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エンビースターズ ~そのアイドルは残り火でヤニを吸う~  作者: 白沼 雄作
第一章 そのヤニカスはタバコ代を稼ぐため、アイドルになる。
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第十二話 馬鹿げた来客

「流石に異常はねぇよな……」


 涼香と夏実が仕事をしている最中、翔一は警備のため外の巡回をしていた。

 彼は建物の周辺を三周していたが、異変は見つからず、和人たちの元へ戻ろうとしたが――


「……おいおいまさか、フラグを回収しなきゃいけねぇのか?」


 建物の裏口付近に停められた、謎の軽自動車。

 帽子を深く被った男がダンボールを車から降ろし、建物の中へ入ろうとする。

 明らかに怪しい男に、翔一は溜息を吐く。


「……あんた、ちょっといいか?」

「!? な、なんでしょうか?」


 男は翔一に話しかけられ、露骨に動揺を見せる。


「俺はこの建物の関係者なんだが……その荷物は何処に運ぶ気なんだ?」

「会社の上司に頼まれまして……五階のオフィスに届けてこいって言われまして……」

「ほう、中身を聞いていいか?」

「ぼ、僕もわかりません! 上司にダンボールのまま渡されたので……中身も見ないよう、言われたので……」

「そうか……ところで、なんで俺が中身を聞いたか、わかるか?」

「い、いえ……」

「届け先の五階の関係者なんだよ、俺が」

「えっ!?」


 翔一の発言に、男はビクッと体を震わせる。

 翔一はハッタリをかました訳ではない。撮影スタジオが五階にあるため、事実を言っているだけなのだ。


「俺が責任持って届けるから、お前は帰れ」

「そ、それはマズいんです!!」

「馬鹿野郎! お前の方がマズいんだよ!! 早く荷物を置いて逃げろ!! じゃねぇと――」


 ――バンッ!! バンッ!!


 車の方から銃声に似た音が聞こえてきた。


「……クソ、胸糞悪ぃな」


 二発の弾丸は翔一の方へ飛んできたが、目前の男を盾にして、弾丸から身を守った。

 男の胸と頭に弾丸が当たったため、男はそのまま命を落としてしまう。


「いやいや、人を盾にしておいて『胸糞悪い』はないっしょ!」


 すると、車の中から薄茶色の髪をした青年が降りてくる。その右手には、ダンボールで出来た拳銃が手に持たれていた。

 翔一は、荷物を運ぶ男はブラフであること、車の中に何者かが潜んでいることを見抜いていたのだ。


「てめぇが撃たなきゃ、こいつは死ななかっただけだ」


 翔一は慣れたように男を投げ捨てる。

 アイドル狩りとの戦闘経験が豊富であるが故に、倫理観もおかしくなっている。翔一に限らず、感覚が麻痺する護衛は少なくないのが現実だ。


「そりゃ、悪いことしたね。でもまぁ、どのみち殺す予定だったし、手間が省けたよ」

「てめぇ、トラオムの野郎か? ……しかも、只者じゃなさそうだな」

「流石にわかるか。小豆山翔一くん」

「フルネームで呼ぶな、気色悪ぃな」


 翔一は背中に隠し持っていた日本刀を取り出し、青年に向けて構える。


「殺される前に自己紹介しとかなきゃね……!」


 そう言いつつ、どこか余裕そうな青年も翔一に合わせ、ダンボールの銃を翔一に向ける。


「【トラオム・ワーレン】第八幹部――『スコルピウス』 冥土の土産によろしく頼むよ」

「無様に死んで、全国のさそり座に詫びてこい!」


 翔一は青年スコルピウスに向かって一直線に走る。

 青年はダンボール銃の引き金を引き、弾丸を放つ。その弾丸もダンボール製だが、発射速度から生身で受けたら無事では済まない。それ以上に、実弾を受けるよりも悲惨な事になってしまうのを翔一は直感で読み取っている。

 翔一は減速せずに弾を紙一重でかわし、青年に袈裟斬りを落とす。

 本物の日本刀から放たれる斬撃は、和人と戦った時以上に重いものであった。


「いいねぇ!!」


 青年は笑いながら、ダンボール銃本体で日本刀を受け止める。銃はダンボールで出来てるとは思えないほど硬く、日本刀の刃を難なく受け止めていた。 

 青年はそのまま銃の引き金を引き、翔一の顔を撃ち抜こうとする。


「舐めんな!!」


 翔一は弾丸をかわしながら身を翻し、その勢いで横に剣を振るう。


「【ヘユーレン】!!」


 それに合わせて能力を発動。横に振った攻撃は青年が屈んだことで空振りしたが、実体化した斬撃が飛び始める。


「【フール・ボード】!」


 青年も能力を使い、ダンボールの銃を剣に変え、翔一に斬りかかる。

 彼の能力――【フール・ボード】は、ダンボールを変幻自在に形を変え、その硬度も操作できるシンプル且つ、馬鹿みたい(フール)な見た目の能力だ。

 翔一は日本刀で攻撃を受けながら、後方に下がった。


「君の能力、知ってるよ!」


 青年は後ろから迫り来る斬撃の音を聞き、目視することなく屈んで避ける。それと同時に剣を銃に戻し、弾を翔一へ放った。


「【ヘユーレン】――《マルチプル・バウンド》!!」


 翔一は弾丸を避けた後、戻ってきた斬撃を打ち返した。

 すると、その斬撃が三つに分裂。それぞれが別の軌道を描き、見えない壁にぶつかるように急転換しながら、青年に迫ってくる。


「捌けるなら捌いてみろ!」


 翔一も青年へ向かって直進し、日本刀の攻撃を仕掛ける。


「本当にいいねぇ!! そこら辺の護衛とは格が違う!!」


 青年は飛ぶ斬撃をかわしながら、翔一本人からの攻撃も防いでいた。

 翔一も青年が合間に挟んでくる銃撃を回避しながら、斬撃を打ち返して速度を加速させる。不規則な軌道とリズムで飛び回る斬撃の雨にも関わらず、青年に攻撃が当たる気配がない。


「でも攻撃パターンが単調だ」


 青年は大きく後ろに跳躍し、ダンボール銃を鞭に変化させ、翔一の日本刀に絡ませる。

 日本刀を奪おうとする動きに、翔一は握力を強めてそれを抑える。


「【フール・ボード】――《カード・キャノン・ボード》」


 青年がその場で指を鳴らす。


(……奴の鞭に変化が見られない。まさか……!?)


 翔一が振り向く。

 死体となった男の隣に置かれたダンボールが変形し、大砲になった。男が運ぼうとしたダンボールの中身は空っぽだった。しかし、青年がそれを利用してスタジオ内でアイドルを殺害する予定だったのだ。


「クソッ!」


 大砲から砲弾が発射され、翔一は思わず飛ぶようにかわした。

 日本刀を手放すことは無かったが、それが裏目に出てしまう。


「そうなるよねぇ!!」


 その一瞬の隙を突き、青年が鞭を一気に引っ張った。


「やべッ!!」


 翔一の体が宙に舞い、飛んでいた斬撃が自分の体へ当たる軌道上に入った。


「まだだ!!」


 翔一は斬撃を蹴り飛ばし、青年の方角へ飛ばした。

 飛ぶ斬撃は、翔一本人であれば刀でなくとも、道具を咬ませれば弾き返すことができる。今回は靴底で弾き返したが、万が一肌に触れれば本人でも斬り刻まれてしまう。


「残念だけど、ここで終わりだよ」


 青年は鞭を拳銃に戻し、斬撃をかわしながら銃弾を翔一に浴びせる。


「ぐはッ!!」


 不安定な姿勢で宙に舞った翔一がそれを避ける術はなく、腹に弾丸を受けてしまう。

 翔一は地面に叩きつけられるが、素早く体勢を整えて見せた。これまで何度も負傷してきた翔一にとって、弾丸を受ける痛みに耐えることは造作もなかった。

 しかし、今回は話が変わってくる。


「ほら、()()()()()()()()!!」


 青年が宙に指で円を描き始める。


「今度はどんな小細――ぶふッ!!」


 突如、翔一が血を吐き出す。

 彼が受けたダンボールの弾丸は体内に残っていた。青年はそれを操作し、翔一の内蔵を滅茶苦茶にしていたのだ。


「ぐっ……ぶふぁ…………!!」


 これには耐えられず、翔一は日本刀を落とし、大量の血を吐きながら倒れてしまう。


「おや、意外とあっけないね。君に殺された同志が多かったのに……さて、どうしようか?」


 青年は動けなくなった翔一に歩み寄る。


「このまま殺してもいいんだが……せっかくだし人質に取る方がいいか!」

「……無駄、だぜ」

「ん?」


 翔一は体を痙攣させながらも、言葉を吐く。


「俺の護衛対象は……自分が死ぬくらいなら、俺を見殺しにするさ…………同伴してるアイドルも、その護衛も――」






「――――んな馬鹿なことするかよ!!」






「!?」


 何者かが青年に殴りかかろうとした。

 青年は後退しながらかわし、その人物に銃を向ける。


「? 君はデータにない…………新米護衛かな?」


 翔一を助けに来たのは他でもない、和人だ。


「何やってる……夏実たちを連れて、逃げろ…………!」

「護衛の先輩を見捨てられるわけねぇだろ!」

「馬鹿が……護衛だからこそ、守るべき対象のためだけに動け……護衛が護衛を見捨てるなんて、日常茶飯事――――」

「うるせぇ! 護衛とか関係ねぇ! 俺は守りたいものを守りたいだけだ!!」


 和人は、護衛としての使命より、自信の我儘を優先した。


「――そう、それでいい。それでこそ、私が憧れた和人だ」


 すると、建物の裏口から、二人の人物が出てくる。

 その二人は、守るべき対象であるアイドル――涼香と夏実だ。


「翔一!!」


 彼の悲惨な姿を見た夏実が、慌てて駆け寄る。


「ラッキ~!」


 青年は夏実に銃口を向け、弾丸を放つ。

 その弾丸は正確な軌道で、夏実の頭へ飛んでいったが――


「…………へぇ~。やるねぇ、君」


 弾丸は夏実に当たる前に、日本刀によって切断され、他所に散った。

 和人が地面に落ちた日本刀を素早く拾い、弾丸を斬ってみせたのだ。


「夏実! 和人が止めている間に彼を中へ!」

「わかってるわよ!!」


 夏実は「重い……」と呟きながら、負傷した翔一を抱えて建物の中へ避難した。


「――先に五月蠅そうな女から殺すか」


 そう言うと、青年は涼香の方に銃口を向け、弾丸を放つ。

 和人とも距離がある。彼が助けに入るのは困難であった。


「よっと」


 しかし、涼香は当たり前のように弾丸をかわしてみせた。


「!?」


 これには青年も驚きを顔に出す。


「見たところお前、アイドル狩りの連中だろ? まさか、アイドルがただ守られるだけの存在だと思っていたのか?」


 涼香はタバコに火を点け、煙を吐く。


「思い知らせろ和人!! 最強アイドルとなる私に付く護衛も、最強であることを!!」


 涼香はタバコを和人へ投げ飛ばす。彼はそれを目視せずに受け取り、そのタバコで一服する。


「最強言われると、かえって寒気がするんだが――」


 和人はタバコを地面に落とし、踏みつけて火を消した。


「お前がそう言うなら、俺はその『最強』になってみせるだけだ」


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