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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

踊り

作者: 壱原 一

準夜勤。片道30分の徒歩通勤。半ばに素敵な公園がある。


人工林や遊歩道を備えた結構な規模の公園。


夕方、出勤の横目に見ると、走る人や犬と散歩する人、遊ぶ子供やお喋りする大人達でのどかに賑わっている。


学生と思しき人達が隅で踊っている事もある。


スマートフォンで音楽を掛けて、動画を撮っている様子もあって、時に近くで大人と見物していた子がつられて一緒に踊り出し輪に加えてもらうなどの爽やかな一幕も見られる。


先頃、眠い目を瞬きつつ、常の如く出勤に通り掛かると、傍らに行き過ぎる公園の隅で、学生風の踊る1人と、真似しているらしい小さな子供の組み合わせを見掛けた。


やや風が冷たい所為か、園内は比較的閑散として、他には遊歩道を走るランナーと、遠くのベンチで本を読んでいるご老人と、ご老人の周りを徘徊する鳩の群れしか居ない。


保護者は?と視線が泳いだが、さっと巡った範囲には見当たらない。


範囲外に居るかもしれないし、あるいは踊っている人がきょうだいとかかもしれない。


放念して視線を戻し、深夜まで勤労に励み、帰路もまだ彼らが踊っている。


子供はぴょんぴょん跳びはねて、だばだば手足を揺する位の可愛らしくぽってりした動きだが、踊っている人は渾身の迫力を帯び、精力的に澱みなく動き続けている。


指先までびぃんと強張らせ、放らんばかりに手足を振って、そこここでがくがくつんのめって静止し、次には卒倒と思われるほど突如だらりと脱力する。


今までに見掛けてきたどんな踊りとも違う、不思議な動きだった。


*


翌日出勤した時も、休みを挟んだ次の日も、以降、夕方と深夜に公園脇を通るたび同じ人と子供の組み合わせが踊っている。


体格や髪型から同じ人と分かる以前に、服が、更には立ち位置さえ寸分違わぬように見える。


猛暑や荒天の日でも、残業で明け方に通っても居る。


まるで切り取って貼ったが如く所定の動作を繰り返し、ぽんぽんばたばた子供が跳ねて、するするがくがく人が踊っている。


さながら彼らを主点に据えたタイムラプス映像を見ているような奇妙な心持ちになり始める。


ここ暫くの曇り空が崩れて土砂降りの雨が降った昼過ぎ、緊急で早出した折にも、雨ざらしで踊り続けている。


雨による寒さとは別種の冷えが、もったりと背筋にわだかまる。


*


その後労災による怪我で幾らか入院した。退院して復調した夕方、ご無沙汰の出勤で公園を通ると、例の組み合わせは居なかった。


代わりに彼らが居た辺りの、彼らで隠れていた植え込みの根元に、瓶に挿された傷んだ花を見た。


知らぬ間に足が止まって、その花を眺めていたところ、あの小さな子と同じ年頃の子が駆けて来て、しばし虚空に小首を傾げ、頷いてこちらを振り返り、笑って大きく手を振って、広げた両手を両耳の背に当てる。


人懐っこく眉を上げ、剽軽におどけた顔をして、「耳を澄ませろ」と言う風にぐうっと上体を乗り出し、そこで大人に呼び戻されて元気よく応え去って行った。


至って無邪気な笑みだったので、つい耳を澄ませそうになり、しかし子供が去った後の傷んだ花のある植え込みに耳を澄ます理由もないので取り止める。


薄らぬるい風に吹かれて、傷んだ花がだらりとくずおれ、大振りにぶらつき、わんわん揺れる。


その動きはまるで延々と踊る人、跳びはね続ける子供に似ている。


いわく言い難い居心地の悪さが足元からせり上がって来て、追われるように歩き去り、以来、なんとなく公園が視界に入るのを避けている。


専ら夕方や深夜に俯いて通り過ぎる時、のどかな人の賑わいや、一転した無人の静寂に、うっかり耳を澄ませたら、話し掛けられるイメージが偶に浮かぶ。


小さな子供と手を繋いだ、学生風の若い人が、こちら向きに真横に並んで立つ。


聞く耳を待ち構えている。


とても素敵な公園が、めっきり苦手になってしまった。



終.

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