されたと同時に、建物も崩壊させられてしまった。今は北支部が本社みたいなところだ」

「なるほどなるほど……」


 他の支部が存在することを知った涼香。


「夏実がウザければ他の支部に逃げればいいのか」

「それ、本人の前で言う?」



   ※



「そうだった……あの喫煙所、今月から無いんだったな……」


 その頃、和人はいつもの公園に立ち寄っていたが、月が変わったことで喫煙所が撤去されたことを思い出し、近くのコンビニへ立ち寄ることに。

 公園と事務所との距離は約一キロ。歩いて約二十分の場所にある。

 事務所のすぐ外にも喫煙所はあるのだが、そこにいると絶対誰かにダル絡みされると考えた和人は、敢えて遠くの場所を選んだのだ。

 今日の涼香のスケジュールも完遂しており、このまま直帰しても問題はなかった。アイドルを置いていく護衛はいかがなものかと冷たい眼差しを浴びることにはなるが。


「んげ、ここも撤去されてる……」


 近くのコンビニに寄った和人だが、そこの喫煙所もなくなっていた。


「世間は禁煙ブームってか……事務所のも撤去されそうで怖いな……その場合、涼香が暴れ散らかすと思うが」


 和人は、共有スペースで喫煙してクビになる涼香を思い浮かべながら、仕方なく事務所の方へ戻っていく。


「――やめてください! 私はもう、アイドルじゃないんです!」


「?」


 すると、少女の声が和人の耳に入ってくる。

 治安の悪いこの街で、他人の揉め事が起きるのは不自然ではないが、『アイドル』という単語に引っかかった和人は、声がした道を進み始める。

 廃れた商店街で、社畜の帰宅時間にも関わらず、殆ど人が通っていない。

 和人がしばらく歩いていると、空き地にて二人の男に追い詰められた、アイドルの姿を確認する。


(あの子は、テレビに出てた……!?)


 そのアイドル――いや、元アイドルの正体は麦野希美。


「私を狙っても、何のメリットもないじゃないですか!?」

「いいや、君の話が本当なら、ヘアクラーズと接触して生還している貴重な人物だ」

「知っている情報を吐いてくれれば、俺らも君に危害を加えないからさ……どう?」


 男二人は、希美が出会った青髪の青年について情報を集めようとしていた。


(雰囲気的に、ただのチンピラって訳ではなさそうだ……トラオムの連中か)


 和人は電柱の裏に隠れ、様子を伺っている。

 トラオムである疑いがあるのなら、このまま希美を助けるのが理想的だが、和人自身も気になっていた。

 青髪の青年について――。


「テレビで話した通りです。『青髪』であること以外はわからないです。顔は右目以外隠れていたので……声から、二十代だとは思います」

「君はプロデューサーに襲われそうになったところを助けられたのだろう? その時、青年は能力を使っていたのか?」

「それは…………」


 希美は言葉を詰まらせる。


 ――君は何も見なかったことにすれば、元の生活――こんな男に怯える必要のない生活を送れる。


 青年からの言葉を思い出し、その意味を()()していた彼女は、これ以上情報を漏らすと彼から命を狙われるのではと考えてしまった。

 元々、テレビの取材にも応じるつもりもなかったが、マスコミ関係者がしつこく取材交渉を持ちかけ、その対応に疲れてしまった彼女は、いっその思いで自分の考えを偽りなく公表することにしたのだ。

 結果、アイドル狩りの組織に追われる身となってしまったが。


「なんか面倒くさくなってきたな……こいつマワさね?」

「えっ!?」


 男の一人が、突拍子もない発言をする。


「上から穏便に済ませるように言われてるだろ…………が、話さないのであれば、()()の拷問も、仕方あるまい」


 真面目そうなもう一人の男も、それに便乗する。


(クソッ! アイドル殺しの癖に、頭ピンク色なのはおかしいだろうが!!)


 これ以上は情報を得る前に、希美の身が危うい。

 和人は彼女を助けようと動こうとした――


「――愚かな輩だ」


 その刹那――彼女たちの上空から、大鎌を持った青年が男二人の前に着地する。

 二つの顔を持つ仮面を身に着けていた青年――彼は聖也から俊樹と呼ばれていた男だ。


「んな!? ヘアク――――!?」


 男二人が驚いている間に、俊樹は目にも留まらぬ速度で大鎌を男達の後ろに回し、そのまま引いて首を跳ねた。


(人の倍はある大鎌を軽々と振るうとか、何者だよあいつ!?)


 和人は電柱裏に留まることにし、再度様子を見ることに。

 上手くいけば、大鎌の青年から情報を得られる可能性があったからだ。


「元カモガール所属の、麦野希美だな?」

「は、はい……!」


 希美は体を震わせながら、頷く。

 ヘアクラーズの情報を吐いた自分を殺すものだと、勘違いしているからだ。


「…………安心しろ、俺は君に危害を加えるつもりはない」


 それを見抜いた俊樹は、躊躇うことなく仮面を外し、素顔を曝け出した。


「えっ…………イケメン…………!」


 希美は思わず言葉を零した。

 男性アイドルや俳優とも交流が深かった彼女でもそう思うくらい、俊樹の顔は整っていたのだ。


(おいおい! あんなイケメン顔じゃ、『覚えてください』って言ってるようなもんじゃねぇか!)


 俊樹の顔は、和人の視界にもギリギリ入っていた。


「テレビでの発言を聞くに、君は我が主――〔ブラオ〕様に助けられたみたいだな」

「は、はい! 名前までは、わかりませんが……」

「マスコミのスカムどもが悪いのは承知だが、主について話すとは……主も、事を話せば危険な目に遭うと忠告していたはずだ」

「す、すみません!」


 希美は頭を深く下げた。なお、そこまで強い忠告を受けたわけではないことを、俊樹は知らない。


「過ぎたことは仕方ない……今後も君はトラオムに狙われる可能性が高い。それ以外にも、ヘアクラーズの情報を欲しがる上層部のスカムどもからもな」


(……あの男、スカムスカムって…………普通に馬鹿って言えば良くね? 何のこだわり?)


 和人は俊樹の口癖が気になって仕方なかった。


「君が良ければ、我々が所有するセーフハウスに招待できる。交代で我々が護衛についているから、誰かに襲われる心配もなく、外出もできる」

「ほ、本当ですか!?」(このイケメンと一緒ならいいかも!)


 麦野希美、面食いである。


「あぁ、早速案内したいところだが…………」


 すると突然、俊樹が和人のいる電柱の方を向き、大鎌を構えた。


「――そこにいる、不届き者を排除してからな」

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