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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第二章 その偽善者は歩み続ける。聖者の行進を。
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第一話 第三勢力の存在意義

『続いてのニュースです。昨日、カモガール事務所が襲撃を受け、死者八名を出す事件が発生しました。死者は社長含めプロデューサー、護衛でアイドルに被害はありませんでした。所属するアイドルは全員、予め伝達のあった撮影スタジオに集合していたため、襲撃の被害に巻き込まれることがなかったのです。

 また、今回死亡した八名はアイドルへのわいせつ行為、枕営業の強要を行っていたとの情報も入っています。その営業先となっていた、モキテレビ株式会社の役員三名も同日に殺害されております。現場にある防犯カメラには仮面を被った男女の姿が写っており、アイドルを搾取する悪徳業者のみを標的にした犯行に、本物のヘアクラーズが起こした犯行であると考えられています』


「なんか物騒な事件起きてるなー」


 時刻は午後二時。

 ファルベ・プロダクションの事務所内、共有スペースにて。

 新人アイドルの茜宮涼香は、ソファの上で横になりながら、テレビを見ていた。

 共有スペースは相変わらず禁煙であるため、板チョコを食べて気を紛らしている。


「他人事みたいに言うな」


 涼香の護衛――赤沼和人が楽観的な彼女に対して注意する。


「この事務所が襲われる可能性だってゼロじゃないぞ」

「和人を含めた化け物護衛がたくさんいるのにか?」

「あっちだって化け物みたいなもんだろ。確か、【トラオム・ワーレン】と違ってかなりの少人数の組織で、結成から今まで組織内の犠牲者ゼロって噂だぞ」


「無理に警戒する必要はないと思うよ」


 二人の会話に入って来たのは、花子のプロデューサー兼護衛を担当している湊零だ。


「この事務所、先代社長を殺されてるんだ……ヘアクラーズの一人に」

「!?」

「!?」


 零の口から放たれた事実に、和人と涼香は驚く。


「僕が来る前の話みたいだから、あくまでも聞いた話にはなるんだけどね。先代社長は強引な枕営業とかを許してたみたいで……それが原因で狙われたって。それ以降は被害に遭ってないから、悪事を働いてない限りは大丈夫だと思う」

「本当か? こいつとかアイドルとしてヤバいけど」


 そう言って、和人は涼香の方を指さす。


「どうも、ヤバい系アイドル涼香たんです!」

「自分で『たん』とか付けるな。気色悪いぞ……」

「あー……涼香さんは大丈夫だと思うよ。あくまでもアイドルを搾取するプロデューサーや護衛回りが狙われてるから、アイドルが何か問題を起こす分には問題ないと思う」

「良し! ファンを煽りまくっても問題ないな!」

「少しは感謝の気持ちを伝えろ」


 三人が話していると、ニュースから取材映像が流れてくる。


『番組は、事件前にヘアクラーズと遭遇したというカモガール元所属アイドル――麦野希美に取材しました』

『本当は話したらマズいかもしれませんが……実は所属していたプロデューサーに、枕営業を強いられていたんです。もちろん断りましたが、そしたらプロデューサーの態度が急変して……その時、青髪の男が助けに来てくださったんです!』


「青髪…………」


 その言葉を聞いて和人が真っ先に思い浮かんだのは、聖也の顔だ。


(偶然だと思うが、どうしてもあいつの顔が浮かぶ……)


『彼は私を助けるため、プロデューサーを殺害しました。殺人そのものを容認するつもりはありませんが……誰かを守るために行った行為である事には、変わらないと思います! それに、護衛の方々もアイドルを守るために殺人が許されています。護衛が許されて、彼らが許されないのは、おかしいことだと思います!』


「あの子、私以上にやべぇ事言ってるな」


 ニュースを見た涼香が呟いた。


「そうか? 俺は筋が通ってると思うが。護衛がアイドルを狙うやべぇ一般人を殺すように、あの組織……ヘアクラーズはアイドルを搾取する業界側の人間を殺してるんだろ? 相手にもよるが、俺らは戦う相手が基本格下だ。トラオムとかの組織は例外だが、気が狂った一般人相手にリスクはないに等しいだろ。一方、ヘアクラーズは悪事を闇に葬ることができる上流層を相手にしているわけだ。一般人よりも好き勝手にやべぇことしてる奴を消したことで犯罪者扱いされるのは、おかしいと思ってる」


 和人は自分なりに、ヘアクラーズの行動へ賛同の意見を述べた。


「……僕は、反対かな」


 しかし、零は反対の意見だった。


「彼らの殺人に正当性はあるかもしれないけど、その全ての殺人に正当性があるのか、確認する術はない。もし仮に、ヘアクラーズがアイドル護衛と同じ権限を得たら、きっと彼らの模倣犯が生まれる。その模倣犯が必ずしもヘアクラーズのように相手を精査して、犯行を実行するとは限らない。勘違いを起こして、罪のない業界人を殺すかもしれない。そうなればヘアクラーズの印象が悪くなり、そのような組織が二度と生まれないよう、一般人への弾圧が強くなるだろう」


「確かに……だが、アイドル業界が荒れている今だからこそ、業界の癌となる者を排除する第三者視点の組織が欲しいと思うぞ」

「その通りだとは思うけど、それを作るのは政府だよ。確信犯に任せることじゃない」

「…………」


 零の言葉に、和人は何も言い返せなくなった。


「――それを作ってこなかったから、奴らが生まれたんじゃないか?」


 その中、涼香が会話に入ってくる。


「下級国民を喰ってきてるのは、どいつもこいつも国と繋がりの太い上級国民。そいつらが不利なるような組織、作るわけがないだろ。だからヘアクラーズが下級代表として、法律の通用しない相手と戦ってるんじゃないか? 少なくとも、彼らは愉快犯ではないから、トラオムに比べたらマシさ。自分たちを偽善者たち(ヘアクラーズ)と名乗ってるくらいだしな」

「だが――」


「あの……その辺でストップしていただけますかね?」


 討論の最中、涼香のプロデューサーである琥珀蓮次郎が会話を止めてきた。


「涼香さん、そろそろレッスンの時間なので、移動しましょう! 今日は私も同行しますよ!」

「おぉ、もうそんな時間か。さて、コーチを倒してくるか」

「ボスみたいに言うな。立ち位置としては師匠だぞ」


 蓮次郎、涼香、和人の三人が事務所を後にする。


「…………花子ちゃんの親友みたいだが、今の内に追放するべきか…………()()()()を」


 意見が衝突した零と和人。

 零は、自分の仕事へと戻っていく。



   ※



「問題ない、私の事務所は大丈夫だろう」


 それから約三時間後の社長室。

 ファルベ・プロダクションの社長――阿佐見拓真は、同じくアイドル事務所の社長をしている友人と通話していた。


『本当か? 先代の社長は殺されたって話だろ?』

「あいつは殺されて当然の男だった。……一応、世話になったから無下にはできんが、少なくともヘアクラーズが、今の事務所をわざわざ襲いに来る理由はない。私の知らないところで、悪事を働いてなきゃな」

『まぁ、襲撃を受けてもそっちは問題ないか。護衛が強い奴しかいないもんな。一位はまだあいつ、藍白あいじろくんなのか?』

「……あいつは先代社長が亡くなる前に消えた。今は湊零ってやつがトップを張っている」

『湊、零? 聞いたことないな……』

「お前、本気で言ってるのか? こっちのトップアイドルを護衛してる男だ。プロデューサーも兼任している」

『あぁ、あいつの事か。……今HP(ホームページ)でも確認してるんだが……どうも名前と顔が一致しないというか……どこかで見たことあるような……』

「こう言っちゃ本人に失礼だが、何処にでもいそうな顔をしているから――――」


 ――ガンッ!!


 通話の途中で、扉が勢いよく開かれる音が聞こえてきた。


「はぁ……はぁ……!」


 ノックもせずに扉を開けたのは、所属アイドルの宍戸夏実だった。


『どうした? トラブルか?』

「いや、大事ではないだろう。切るぞ」


 拓真は通話を切り、夏実に事情を尋ねる。


「君がノックしないとは珍しい。何事だ?」

「たたたた、たいへ、大変! 大変なんです! ああああ、あの人が!? あの人がぁ!? ぁあ!!」

「そんなに慌ててどうした、君らしくないぞ」


 明らかに気をおかしくしている夏実。

 すると、二人の男女が社長室に入ってくる。


「……おいおい、せめてアポを取らないか?」

「偶然近くを通って、三咲みさきが行きたいっていうもんですから……すみません」

「いいじゃん! 実家みたいなもんだし!」


 紺色の髪をした男性と、茶色の短髪をした女性。

 その二人は、拓真にとって非常に馴染みのある人物だった。


「こうして会うのは久しぶりだな……星守瑛土ほしもりえいと御島三咲みしまみさき

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