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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第一章 そのヤニカスはタバコ代を稼ぐため、アイドルになる。
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終話 兄はキスで失神し、弟は匂いで興奮する

「ふぅ……なんともなくて良かったぜ」


 病院から抜けたのは、和人。

 彼は脇腹に砲弾を受けたにも関わらず、打撲だけで済んだのだ。

 翔一は怪我が酷く入院となったが、命に別状はないとのこと。

 和人はタバコを吸うため、最寄りのコンビニへ向かっていた。


「おっ! 待ってたぞ和人!」


 コンビニの喫煙所には、涼香が先にタバコを吸って待っていた。


「いつの間にか消えたと思ったら、ここにいたのか」

「私はタバコを吸い続けないと死んでしまうからな!」

「俺が我慢してる中すうタバコは美味いか?」

「美味い美味い!」

「そりゃ良かったな」


 皮肉っぽく呟きながら、和人もタバコに火を点けて吸い始める。


「夏実はどうした?」

「夏実さんは病院にいる。今日は翔一と付きっきりでいるみたいだ」

「なるほど。思ってたより仲がいいみたいだな」

「どちらにせよ、自分のために体張ったんだから、そうしたくなるもんだろ」

「そういうものか……あっ、それで思い出した。和人、こっちこい」


 涼香が他所を向いたまま、和人に手招きする。


「何を考えてんだ?」


 そう言って、和人は涼香に近づくと――


「っ!?」


 和人の思考が急停止する。

 不意に涼香が、彼の頬にキスをしたのだ。


「お前も体を張ってくれたからな。その礼だ」

「なっ…………おまっ…………!?」

「物足りないか? お前がその気なら、家まで楽しみに――って、あれ?」


 涼香が和人の方を向くと、彼はタバコを持ったまま仰向けに倒れていた。

 青年スコルピウスとの戦闘、日々のアイドル護衛業務、そしてブラック企業を辞めた際に休養期間がなかったことで疲労が溜まりに溜まっていた。その上で、心拍数の急上昇によって体に負担がかかり、気絶したというわけだ。しかし端から見れば、涼香にキスされただけで失神したピュア過ぎる青年にしか見えなかった。


「おいおい、いくらなんでもピュア過ぎないか? もう二十歳になったんだろ? ……何がともあれ、病院が近くて良かった」


 涼香は体格差のあるにも関わらず和人を軽々と持ち上げ、病院へ運んでいく。



   ※



「翔一さんたち、大丈夫かな?」


 同時刻、花子と零は仕事帰りで街中を歩いていた。その道は、和人と涼香も帰路として使っている道だ。

 花子はトップアイドル。目立たないように帽子を深く被っている。

 彼女は翔一と和人が戦ったことを知り、身を案じていた。


「大丈夫だよ。翔一は重傷で入院することになったけど、命に別状はないって。和人くんは軽い打撲だけみたい」

「良かった!」

「翔一が苦戦した相手を倒すなんて、和人くんは本当に只者じゃないみたいだね」

「そりゃもちろん! はぁ~、聖也くんも来てくれないかなぁ……」

「…………その名前、最近よく出すね」

「もちろん! 私の大切な―――――たいせつ、な…………」


 何かを目にした花子は、言葉と一緒に足も止める。


「花子ちゃん?」


 気になった零は彼女の視線の先を追ってみる。

 視線の先には、公園がある。和人が気晴らしに行く公園。

 その喫煙所に、花子が大切に想う人の姿があった。


「来週、実行に移す。オレも同行――どうして拒否する? オレは後方でボス面するつもりはない」


 それは、片手にタバコを添え、誰かと通話している聖也の姿だった。


「聖也くん…………!」

「ちょ、花子ちゃん!?」


 花子は無我夢中で走り出す。その途中で帽子を落とすも、気にも止めずに走り続ける。

 その気配に気づいた聖也が振り向き、花子の姿を確認すると焦り出す。


「すまん、切る!!」


 咄嗟に電話を切った聖也。それと同時、花子は勢いよく聖也に抱きついた。


「聖也くん! 会いたかった!!」

「花子、さん……!?」


 聖也は普段の優しい口調に戻ると共に、花子に抱きつかれた事実と感触に頭が爆発しそうになる。

 髪がなびいたことで彼女の匂いが直に伝わり、今にも理性が壊れそうな状態だ。


「ダメだよ花子ちゃん……! マスコミ関係者に撮られたらマズいって!」


 零が慌てて花子の元へ駆け寄る。

 SNSが普及した現代、一般人に撮られてもマズいことは置いといて。


「…………」

「!?」


 すると、聖也が零を睨みつける。

 只者ではない圧に零は思わず体をビクッとさせた。


()()()が、聖也…………()()にはない、禍々しいオーラを纏っている……()()()()()()()()()()()


 零の心の声は、普段の優しい口調とは別物だった。


「ずっと会いたかったよ! 聖也くん!」

「あ、ありがとう……」


 花子の言葉を聞き、聖也は動揺しながらも受け答える。


「もう! 生きてるなら既読だけでもつけてよね!」

「既読……あぁ! ごめん! 私用のスマホが壊れてて……しばらくしたら、新しいスマホが届くから、ちゃん返すよ」

「本当に心配してたからね! 私も無視しちゃおっかなー」

「本当にごめん! 悪かったと思ってるから!!」

「あはは! 嘘だよ。聖也くん、相変わらず真面目だなぁ」


 花子が満面の笑みで笑う。

 その笑顔は、他の人の前とは違う、本当に喜んでいるかのような笑顔だ。


「数年経っただけじゃ、変われるわけないよ」


 聖也は一度タバコを口に挟み、煙を吐き出した。

 普段の彼なら、花子の前で臭いのキツいタバコを吸う真似はしない。突然の再開に動揺していた彼は、癖で吸ってしまったのだ。


「!?」


 聖也がタバコを口から離すと同時に、花子がそのタバコに口を付けたのだ。


「ゴホッ! ゲホッ!」


 これまで一度もタバコを吸わなかった花子は、咽せてしまう。


「花子さん!?」

「うえぇ……思ってたより不味いかも……」

「ダメだよ! 花子さんみたいな人が、こんな体に悪いもの吸っちゃ!」

「でも聖也くんは吸ってるよ?」

「僕は……その…………」

「あははっ! 喫煙者って、そうじゃない人にダメって言うよね! 私が知り合った喫煙者、みんな同じ事言ってたよ! ……私も、聖也くんに吸って欲しくないって思ってるよ」

「…………」


 聖也は無言で、吸いかけのタバコを灰皿に落とした。


「……左目、まだ治らない?」


 花子は聖也の左目付近を優しく触りながら、呟くように聞く。


「傷は塞がってきてるけど、もう少し時間がかかりそうかな……回復しても、常時開けられるかどうか……」

「そう、なんだ……ごめん、私のせいで――」

「花子さんは悪くない! ……僕が弱かっただけだから、気にしないで。それに、ボス相手に無傷で勝てるとは思ってなかったから……」


(――本当に、こいつがトラオムの先代ボスを殺してるんだな……驚きだ)


 会話を黙って聞いていた零が内心驚いている。


「あっ、そうだ!」


 すると花子は思い出したかのように、聖也に一番伝えたかったことを話す。


「聖也くん、私の事務所の護衛にならない?」

「…………!?」


 その提案に、聖也は驚いた表情を見せる。

 既読は付けなかったものの、その提案をチャットの通知で見ていたが、それを本人の口から言われると重みが違ってくる。


「和人くんも、涼香先輩の護衛として入ったんだよ!」

「そう、なんだ……」


 当然、この事実も把握している。


「私の護衛として入れるように、社長と掛け合うから! もし断られたら、アイドル辞めるつもり!」

「そ、そこまでして僕がいいの!? 後ろにいる彼が、護衛なんでしょ!?」

「そうだよ。あの人――零さんに何の不満もないけど、プロデューサーも兼任してて大変そうなの。だから、零さんのためにも入って欲しいかなーって……ダメ?」

「…………」


 数秒間、沈黙が漂う。

 そして聖也は、ゆっくりと口を開く。


「……ごめん。すぐには答えを出せないかな。それに、今の仕事で大切な案件も任されてるし、すぐには就けないかな……」

「…………わかった。待ってるからね。ずっと」

「ありがとう。これから、同僚と会う予定があるから、この辺で」


 聖也は花子に背を向ける。


「――僕なんかのために、貴重な時間をありがとう」

「またね! スマホ新しいの届いたら、絶対連絡してね! いつでも返事するから!」


 花子は聖也に向けて大きく手を振る。

 聖也は振り返る事ができず、そのまま歩き去って行く。

 涙を流す顔を、彼女に見せるわけには行かなかったから――――








「…………」


 しばらく歩いた聖也は、誰かに電話をかけ始める。


「――オレだ。さっきはすまないな」

『お気になさらず、我があるじ。何かトラブルでも?』


 電話越しから、聖也と同年代の男の声が聞こえてくる。


「昔の親友と出会してしまっただけだ。素性がバレるわけにはいかなくてな」

『親友……和人様ですか?』

「いや、あいつではない、別の親友だ。それよりも、来週の件についてだ」

『カモガール事務所襲撃の件ですね』

「当然、オレも同行する」

『我が主、『ヘアクラーズ』も人数が増えました。皆をまとめる主としての威厳を――』

「オレは皆を部下だとは思っていない。勝手についてきてるだけではあるが、大切な仲間だ。皆を駒として扱う気はない」

『有り難き言葉です! 我が主!』

「お前のそれも、いい加減やめてくれると嬉しいがな…………何がともあれ――」


 聖也は立ち止まり、宣言するように言葉を吐く。



「来週、カモガール事務所を潰すぞ。搾取されるアイドルを救うために」



 第一章 完



 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

 第一章の段階でここまで多くのブクマ、評価、そして一件も届くとは思ってなかった感想をいただくとは思いませんでした。本当にありがとうございます! おかげさまで、モチベを崩すことなく、ほぼ毎日更新を続けることができました!

 順調に投稿していけましたが、あくまでも『不定期更新』ではあるので、突如更新ペースが落ちてしまうかもしれません(それでも週二回以上の更新ができるように心掛けます)


 第二章に入る前に、軽いキャラ紹介を幕間として挟む予定です!

 今後も更新速度を落とさないように頑張りますので、よろしくお願い致します!!

 また、ブクマや評価、感想をいただけると励みになりますので、少しでも作品を面白いと感じたらお願い致します!!

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